Memory ~存在した証~②
「どうしたの、サリス?」
「私たち……どうやってKaelnonを見つければいいんだろう。」
サリスは少し不安そうに言った。
「顔も分からないのに。」
「大丈夫。」
沢恩は小さく呟く。
「きっと見つかる。」
四人は当てもなく森の中を歩き続けた。
「!」
突然、数体の虎型魔獣が姿を現す。
四人は息の合った連携で迎え撃ち、魔獣は次々と倒れていった。
「見て、あそこ。」
サリスが指差す。
そこには赤と金の落ち葉に覆われた、小さな墓碑がぽつんと建っていた。
「……名前のないお墓。」
サリスは小さな声で呟く。
四人はその墓を静かに見つめた。
小さな石碑は何も語らず、大地に立っている。
落ち葉は朽ちて土となり、その土からまた新しい木々が芽吹く。
「もしここが北方大陸だったら……」
サリスは果てしなく続く黄金の森を見渡した。
人の住まなくなった木造の家々。
黄金の葉で埋め尽くされた景色。
「きっと『黄金の故郷』って呼ばれていたんだろうね。」
そう言って、静かに目を伏せる。
「……あの子は、どこにいるんだろう。」
サリスはぽつりと呟いた。
その言葉に込められた本当の意味を理解していたのは、おそらく沢恩だけだった。
さらに奥へ進む。
やがて森は途切れ、一つの円形の湖へと辿り着く。
周囲の木々もまるで湖を囲むように円を描き、黄金色の琥珀が静かに輝いていた。
湖の中央。
一人の少年が裸足で水面に立っていた。
人の気配に気づいた少年はゆっくりと顔を上げる。
澄みきった蒼い瞳が四人を見つめた。
「……」
誰もが思わず息を呑む。
顔立ち。
雰囲気。
そのどこかが、不思議なほどサリスによく似ていた。
全員が直感する。
──この子が、Kaelnonだ。
「……君たちは、誰?」
少年は静かに尋ねた。
「君を迎えに来た。」
沢恩が答える。
「帰ろう、Kaelnon。」
「僕を……迎えに?」
Kaelnonは首を傾げる。
その表情には、わずかな戸惑いが浮かんでいた。
「ああ。」
「お父さんが待ってる。」
「……」
Kaelnonは何も答えなかった。
ただ静かに背を向け、俯く。
その瞬間だった。
木々が大きく揺れた。
黄金の葉が一斉に舞い上がる。
無数の落ち葉が空を埋め尽くし、乱れ舞う。
そして風が止む頃には――
湖の水面は黄金の葉で覆われ、
Kaelnonの姿も消えていた。
「えっ……?」
サリスは慌てて辺りを見回す。
「どこ!? あの子、どこへ行ったの!?」
沢恩も同じように湖の中央を見る。
そこには一輪の花だけが咲いていた。
その花もまた、静かに消えていく。
「……虹花。」
沢恩は小さく呟く。
子どもの頃に読んだ、有名な童話。
夢の中で出会った虹花は、一人の忘れられない人へと姿を変える。
しかし目が覚めれば、
夢も。
花も。
最初から存在しなかった。
沢恩は今、その花を確かに見た。
そして、その花が消える瞬間も。
胸の奥に、言葉にならない感情が静かに広がっていく。
「……不思議な子だね。」
ササス・サスサがぽつりと漏らした。
「一度、来た道を戻って探してみよう。」
崢拓は親指を立てて皆を励ます。
「きっとまだ近くにいる。」
四人は気持ちを切り替え、再びKaelnonを探し始めた。
「本当に変わった子だった。」
ササス・サスサが独り言のように呟く。
「まるで……本当は存在しちゃいけない子みたい。」
少し間を置いて、彼女は続けた。
「それに、あの子を見てるとサリスを思い出すんだよね。」
車を運転しながら何気なくそう言う。
沢恩とサリスは何も答えず、
ただ静かに俯いていた。




