雨の止まない街!?⑥
「ふぅ……」
カストロフィは深く息を吐いた。
「魔王のあのジジイは、相変わらずだな……。新しい魔王に憑依した時も、昔の側近どもは全員殺した。昔と同じだ。自分と一緒に復活した家臣を、一人残らず疑っている」
壊れた腕輪へ視線を落とす。
「まったく、何を考えてるんだか。俺のことまで信用しないとはな。この腕輪を付けさせておいて、一度壊れれば俺の力は全部失われる」
そう呟くと、カストロフィは諦めたように仮面を外し、静かに腕を下ろした。
……
「まさか……まだ雨が降ってるのか? もう十二時間は降り続いてるよな?」
「たぶん、それくらいだ」
「待て!」
沢恩は崢拓の腕を掴む。
「……あれを見ろ!」
遠くでは、一人のフード姿の女性が、あの石像と同じものを両手で抱え、静かに地面へ置いていた。
その瞬間――
雨脚がさらに強くなる。
……
ホテルの一室。
「また雨が強くなってきたね」
「少しは良くなった?」
サリスはササス・サスサの額へ手を当てる。
「うん、大丈夫」
ササス・サスサは小さく頷いた。
「沢恩って、生まれつき魔法が使えたってこと?」
まだ信じられない、といった表情で尋ねる。
「うん。私が魔法を学びたいと思ったのも、沢恩の影響なんだ。でも今の沢恩は、その頃のことをわざと忘れてるみたいで……自分は一度も魔法なんて使ったことがない、って言うの」
「でも、それっておかしくない? 魔法が使えれば、もっと戦いやすくなるはずなのに」
「そういう問題じゃないの」
サリスは首を横に振った。
「きっと、私たちが一緒に経験した"あの恐怖"が関係してるんだと思う。
……ごめんね。詳しくは、まだ話せない」
「ううん、無理に聞かないよ」
ササス・サスサは優しく笑った。
サリスは少しだけ俯く。
「そういえば沢恩って、昔は白髪だったのに今は黒髪なんだよね」
「ふふっ」
二人は思わず笑ってしまう。
「子供の頃の沢恩と今の沢恩って、本当に別人みたい。でもね……どっちも好きだなって思う」
サリスは柔らかく微笑んだ。
「それでも……やっぱり二人のことが心配」
今にも外へ飛び出しそうになるサリスを、
「今は行かないほうがいいよ」
今度はササス・サスサが優しく止めた。
「……うん」
サリスは小さく頷いた。
……
フードを被った女性は両手を高く掲げ、何かを唱え始める。
祈りなのか、呪文なのか。
その声に呼応するように、石像からは次々と赤い霧が噴き出していった。
無数の赤い霧は空へ昇り、二人はようやく気付く。
空の上にも、赤い何かが広がっていることに。
「止めるか?」
崢拓が小声で尋ねる。
「いや、まだだ。刺激するな」
沢恩は即座に首を振る。
二人は建物の陰に身を潜め、その様子を見守る。
その時だった。
女性がゆっくりとこちらへ顔を向ける。
二人を見たような気がした次の瞬間――
姿はふっと消えていた。
「え……?
今の、俺の見間違いか?」
崢拓が目を丸くする。
「一旦戻ろう。
これ以上ここにいたら、本当に俺たちが先に倒れる」
……
「沢恩、大丈夫!?
怪我とかしてない?」
戻ってきた沢恩へ、サリスが真っ先に駆け寄る。
「問題ないよ」
沢恩は安心させるように笑った。
「それで……あの女はいったい何者なんだろう」
ササス・サスサが腕を組む。
「普通の人間とも思えないし、どこかの悪の組織の下っ端って感じでもないよな」
崢拓も難しい顔をした。
その時だった。
外の雨がぴたりと止む。
「えっ……晴れた?」
サリスが驚いて窓の外を見る。
……
「空……本当に赤くなってる」
薄灰色だった空を見上げながら、サリスはぽつりと呟く。
「石像を壊せばいいのかどうかも分からない。
情報が少なすぎる」
崢拓が言う。
「今はまだ動く時じゃないね」
外へ出られないササス・サスサは、スマホの通話越しに答えた。
「その通りだ。
あの異常な豪雨は、今日起きた現象と必ず繋がっている」
沢恩も確信していた。
「今、一番大事なのは対策を考えることだ」
そう言って何気なく視線を外へ向けた、その瞬間――
遠くで、あの女性が。
こちらを見つめながら、穏やかに微笑んでいた。
「っ!」
沢恩が声を上げようとした時には、
彼女はまるで偶然そこを通りかかっただけであるかのように、静かな足取りでその場を去っていった。
……




