災厄の幕開け②
「プシュッ。」
ササス・サスサは缶ジュースのプルタブを開け、そのまま一口飲んだ。
「お知らせしたいことがあります。私の執務室まで来てください。」
上司が真面目な表情で言った。
「はーい。」
ササス・サスサは軽く返事をし、そのまま上司の後ろについて執務室へ向かった。
「五日間にわたる慎重な会議の結果――あなたを解雇することが決定しました。」
「ブーーッ!!!」
ササス・サスサは飲んでいた炭酸飲料を上司の顔面へ思い切り吹きかけた。
もちろん、わざとである。
どうせ明日から来る必要もない。
さらにもう一口飲み込み、もう一度盛大に吹きかけた。
「……なんでですか?」
「これは不可抗力による判断でして……鎮圧時の被害や……社会的信用の問題……それに毎回の作戦で消費される弾薬や経費が……」
そこから三十分。
延々と続いた説明だったが、結局は中身のない定型文ばかりだった。
市街地への被害が大きい。
民間財産を破損させた。
弾薬の消費量が多く財政負担になる。
そんな理由ばかりが並べられる。
どう考えても、誰かがササス・サスサを陥れようとしているのは明らかだった。
ササス・サスサは愛想笑いを浮かべる気にもなれず、そのまま背を向けて部屋を出る。
ついでに出口に飾ってあった置物を一つ、さりげなく持っていった。
「はぁ~……どうしよ。仕事なくなっちゃった~。去年の家賃もまだ払えてないのに……」
頭を抱えながら、ササス・サスサはとぼとぼと歩いていく。
その頃――
無数の魔獣たちは、今なお闇の中で静かに蠢いていた。
はるか遠い地。
空、大地、そして海。
三か所から噴き出した黒い霧が一つへと集まり、渦を巻きながら凝縮していく。
稲妻が走る。
やがて、高さ十四メートルほどの人型が姿を現した。
この時代の魔王が、誕生した。
膨大な記憶が一気に頭へ流れ込み、その足元では数人の人型の大臣たちが忠誠を誓うように跪いて待っていた。
「我らが王よ! ついにお目覚めになられましたか!」
一人の大臣が感極まったように叫ぶ。
「……なあ、いっそのこと降伏しない?」
魔王のその一言で、場の空気が一瞬で崩壊した。
「な……なぜ……じゃなくて、なんでですかぁ!?」
大臣の心は一瞬で砕け散った。
「だ、だって……」
魔王の手は小刻みに震えていた。
「現代人類の科学技術、強すぎるんだよ。
人類がまだ旧石器時代だった頃なんて、初代魔王は三メートルくらいあるゴリラみたいなもので、人類をボコボコにしてたんだ。
その後、青銅器時代、鉄器時代を経て……さらに魔法まで誕生した。
魔法が最も栄えた中世を覚えてるか?
キャッスルビーストは、魔王と並ぶほど恐ろしい存在だった。
あれは唯一の魔造生物で、亀甲獣を改造して造られた怪物だ。
受け継いだ記憶によれば、昔は体内へ侵入して、中の魔物を倒し、各階層の水晶を破壊して、最上階にいる魔法を使う脳を倒して、ようやく討伐できたらしい。
……でも今は?
人間は戦車を走らせて、あんな化け物を道端の石ころみたいに蹴散らしてるんだぞ。
こんなの……どうやって勝てっていうんだよ……」
魔王は震えながら訴えた。
「じゃあ降伏しましょうよ。」
ある大臣がそう言った瞬間――
バシィッ!!
別の大臣が思い切り平手打ちを食らわせる。
「駄目だ! それでは我らの誇りが!」
「恥をかくのと命を失うのじゃ、どっちがマシかくらい分かるよ……」
魔王は力なく呟いた。
「いいえ! 我らが王よ!
天は我らにこの神聖なる使命をお与えになったのです!
我らは生まれながらに人類の敵!
永遠に! 未来永劫その使命は変わりません!!」
大臣は魂を込めて叫んだ。
しかし魔王はその熱量に耐えきれず、その場から逃げるように立ち去ってしまう。
残された大臣だけが、虚しく叫び続けていた。




