巨獣との決戦①
廃墟には、四人の駆ける足音が響いていた。
「おい、バイクあるなら乗ればいいだろ! なんで押して走ってるんだよ!」
沢恩が崢拓に叫ぶ。
「お前らを待ってるんだよ!」
崢拓は呆れたように返した。
「ゴゴゴゴ……」
魔法障壁の内側では、光がさらに強さを増していた。
「とにかく、今は離れるしかない……あのお姉さん、大丈夫かな……」
サリスは何度も振り返り、不安そうにつぶやく。
「知らないっ!」
沢恩は必死に走り続けた。
◇
――魔法障壁の内部。
女魔法使いは静かに魔女帽子を脱ぎ、蒼い瞳で巨獣を見据えた。
「あなたが見たことのない魔物だったとしても……私は、勇者たちの新たな力を傷つけさせたりはしない。」
その声は穏やかで、それでいて揺るぎなかった。
彼女が手を掲げる。
掌から真紅の光が噴き上がると、空には炎でできた数羽の不死鳥が現れ、巨獣へ次々と斬撃を浴びせた。
しかし巨獣は、ただ前脚を軽く振るうだけ。
炎の斬撃はすべてぶつかり合い、火花となって散っていく。
土煙が舞い上がる。
攻撃を受け終えた巨獣は、その勢いのまま地面を叩きつけた。
「ドォンッ!」
衝撃波が廃ビルを粉砕し、魔法使いの足場は一瞬で崩れ落ちる。
「……っ!」
彼女の体が淡く光り、安全に地上へ転移した。
着地すると、そのまま掌を大地へ押し当てる。
「ガララララッ!」
地面が裂け、無数の鋭い岩槍が地下から突き出した。
巨獣へ向かって一斉に突き刺さる――だが、次々と砕け散り、石くれになるだけだった。
「グルル……」
煩わしそうに唸った巨獣は、何の前触れもなく巨大な爪を振るう。
「っ!?」
予想外の速度。
魔法使いは反応しきれず、そのまま地中二十メートルまで叩き落とされた。
同時に、戦場を覆っていた魔法障壁も消滅する。
「ぁ……!」
全身の擦り傷を押さえながら、彼女は歯を食いしばって立ち上がる。
転移魔法を使おうとするが――
限界まで酷使された身体は言うことを聞かず、その場へ再び崩れ落ちた。
「グオオオオオッ!!」
巨獣は地面を掘り返し、彼女の体を空高く跳ね上げる。
「……もう、これしかない!」
彼女は首に掛けていた二つの首飾りのうち、一つを外した。
それは、莫大な魔力の源であり、自らの命を支える魔導具。
首飾りを握り締め、落下速度を緩める魔法で巨獣の背へ降り立つ。
そして、その首飾りを力いっぱい巨獣へ押し付けた。
眩い光が爆発する。
幾重もの巨大な魔法の鎖が現れ、巨獣の全身を拘束した。
「これほどの代償を払っても……十六時間しか封じられないなんて……」
魔法使いは静かに俯いた。
◇
「……かなりまずそうだね。」
沢恩とサリスは並んで腰を下ろし、不安そうに戦場を見つめていた。
四人の間に重い沈黙が流れる。
「……私、助けに行きたい。」
サリスが俯いたまま、小さく呟く。
「!」
「!」
「?」
三人の反応に、サリスは急に自信を失った。
その時、沢恩がそっと彼女の肩へ手を置く。
「あの魔法使いはさ、命懸けで俺たちを助けてくれたんだ。
その想いを無駄にしちゃダメだろ。」
「……うん。」
◇
沢恩にとって、あれほどの魔獣と戦うのは初めてだった。
過去の戦いの記憶は失われている。
それでも、ときどき断片だけが勝手に脳裏へ浮かび上がる。
――昔。
彼は一番初級の魔法リングを銃身へ取り付けていた。
現れた魔法陣は、灰白色の、歪で不完全なもの。
その目の前に現れたのは、高さ五メートルほどもある、ゴリラのような凶暴な残暴獣だった。
――その先だけは、どうしても思い出せなかった。




