巨獣との決戦⑥
「近寄るなぁぁぁ!!」
幼い沢恩は泣き叫びながら、白い魔法弾を何発も撃ち続ける。
ゴリラのような姿をした残暴獣には、まるで効かなかった。
「オオオオオォォォ!!」
残暴獣は咆哮し、その巨大な拳を振り上げる。
幼い沢恩を一撃で叩き潰そうとした、その瞬間。
「危ない!」
幼い沢恩の勇者隊長が瞬間移動で彼を抱え、その場から離脱した。
直後、掌から赤い光が溢れる。
無数の溶岩岩石が空を埋め尽くし、残暴獣へ降り注いだ。
しかし。
まるで効かない。
「くそっ!」
勇者隊長は歯を食いしばりながら幼い沢恩を抱え、瞬間移動を繰り返して逃走する。
移動しながら反撃。
「バン! バン!」
幼い沢恩も恐怖に震えながら銃を撃ち続けた。
残暴獣は追ってくる。
しかも、どんどん速くなる。
そこへ、勇者パーティーの仲間たちが駆け付けた。
数人で力を合わせ、ようやく足止めするのが精一杯だった。
防御が破られようとした、その時。
「私にも手伝わせてください!」
別の勇者パーティーに所属する一人の勇者が現れ、魔法を放つ。
(……待て。)
沢恩はその勇者を見つめる。
(なんだろう。)
(この人……。)
(俺を何度も助けてくれた気がする。)
記憶は続く。
残暴獣は討伐されなかった。
そのまま逃走した。
戦いが終わると、幼い沢恩の勇者隊長は、その勇者へ歩み寄った。
「どうすれば、もっと強くなれるのでしょうか。」
勇者は静かに立ったまま答える。
「私たちは神様じゃありません。」
「無敵にもなれません。」
「ただ、自分にできることを精一杯やるだけです。」
そう言って、勇者は隊長の肩へ手を置いた。
「私たちは、できる限りのことをしました。」
「恥ではありません。」
「敗北でもありません。」
沢恩は続きを見ようとした。
しかし――
突然、目を開く。
「……サリス!」
目の前にはサリスがいた。
歯を食いしばり、
涙を堪えながら、
治癒魔法で沢恩を救っていた。
「……グラセスお姉さんには、言わないで。」
サリスは小さな声で囁く。
沢恩は言葉を失う。
サリスの表情。
悲しみに震える顔。
額から流れる血。
目元を伝い、涙のように流れる血。
そして、その血の横を流れる本当の涙。
(……見たことがある。)
その瞬間。
記憶の奥底に、まったく同じ光景が浮かんだ。
違うのは背景だけ。
それ以外は、あまりにも似ていた。
沢恩は何かを言おうとする。
しかし、声が出ない。
考えている時間もない。
彼は再び戦場へ戻った。
◇
五人は再び集結し、総攻撃を開始する。
その時だった。
巨獣の全身が燃えるような光を放ち始める。
苦しむように何度も空を見上げ、
ゆっくりと顔を下ろした。
次の瞬間。
口から一本の極太の光線が放たれる。
「!」
グラセスは即座に巨大な防御障壁を展開した。
「グラセスさん!」
「グラセスお姉さん!」
全員が彼女の元へ駆け寄ろうとする。
しかし。
「来てはダメ!」
グラセスは叫んだ。
「この光線から感じる魔力量……!」
「月さえ破壊できるほどです……!」
「私が止めなければ!!」
直後。
「ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
彼女の悲鳴が響いた。
視界は純白に染まる。
やがて光が消える。
障壁も消えていた。
そこには。
静かに倒れるグラセスの姿だけがあった。
「グラセスお姉さん!!」
サリスは泣きながら駆け寄る。
再び治癒魔法を使おうとする。
だが。
グラセスは首を横に振った。
「……最初から、分かっていました。」
「だから……。」
「今回の戦いでは、『雲の息吹』のような……前回は使わなかった魔法まで使いました。」
「私は……覚悟を決めていたんです。」
最後の力を振り絞り。
魔法で無理やり言葉を繋ぎながら。
彼女は首のペンダントを外し、
そっとサリスの掌へ乗せた。
そして。
静かに目を閉じた。
サリスは俯いたまま、
もう顔を上げることはなかった。
◇
残された四人は、
怒りのまま攻撃を続ける。
しかし。
全て徒労だった。
「やれやれやれぇ。」
「はははっ。」
「皆さん、とても無力そうですねぇ。」
魔王の家臣が再び姿を現す。
全員が怒りを押し殺しながら睨みつけた。
「そうそう。」
「この世界では、正義と悪は絶対に均衡しています。」
「だから皆さんが死ねば死ぬほど正義は弱くなり、その分だけ魔王側にも影響が出る。」
「世界全体としては結局変わりませんが……見栄えは悪いですよねぇ。」
「人類が絶望してしまいます。」
「なので。」
「少しだけ、お手伝いしましょうか。」
パチン――。
家臣が指を鳴らす。
その瞬間。
巨獣の肉体は急速に崩壊し、
無数の普通の魔獣へと姿を変えた。
そして。
家臣自身も黒い霧となって消えていく。
「!」
四人は考える暇もなく、
目の前の魔獣を次々と討伐していった。
やがて。
戦闘は終わる。
勝利した。
それでも。
沢恩の心には怒りしか残っていなかった。
「……はぁ。」
「……はぁっ。」
肩で大きく息をする。
瞳孔は大きく開いていた。
「命を……。」
「命をそんなにも軽く扱うなんて。」
「魔王……!」
「魔王ッ!!」
「絶対に……。」
「絶対に、お前だけは許さない!!」
沢恩は魔獣の死体を強く踏みつけた。
◇
帰還の途中。
サリスは頬杖をつきながら歩いていた。
「……大丈夫?」
ササス・サスサが優しく声をかける。
サリスは穏やかに微笑む。
「大丈夫です。」
「グラセスお姉さんが亡くなったのは身体だけ。」
「魂は、ちゃんと生きています。」
「いつかきっと。」
「また会えますから。」
誰も返事はしなかった。
静かな朝日だけが、
彼女たちを照らしていた。
やがて四人は、小さな町へ帰還する。
空はもう、
明るく晴れ渡っていた。
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