序章②
この崩壊した街の中では、思うように動くことができない。
しかし沢恩は、自分の小柄な体を利用し、瓦礫の隙間を縫うように走り続けた。
彼はすべての魔獣を倒そうとしているわけではない。
自分と相手との実力差くらい、理解していた。
だが、もしこの魔獣たちが地下シェルターの入口を発見すれば、そこにいる住民たちを待っているのは確実な死だ。
だから、止めなければならない。
「Ice Beam――Attack!」
引き金を引いたまま、沢恩は魔力弾を放つ。
銃口から放たれた冷気は、まるで光線のように一直線へ伸び、命中した地面を瞬時に凍結させた。
背後の道を氷で覆う。
重量のある魔獣たちは足元を奪われ、次々と滑って転倒した。
沢恩はさらに追撃し、倒れた魔獣たちを完全に凍らせる。
素早く狡猾な魔獣たちも、仲間を砕いて進むには時間が必要だった。
その隙に、沢恩は前方の道路までも凍らせる。
そこで、彼が昔習っていたスケートの経験が役に立った。
「……少しでも時間を稼げば、犠牲は減らせる」
そう、心の中で呟く。
しかし次の瞬間。
沢恩が顔を上げると、一羽の鳥型魔獣がこちらへ急降下してきた。
「っ!」
横滑りで攻撃を避ける。
だが、勢いを殺しきれず、氷の上へ激しく転倒した。
冷たい氷が、傷ついた腕を刺激する。
「……痛い」
沢恩は歯を食いしばり、なんとか立ち上がる。
「Fireball and Fast――Attack!」
混合魔法。
背後から迫る魔獣。
前方には狙いを定めにくい鳥型魔獣。
焦りが判断を鈍らせる。
沢恩は構わず攻撃を放った。
その結果、自分が作り出した氷の道まで炎で溶かしてしまう。
背後の魔獣たちが迫る。
逃げ場を失った沢恩は地面へ倒れ込んだ。
魔獣の牙が、すぐ目の前まで迫る。
その時だった。
炎で形成された巨大な龍が、周囲の魔獣を一瞬で焼き払った。
「大丈夫か!」
一人の若い男性が沢恩を助け起こす。
沢恩が顔を上げると、傷ついた腕はすでに治癒魔法によって回復していた。
目の前には二人の《天性魔法使い》がいた。
一人の青年の手のひらからは赤い光が溢れ、隣にいる女性の手のひらからは優しい白い光が放たれている。
その横では、落ち着いた雰囲気の中年男性が青年の肩を軽く叩きながら笑った。
「ほらな? だから電撃魔法は使うなって言っただろ」
青年は少し不満そうな顔をする。
彼らは沢恩へ自分たちの勇者パーティー番号を伝えた。
「無理するなよ」
そう言い残し、彼らは去っていった。
その時。
残り少なくなった戦車部隊が、最後の城塞獣を撃破した。
空から巨大な白い魔王城がゆっくりと降下する。
その存在だけで、周囲の空気が震えるほどの恐怖を放っていた。
青年は空を見上げる。
そして、決意に満ちた表情で一台の装甲車を召喚した。
勇者パーティーの五人はその中へ乗り込む。
装甲車は魔王城へ向かって走り出した。
沢恩は、ただその背中を見送ることしかできなかった。




