侵略の時②
ある街角。
「助けてーっ!」
あちこちから悲鳴が響き渡る。一体の猛攻獣が大通りへと飛び出してきた。
「どこか仕事ないかなぁ……」
ササス・サスサがぼやいた、その時だった。
「ん? 何の音?」
振り向くと、そこには猛攻獣がいた。
「うわ、最悪……」
ササス・サスサはうんざりした表情を浮かべる。猛攻獣がどれだけ厄介な相手か、彼女は嫌というほど知っていた。
「クビになったとはいえ……守るべきものは守らないとね。」
そう言うと、彼女は市民たちの前へ飛び出した。
身支度を整えようとして体を探るが――。
「……」
銃はすでに没収されていたことを思い出す。
「……」
一人と一匹は、しばらく無言で見つめ合った。
「!!」
我に返ったササス・サスサは勢いよく木の上へ飛び乗る。そして枝の上から周囲を見回した。
「まずいな……この辺りは近代都市ばかり。利用できる地形がない。」
そうつぶやいた瞬間、猛攻獣が咆哮を上げ、木をへし折る。
ササス・サスサは街灯、電柱、木々を次々と飛び移りながら距離を取る。
「猛攻獣が厄介なのはここなんだよね。痛みも疲れも感じないから。」
そう言いながら、なおも必死に逃げ続ける。
「人の少ない場所まで誘導するしかない……。誰かが通報してくれれば、元同僚たちが来てくれるはず。」
そう自分に言い聞かせながら、彼女は走り続けた。
――静かな通り。
「ふわぁ~、退屈だなぁ。」
サリスが大きなあくびをする。
「どうした? また魔獣でも出てきてほしいのか?」
沢恩が冗談半分に言う。
「ガオォォッ!!」
その直後、二人の約五百メートル先の交差点を、一体の猛攻獣がエルフ族の女性を追いかけながら横切った。
「「本当に来た!?」」
二人はほぼ同時に叫んだ。
「ど、どどどうするの!?」
サリスが沢恩を見る。
「落ち着け。まずは通報だ。」
沢恩はすぐに通報を済ませた。
そのあと、二人はその場に立ち尽くす。
「私たちに何かできることあるかな?」
サリスが尋ねる。
「……」
沢恩は黙って考え込む。
「サリス、お前、飛行には自信あるか?」
「もちろん! 完璧にコントロールできるよ!」
サリスは強がって答えた。
「ならいい。」
沢恩は近くにあった給湯器へ目を向ける。
「猛攻獣って、防御力はそんなに高くなかったはずだ。」
彼は熱湯をバケツいっぱいに汲みながら言った。
「このあと、お前が俺を抱えて飛ぶ。俺が熱湯をかけてヘイトを取る。その後、俺を高いビルの屋上へ降ろして、お前はすぐ逃げろ。狙われるのは全部俺になる。」
沢恩は真剣な表情で作戦を説明した。
「……うん。それしかないね。」
サリスは不安そうにうなずいた。
「お願いだから、ちゃんと飛んでよ……。」
サリスが小さな声で祈る。
「やっぱり飛ぶの苦手なんじゃないか!」
沢恩は聞き逃さなかった。
作戦開始。
サリスは沢恩の服をつかみ、そのまま空へ舞い上がる。
「まずい……もうヘトヘト……限界だよ……」
ササス・サスサは息を切らしながら逃げ続けていた。
――そのはるか上空で、彼女の知らないところで。
「もう少し!」
サリスが叫ぶ。
「まだだ。もっと近づけ!」
沢恩が指示を飛ばす。
「あと少し!」
サリスは高度を下げ、猛攻獣へ接近した。
「バシャァッ!」
熱湯が勢いよく降り注ぐ。
「ガオオオオオオッ!!」
猛攻獣は怒り狂って振り返り、沢恩を標的にして追い始めた。
「ここで降ろすよ!」
サリスは沢恩を屋上へ降ろすと、そのまま一気に飛び去った。




