霧の沼沢⑤
「何か音、聞こえない?」
サリスが首をかしげながら尋ねた。
「音?」
沢恩は耳を澄ませる。
「オゥ! オゥ!」
遠くから、そんな奇妙な鳴き声が聞こえてきた。
「うわぁ……鼓膜がやられそうだ。」
沢恩は顔をしかめながら、その音が確かに存在することを確認する。
「猿系の魔獣っぽいな。」
崢拓は防爆警棒を構えた。
「さっき笑い声みたいなのも、あの生き物だったんだね。」
サリスが言う。
「ちょっと待ってて。」
ササス・サスサは機関銃を背負い直すと、軽く跳躍し、そのまま木の上へ。
枝から枝へと軽快に駆け抜けていく。
二分もしないうちに――
「オオオォッ!?」
猿のような生物の悲鳴が森中に響いた。
「仕事が早いなぁ。」
沢恩は感心しているのか呆れているのか分からない口調でつぶやき、一行もその方向へ向かった。
◇
森の中。
「オゥ! オゥ!」
古代魔王は叫びながらササス・サスサから逃げ回っていた。
「逃がさない!」
ササス・サスサは機関銃を構え、一気に追撃する。
古代魔王は大岩を持ち上げ、投げつけて反撃。
弾丸の多くは岩に命中し、そのまま粉々に砕いた。
「オオオオォォッ!!」
魔王は雄叫びを上げ、そのままササス・サスサへ飛びかかる。
その瞬間――
ドゴォン!!
一本の大樹が魔王の真下から勢いよく突き上がり、その巨体を空中へ吹き飛ばした。
「えへへ。」
後方には、どこか誇らしげなサリス。
落下する魔王の足元には、さらに無数の土の槍が突き出す。
魔王はそのまま地刺を砕きながら叩きつけられ、自身の体にも傷を負った。
「poison, attack!」
沢恩がすかさず魔法銃を構える。
「プチッ、プチッ!」
毒液の弾丸が連続して魔王へ降り注いだ。
「オゥ! オゥ!」
立ち上がろうとした魔王だったが、
「ハァッ!」
崢拓の一撃が容赦なく叩き込まれ、再び地面へ転がされる。
「アアアアアッ!!」
追い詰められた魔王は、突然地面を掘り始めた。
誰も、この沼の泥に何が混じっているのか分からない。
毒の危険を考え、一同は一斉に距離を取る。
「くそっ、また消えた!」
沢恩が舌打ちした。
◇ 未知の地・魔王城
二人は静かに、勇者小隊四人の様子を見つめていた。
「初代魔王って、こんなに弱かったのか。」
本物の魔王が興味深そうにつぶやく。
「My Lord。」
家臣・カストロフィは恭しく一礼した。
「それは、以前わたくしがお話しした通りです。」
「正義と悪は常に均衡し、互いを抑制し合っています。」
「初代魔王が存在した時代、人類は天然の石すら道具として使えませんでした。」
「ゆえに、その時代の魔王もまた、それ相応の力しか持ち得なかったのです。」
「なるほどな。」
魔王は腕を組む。
「もっと古いほど強いのかと思ってた。」
「……まあ、いいか。」




