雨の止まない街!?④
深夜――
……
「ギィィ……」
ドアがゆっくりと開く音がした。
「きゃあっ!? な、何してるの!? 女の子の部屋に勝手に入ってきちゃダメでしょ!」
サリスは慌てて枕を抱きしめながら叫ぶ。
「……」
沢恩は無言でスマホを取り出し、チャット履歴を見せた。
『ちょっと来てくれる?』
沢恩は必死に笑いをこらえている。
サリスもつられて吹き出しそうになっていた。
「で、こんな夜中に呼び出して、一体何の用なの?」
沢恩が尋ねる。
「このネックレス……私たちを守ってくれた偉大な魔法使いが残したこのネックレスって、一体何のためのものなんだろうって。今でも全然分からなくて……」
サリスは俯きながら呟いた。
「確かに……謎だらけだよな。」
沢恩も静かに頷く。
「きっと、このネックレスには何か秘密がある。」
サリスはそう言い切った。
――ゴロゴロォォォン!!
その瞬間、窓の外を巨大な雷鳴が轟いた。
二人は同時に窓の外へ目を向ける。
「ふふっ。覚えてる? 私たち、小さい頃は雷がすっごく苦手だったよね。」
サリスが微笑みながら言う。
「……あんな恐ろしいことを経験したら、誰だってそうなるさ。」
沢恩は少し遠い目をした。
「毛虫いるよ。黄緑色で、黒い毛が長くて硬いやつ。」
サリスが突然いたずらっぽく言う。
「えぇぇぇぇっ!? どこどこ!? 助けてサリス!! 魔法でこの部屋ごと吹き飛ばしてぇぇぇ!!」
「ふふっ、あはははっ!」
……
「結局、このネックレスについての情報は見つからなかったね……」
サリスは少し残念そうに呟く。
「大丈夫。その答えは、時間が経てばきっと分かるようになるさ。」
沢恩は優しく励ました。
「それと、今日はもう休もう。魔法って思ってる以上に体力を使うんだから。
この二日間だけでも、君は何度も限界で寝落ちしてたし……俺の袖でよだれまで拭いてたぞ。」
「えっ!? ほ、本当にぃぃっ!?」
サリスの頬が一気に真っ赤になる。
……
翌朝。
空は相変わらず真っ暗だった。
「……やっぱりか。」
沢恩は窓の外を見下ろく。
道路には、すでに四十センチほどまで水が溜まっていた。
沢恩、ササス・サスサ、崢拓の三人が集まる。
「ほ、ほらぁ……ごほっ、ごほっ……わ、私って準備万端でしょ……いっ、痛っ……ごほっ……ちゃんと風邪薬も解熱剤も買っておいたんだから……ごほっ……い、痛いぃ……」
ササス・サスサは弱々しい声で呟いた。
「……もっと厚着すればよかったんじゃない?」
崢拓が首を傾げる。
「ごほっ……だ、だって……精霊って……ごほっ……暑さに弱いんだもん……ごほっ……耐熱性は高いけど……汗腺が発達しすぎてて……激しく動くとすぐ暑くなるから……ごほっ……あんな格好しかできないのぉ……痛いぃ……」
「な、なるほど……。」
崢拓は妙に納得してしまった。
「崢拓、俺たち二人で先に調べに行こう。」
沢恩が提案する。
「いや。」
崢拓は即答した。
「なんで?」
沢恩が聞き返す。
「昨日、この街を全部回ってきたから。もう怪しい場所は何ヶ所も見つけてある。」
崢拓は少し得意げに胸を張る。
「休暇中なのに仕事してたのか……。」
沢恩は苦笑した。
……
「ついて来い!」
崢拓が走り出す。
沢恩もその後を追う。
二人は街の外れ、人目につかない路地を次々と駆け巡る。
「見てくれ。」
崢拓が指差した先には、小さく粗末な石像が置かれていた。
「見た目は普通なんだけど……赤い霧が出てるんだ。そこが妙なんだよ。」
「ふむ……。」
沢恩は顎に手を当てる。
「しかも、こういう石像が一つじゃない。」
崢拓が続ける。
「もしかすると、本当にこれが原因なのかもしれないな……。」
沢恩は歩き回りながら考え込む。
「久しぶりだな。」
その時、魔王の家臣――カストロフィが姿を現した。
「久しぶり。……礼儀正しいのか失礼なのか、よく分からない挨拶だな。」
沢恩の表情が一瞬で鋭くなる。
「フフフ……ハハハハ!」
カストロフィは笑った。
次の瞬間――
沢恩の首を掴み、そのまま壁へ叩きつける。
さらに何度も何度も、顔面を壁へ打ち付けた。
「悪いな。お前を殺す計画、少し前倒しにさせてもらう。」
カストロフィは歯を食いしばって言った。
「……また何を企んでる!」
沢恩は必死にもがく。
「沢恩!!」
崢拓が振り返り、その光景を目撃した。
「運が悪かったな。巻き添えで死にたがる奴までいるとは。
悪いが、今は一人しか相手にする暇がない。」
カストロフィが指を鳴らす。
沢恩ごと転移しようとした、その瞬間――
「ドンッ!!」
崢拓は耳飾りからバイクを取り出し、そのまま全速力で突っ込んだ。
「……待て、おかしい!」
カストロフィが驚く。
そのまま三人同時に転移してしまった。
……
「温かいタオル、持ってくるね。」
サリスは優しく微笑みながら部屋を出ていく。
「う……」
ササス・サスサが起き上がろうとする。
「ダメダメ! まだ熱あるんだから、大人しく寝てて!」
サリスは少し怒ったように言う。
「でも……あの二人、大丈夫かなって……。」
ササス・サスサは心配そうに呟いた。
「今は考えなくていいよ。今の体で行ったら、ササス・サスサお姉ちゃんまで危ないもん。」
サリスは沢恩の口調を真似しながら言う。
「ごほっ……分かった。」
ササス・サスサは素直に布団へ戻った。
「そういえばさ、沢恩とは昔どんな生活をしてたの?」
ササス・サスサは興味津々に尋ねる。
「聞きたい?」
サリスはにこっと笑う。
「ちゃんと寝てくれるなら話してあげる。」
「は~い、は~い。」
ササス・サスサは完全に子ども扱いされている気分だった。
「でもさ……そのクマ柄のパジャマで看病されるの、なんか変じゃない?」
ササス・サスサがぼそっと言う。
「――あっ!」
サリスはようやく、自分がずっとクマのイラスト入りパジャマ姿だったことに気付いた。




