Memory ~存在した証~①
「やったー! 大都会だー!」
サリスは車から降りるなり、嬉しそうにあちこち走り回った。
「こらこら、少し静かにしなよ」
沢恩は少し笑みを浮かべながら声をかける。
「るるる~♪ だって沢恩はもう十何年もここに住んでるけど、私は初めて来たんだもん!」
サリスは大きく変顔をしてみせた。
「そういえば……」
崢拓はサリスの西洋ファンタジー風の魔法使い姿を見ながら、ふと思い出したように口を開く。
「沢恩とサリスって幼なじみなんだよな?」
「ぶっ!」
「え、えええっ!?」
二人は同時に慌てふためいた。
「い、いや! そういう意味じゃない!」
崢拓は慌てて両手を振る。
「はぁ……」
二人は同時に大きく息を吐いた。
「俺が聞きたかったのは、昔の沢恩ってどんな感じだったのかなって。」
「昔の沢恩かぁ……」
サリスは懐かしそうに空を見上げる。
「髪は真っ白でね、すごくさっぱりした髪型だったの。瞳も今よりもっと紫っぽくて、茶色い西洋風の布服を着てて……すっごくかっこよかった!」
そう言って、くすっと笑う。
「へぇ……あいつにもイケメンだった時代があったなんて想像できないな。」
「おい!」
「そうだ沢恩、一回ちゃんと身だしなみ整えてみたら?」
ササス・サスサが笑いながら場を和ませる。
「行こ行こ~!」
サリスは沢恩の背中を押しながら、上機嫌で歩き出した。
その後、サリスとササス・サスサ、二人の共同プロデュース(?)によって沢恩の髪は整えられた。
前髪は相変わらず鼻先まで届く長さだったが、目元と額の三分の一ほどが見えるようになった。
「よーし! それじゃあ依頼開始!」
サリスは拳を高く掲げて元気よく宣言する。
「まさかこんな場所で依頼を受けることになるとはな……」
沢恩はスマホを見ながら少し驚いた。
「依頼内容は……」
彼は眉をひそめる。
「子どもの捜索?」
「普通こういうのって警察じゃないの?」
ササス・サスサが首を傾げる。
「その通りなんだけど、その富豪の家は魔物が大量に出る地域にあるんだ。警察だけじゃ捜索が難しいらしい。」
「なるほど。」
ササス・サスサはすぐに銃へ手を伸ばく。
「ちょ、ちょっと待って! いきなり銃は怖がらせるって!」
沢恩が慌てて止める。
「でもさ。」
崢拓はサリスに小声で話しかけた。
「沢恩って最近、ずっと元気ないよな?」
「うーん……」
サリスは少し寂しそうに笑う。
「昔はもっと元気だったよ。私といっぱい遊んでくれて、私を孤独や悲しみから救ってくれたのも沢恩だった。でも……どうして今はあんな感じなのか、私にも分からない。」
肩をすくめながらも、その瞳には隠しきれない心配が宿っていた。
──依頼人の家。
「事情は……以上です。どうか、どうか息子を助けてください!」
年老いた父親は涙ながらに頭を下げた。
「安心してください、おじさん。」
沢恩は静かに頷く。
「必ず見つけます。」
四人は家を後にし、少年が姿を消した方向へ向かって歩き始めた。
「その子の名前は――Kaelnon。」
歩きながら沢恩が説明する。
「父親は普通の名前だけど、母親は北方大陸の出身らしい。だから子どもだけ北方風の名前なんだ。」
「その子……無事だといいね。」
サリスが少し不安そうにつぶやく。
「分からない。」
沢恩は首を振る。
「ただ、お父さんの話だと奇妙なんだ。Kaelnonがいなくなった日から、その子が存在していたという記憶まで少しずつ消えていったらしい。周りの人たちは、お父さんがおかしくなったと思ってる。……まあ、すごく王道な展開だよな。」
沢恩は妙に真面目な顔で言った。
「いや、その展開は普通に頭バグるって……」
サリスが苦笑する。
やがて目的地へ辿り着くと――
「……え?」
サリスは目を見開いた。
そこに広がっていたのは、彼女の故郷――北方大陸そのものだった。
木造の家々。
深い森。
素朴で古い建物。
まるで西洋ファンタジーのような景色。
サリスは自分の目を疑う。
「え……?」
沢恩も違和感に気付く。
「すごい……」
ササス・サスサと崢拓も思わず息を呑んだ。
美しい。
あまりにも、美しすぎた。
「南方にもこんな場所があったんだな……」
沢恩は静かに呟く。
ここは、Kaelnonが生前――いや、かつて何よりも好きだった場所。
しかし、ある日突然この地に魔物が現れた。
そして、その日を境に。
Kaelnonもまた、姿を消したのだった。
「……」




