序章・完
沢恩の胸の中に、突然ある感情が芽生えた。
責任感。
それは、彼だけのものではなかった。
多くの勇者パーティーの戦闘メンバーたちもまた、同じ思いを抱いていた。
彼らは共に、魔王城へ続く道へ向かった。
その道には、四、五台の装甲車が並んでいる。
海のような数の魔獣が装甲車へ押し寄せる。
無数の勇者たちは引き金を引き、ある者は両手を掲げ、ある者は魔法を解き放つ。
炎、氷、雷。
数え切れないほどの魔法攻撃が戦場を埋め尽くした。
大量の魔獣が次々と倒れていく。
それでも装甲車は止まらない。
爆発の光の中を、ゆっくりと前へ進み続ける。
遠方からは、時折巨大な龍型魔獣や遠距離攻撃を得意とする魔獣が攻撃を仕掛けてきた。
その攻撃によって、多くの名もなき勇者たちが倒れていく。
しかし、一人が倒れれば、また別の誰かが立ち上がる。
失われる命と同じ数だけ、新たな戦士が戦場へ現れる。
やがて、何台かの装甲車が爆発した。
それでも――。
最後には二台の装甲車が、魔王城内部への侵入に成功した。
沢恩は城門付近へ向かい、他の勇者たちと同じように魔獣の侵入を防いでいた。
「Ice Beam――Attack!」
冷気の光線が放たれ、沢恩は防壁となる巨大な氷の壁を作り出す。
しかし、魔獣たちは徐々に近づいてくる。
もう耐えられない。
誰もがそう感じ始めていた。
そして――。
時間は、夜明けを迎えていた。
その瞬間。
魔王城の最上階から、巨大な爆発音が響き渡る。
黒煙が空へ立ち上る。
その煙の中から、一つの勇者パーティーが姿を現した。
歓声が響く。
生き残った勇者たちは、互いに抱き合う者もいれば、涙を流す者もいた。
人々は勝利を喜んだ。
沢恩は、その中に見覚えのある人物を見つける。
先ほど、自分を炎の龍の魔法で救ってくれた青年だった。
しかし――。
五人だった勇者パーティーは、三人になっていた。
『魔王討伐成功――!』
ライブ配信から流れる声は、周囲の歓声にかき消され、どこか遠くに聞こえた。
沢恩は何も言わず、人混みの中から静かに離れていった。
そして、家へ帰った。
――五年後。
ある朝。
『本日は、魔王討伐成功から五周年を迎え――』
沢恩はスマホのニュースを消し、大きく伸びをした。
今日は、彼の高校卒業の日だった。
街には再び高層ビルが立ち並び、世界の秩序は取り戻されていた。
大学へ進むべきか。
それとも働くべきか。
そんなことを考えながらも――。
今の沢恩は、まだベッドの上で横になっていた。
しかし。
人々の知らない遠い場所で。
黒い濃霧は、未だ消えていなかった。
その奥では、赤く光る瞳が静かにこちらを見つめ続けていた。




