1p.旅行記の出発点は白刄
根の国、それは神秘と人間の共存世界。
誰もが一度は想像する平和なファンタジー。
……と世間は思うと思う。当然私もそう思ってる。
机に座って本日の宿題──根の国の歴史を書きながら窓の外を歩くエルフを見かける。
神秘的な服ではなく、普通のTシャツにスカートを履いて歩くエルフの姿はなんとも言えない。
机の上の歴史のノートに書くためにペンを走らせた。
『白刄──エルフが住まう区。元々は馬族が住んで居たが、上から降ってきたアルフヘイムのエルフたちが馬族を追い出したところから始まる。』
『白刄には、飴が雨の代わりになった』
ふと、パラパラと外から降る雨の音。
この雨の音は…
「稲穂〜!ちょうちん飴降ってきたから窓閉めて〜」
部屋に突撃してきた双子の妹、鵜ノ川 風。腰まである私と同じ深緑の髪の毛が風で揺れる。
私の名前は鵜ノ川 稲穂。白刄にある祭雨市に住んでいる。
「白刄はこれだから…はいはいわかったわよ」
窓を閉めようと立ち上がり、窓に手をかけると頭に何かが当たった。
「いっっっった!!」
"ごめんなさーい!"
ちょうちん飴で遊んでいたらしい、小学生軍団だった。エルフ、人間、妖怪…。
「ほら、もぉーユーナがちょうちん飴で遊ぼうって言うからぁ」
"なによ!紳助だっていいねって言ったじゃない!"
「二人とも喧嘩しないで〜…」
ちょうちん飴が当たったおでこをさすりながら、3人の子供を見下ろす。
金色の髪の毛のエルフ、ユーナと呼ばれた女の子はぽこぽこと怒り、人間の男の子紳助は半袖短パンというガキ大将のような格好で茶短髪でむすっとしている。
間に挟まれている笠小僧は、二人の様子に呆れたようにため息をついているのを見るに、いつものことなのだと思う。
「…ふふ、構わないわよ。それより3人とも、ちょうちん飴はそこそこの大きさがあるでしょう?怪我をするからちゃんとお部屋にいないとダメよ」
注意をすると顔を見合わせて気まずそうに頷いたあと、3人が頭を下げてきた。
「「"ごめんなさい…"」」
こうして謝れるだけ、親からの教育はしっかりしてることがわかり、素直に謝れるこの子達に少し笑ってしまう。
「これからは気をつけるようにね」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
去っていく3人の子供を見送り、おでこに当たったちょうちん飴を見る。10センチほどの大きさを持つちょうちん飴。
色はカラフルで、提灯のように赤と白の縦線が入っているのと、真っ黒の横線が上と下にあるのを見て学者がちょうちん飴と付けた…らしい。
「……10センチそこそこの飴が降ってくるのってだいぶ鈍器よねえ」
だから、屋根は鉄製でできている。下手したら屋根が穴を開けるから。
白刄の屋根は基本的に全て鉄製だ。稀に、普通の屋根の人もいるが、降ってくる飴の被害を受けているのをテレビでよく見る。
「ねえねえ、稲穂〜昨日近所のさ〜」
両手で何かを持ちながら、妹が入ってくる。振り向けばその両手には大量の宝玉果物。
「…近所のお姉さんでしょ」
「そう、エル姐が昨日東城で宝玉果物買ってきたらしいからお裾分けだってさ。あとちょうちん飴もだいぶ集まったから、後で食べよ!」
「…風、勉強はしたの?」
「やだぁ!お母さんみたいなこと言わないでよ!やったよ!」
「ならよし。そうね息抜きも必要だし…食べようかしら」
◆
「まずはハンマーで砕いて〜」
ふんふんと楽しげに風が、掌サイズの小さなハンマー片手に、取り出した宝玉果物を叩く。
