侵略の時③
ササス・サスサはふと違和感を覚えた。
「あれ?」
さっきまで背後にいたはずの猛攻獣の気配が消えている。
振り返ってみると、本当に何もいなかった。
「大丈夫ですかーっ!」
突然、空の上から声が降ってくる。
ササス・サスサは反射的に見上げた。
「早く避けてぇー!」
「え? どこ――」
言い終わる前に、
ドーン!!
何かに思い切りぶつけられ、そのまま地面へ転がった。
「ご、ごめんなさーい!」
「いったぁ……」
不満そうに顔を上げると、目の前には金髪の小さな少女が立っていた。
その頃には、暴乱現象制圧隊の隊員たちも現場へ到着していた。
二人はその場に腰を下ろす。
「君、どこから来たの? なかなか勇敢じゃない。」
ササス・サスサが笑って褒める。
「私はサリス! 沢恩と一緒に来ました!」
サリスは少し誇らしげに胸を張った。
「沢恩? その子はどこ?」
「えっと……あっ!」
サリスの表情が固まる。
「そうだ! 屋上に置いてきちゃった!」
「まずいまずいまずい!」
慌てて飛び立とうとした、その瞬間だった。
「……待って。」
ササス・サスサが空を見上げる。
「あれ……空に黒い柱が二本……?」
適当にそう表現したが、すぐに二人は正体を理解した。
「鳥魔獣……!」
空を覆っていた"曇り空"――その正体は、無数の鳥魔獣だった。
甲高い鳴き声が一斉に響き渡る。
一方その頃。
「まずいな……」
屋上に取り残された沢恩は、非常階段を探して走り始めていた。
しかし、その前に。
鳥魔獣の群れが一斉に建物へ突撃した。
「まずいっ!」
サリスが叫ぶ。
「私も手伝う!」
ササス・サスサが言った瞬間、
「えっ!? ちょ、待っ――掴んで飛ばなくてもいいってぇぇぇぇぇぇ!!」
ササス・サスサの悲鳴が空へ響いた。
ドゴォン!!
建物の外壁や非耐力部分が次々と崩れ落ちる。
落下した瓦礫が沢恩を押し潰した。
「しまった……」
沢恩は歯を食いしばる。
しかもスマートフォンまで電池切れだった。
「この辺! この辺だよ! 沢恩ー!」
サリスは必死に叫び続ける。
「落ち着いて。」
ササス・サスサが声を掛けた。
建物が崩れた影響で内部は薄暗く、視界はほとんど利かない。
「そんな……そんなぁ……!」
サリスの焦りは隠しきれなかった。
深呼吸を繰り返す。
その時だった。
「そうだ!」
朝覚えたばかりの魔法を思い出す。
次の瞬間、彼女の瞳がライトのように白く輝き、建物の内部を一気に照らした。
「これなら探せる!」
二人は一階ずつ慎重に捜索していく。
そして――
瓦礫の山の中で、沢恩を見つけた。
「ど、どうやって助ければ……?」
経験のないサリスは戸惑う。
「ちょっとどいて。」
ササス・サスサはサリスの肩を軽く叩き、一歩前へ出る。
そして、巨大な瓦礫を軽々と持ち上げ、そのまま放り投げた。
「エルフは力持ちだから。」
まるで大したことではないかのように言う。
「二人とも、しっかりつかまって!」
サリスが叫ぶ。
「?」
「?」
次の瞬間。
サリスは二人まとめて抱え上げ、そのまま飛び立った。
「あだだだだだっ!」
途中であちこちぶつけながらも、なんとか三人は安全な地面へ降り立つ。
「はぁ……本当に急すぎるだろ……。」
助け出された沢恩はその場に座り込み、息を整えながら空を見上げた。
やがて視線を落とし、自分の指にはめた指輪をじっと見つめる。
そして、強く握りしめた。
「……また、魔王侵略の時代が始まるみたいだ。」
沢恩は静かにつぶやく。
「だったら……私もしばらく帰れないね。」
サリスも空を見上げながら言った。
五年間だけ続いた束の間の平和は、ここで終わりを迎えた。
魔王は再び、その牙を世界へ向け始めた。




