災厄の幕開け①
夕暮れ。夜の帳が降り始める空に、ヘリコプターのローター音がかすかに響いていた。
一筋のサーチライトが鉄身獣を照らし出す。
「カン、カン、カン、カン!」
連続する銃撃音とともに、鉄身獣の全身から大量の火花が散った。
「はぁ……はぁ……」
ササス・サスサは荒い息をつきながら、ワイヤーガンを使って街のビルの壁を次々と駆け抜けていた。上半身には軽機関銃を抱え、狙いを鉄のような外殻ではなく、比較的柔らかい目などの部位へと切り替える。
しかし、それも苦肉の策だった。
次の瞬間、視界を奪われた怒りで鉄身獣は暴走を始める。
「グオオオオオッ!!」
鉄身獣は街中を激しく突進し、その咆哮だけで周囲のガラスが次々と砕け散る。
ササス・サスサはワイヤーガンでビルからビルへ飛び移りながら、そのすぐ後ろを追い続ける。
本来なら専用の防音装備を着けるべきだったが、そんな余裕はない。彼女は口を大きく開け、少しでも鼓膜への負担を和らげようとしていた。
「グオオオオッ!!」
やがて鉄身獣は体力を使い果たし、その場へ崩れ落ちる。
そこへ一筋の炎が襲いかかった。
ササス・サスサは全速力で火炎放射器を回収し、内部へ高熱を浴びせ続ける。
鉄身獣は苦しげに咆哮を上げ、もがき続ける。
しかし、その最中にササス・サスサは空を飛ぶようにその場を離脱した。
緊張の五分間が過ぎる。
鉄身獣は視力も体力も回復し、立ち上がろうとした――その瞬間だった。
「バンッ!」
再び両目を撃ち抜かれる。
「グオオオオオオッ!!」
完全に激怒した鉄身獣は我を忘れ、一直線に突進する。
一本の木をへし折った瞬間、無数の岩石が一斉に降り注いだ。
それは、その日の午後に市内各所へ事前に設置されていた百個の罠のうちの一つだった。
同時にササス・サスサはセメント散布装置を起動し、さらに火炎放射器で行動を制限する。
やがて鉄身獣の脚はコンクリートに完全に固められ、その動きは封じられた。
「やったぁ! ラッキー! 見つからなかったら火炎放射で時間稼ぎするしかないと思ってたけど、近くに罠があって助かった! これで被害もかなり減らせるね。鉄身獣が四十メートル級のビルに目に見える亀裂を入れた記録もあるくらいだから。」
ササス・サスサは服についた埃を軽く払うと、タオルを三枚使って汗を拭いた。
だが、あっという間にその三枚すべてがびしょ濡れになってしまった。
「ニュースです。暴動現象鎮圧専門官、ササス・サスサ氏が鉄身獣の制圧に成功しました。」
テレビやショート動画アプリでは、一斉に速報が流れる。
「……でも、本当にこれで大丈夫なのかな。」
ササス・サスサは動けなくなった鉄身獣を不安そうに見つめた。
確かに行動不能にはした。
しかし、まだ生きている。
そう考えた途端、どっと疲労が押し寄せる。
全身の筋肉が悲鳴を上げるような痛みに耐えながら、彼女は本部へと戻っていった。