ぱき、ぱき、と音を立てて崩れていく宝玉果物は、不思議なことに綺麗に割れた。
「ぶどうだ…」
「りんごと桃もあるよ!」
りんごと桃を取り出して嬉しそうに笑う風にこちらまで笑ってしまう。
「お皿用意しとくわね」
「はーい!」
──宝玉果物。東城の方面で有名な果物だ。
中から果物が出てくる…のではなく、見た目も中身も宝石そのもの。紫の透き通った宝石の塊をパキパキ割って、その欠片を食べるのが主流。
普通の果物のようにうさぎりんごにしたりなんてできないけど、口に入れて初めて果物の汁気を感じれる不思議な食べ物。
「そういえばこの間鳴海先輩が春夏秋冬祭りで活躍したじゃん、あの後バタバタしちゃったけど」
コンコンと果物を叩くと、ぶどうの粒がひとつひとつ落ちていく。
「伊予先輩に褒めて褒めて攻撃したから怒られて顔腫らしてたんだよね!」
「まあ、いつものことね」
「ね!」
横からつまみ食いがてらぶどうを一粒手に取る。風も同じように一粒手に取っていた。双子は似るものね。
「ん〜!おいしい!」
しゃくしゃくとした飴のような、柔らかいキャラメルのような食感。果物らしい果汁は落ちてこない代わりに、ジュワッと水分が口に広がる。
「琥珀糖みたいで美味しいよねえ」
「ね、美味しいわよねえ」
外側の皮と内側の実では色が違うので当然宝石も変わる。ぶどうの紫はアメジスト。内側の緑はペリドットだ。
「東城の人たちってめっちゃ宝石に詳しいよね」
「まあ、宝石が降ってくるんだもの嫌でも詳しくなるわよねえ」
東城の不思議な話はまたにして…。
同じように桃とりんごを叩いて軽く割ればさらに盛り付け。
「デザートの時間だ〜!」
急ぐように座った風は果物が入った皿とちょうちん飴を置く。
私は冷蔵庫からお茶を取ってコップに注いだ。
「「いただきます」」
美味しい食べ物は双子で分け合うのが私たちのルールなのだ。
ちなみに10センチもあるちょうちん飴は夜になると光るけど、妖精や虫が集るので早めに回収しないといけない。溶けたら水になるから基本的には大丈夫なんだけど……。
あと……。
「ちょうちん飴は光に掲げると小さくなるのよねえ」
ちょうちん飴を部屋の電気に向かって掲げると、だんだん小さくなり、一口サイズの飴になる。
口の中に放り込めば、意外にも今日のちょうちん飴は紅葉の味がした。
風は桃を一口食べながら「そういえば」と呟く。
「テレビで前その理由は『ちょうちん飴は雨として降ってくる際、水分をたくさん含んで大きくなるから、本来の要素である光を当てると小さくなる』……みたいなこと言ってる学者さんがいたよ」
「へぇ〜面白いわねえ…ノートに書いとこうかしら」
「えー、また稲穂書いてるの〜?宿題だけじゃなくてそれ趣味じゃん」
「そうよ。趣味よ。神秘とそれぞれの地区にある不思議な出来事面白いでしょ?」
「まあ……面白いか」
「面白い。今度また何かあったら教えてちょうだい」
「じゃあ、雨水と、霧雨市に行こうよ」
「良いわね〜霧雨なら雨降り飴が有名ね」
「決まり!」
風が嬉しそうに顔を綻ばせる。なんだかんと言いながら神秘に興味があるのは風も同じなのだ。
どこまで行っても、私たちは双子だということなのだと思う。深緑髪がサラリと揺れる。
「稲穂のツインテールやっぱ良いね、似合ってる」
「急に何よ。褒めたって出てくるものはないわよ」
「にひひ、わかってるよ〜」
パクッと飴を一口。外で降っていたちょうちん飴はいつの間にか音がしなくなっている。
にわか雨だったのかも。
明日は何をしようかしらね。




