災厄現る、魔王の侵攻②
「ブゥゥゥン……」
バイクのエンジン音だ。
沢恩は二人を起こそうとしたが、時計を見るとまだ午前四時。二人はぐっすり眠っている。
「……放っておくか」
そう呟いた、その時だった。
「ブゥン! ブゥン! ブゥゥゥン!!」
エンジン音が急激に近づいてくる。
「……」
沢恩はテントの外へ出た。
「ガァァッ!」
一匹の猛攻獣が頭上を飛び越えたかと思うと、次の瞬間、一台のバイクがその体を思い切り跳ね飛ばした。
地面を転がった猛攻獣はすぐに立ち上がり、再びバイクを追い始める。
「……夢?」
沢恩は一度テントへ戻り、もう一度外へ出る。
「夢じゃなかった!」
ようやく現実だと理解した。
遠くでは黒煙がゆっくりと流れている。
「環境汚染、ひどそうだな……」
沢恩はリングを銃身へ装着した。
「air cannon, attack!」
引き金を押し込み続けると、銃口から絶え間なく気流が噴き出す。
その反動で、沢恩の身体は高速で前方へ滑り始めた。
「便利だなこれ……サリス、意外と頭いいじゃん。」
◇
「くそっ!」
バイクを操る青年は歯を食いしばっていた。
背後では猛攻獣が徐々に距離を詰めてくる。
「……やるしかない!」
青年は急ハンドルを切り、思い切りブレーキを踏む。
慣性で車体が少し前へ滑り、足を地面につけて姿勢を保った。
猛攻獣は止まり切れず、そのまま二百メートルほど駆け抜けてしまう。
その隙に青年はバイクを反転させ、一気に引き返した。
「おい! どけぇ!」
進行方向には、茶色い服を着た、どこかやる気のなさそうな男が立っている。
(どうする……!?)
止まれば追いつかれる。
だが、この速度では曲がり切れない。
その男が何かを叫んだ。
次の瞬間。
紫色に輝く弾丸が青年の頬をかすめ、背後から獣の断末魔が響く。
「す、すげぇ……」
振り返ると、猛攻獣はすでに倒れていた。
「……あんた、何者だ?」
「占以沢恩。君は?」
「崢拓だ。……さっきの、何だったんだ?」
「魔法だけど? 見たことないの? ……あぁ、なるほど。」
「何がだよ。」
「君、無魔法地区の人なんだろ?」
「そうだけど。」
「ここへ来た目的は?」
「お前には関係ない!」
「怖っ。」
「ガアァァッ!」
「今の、お前が叫んだの?」
「違うわ! 占以なんとか恩!」
「……え?」
「……え?」
次の瞬間。
沢恩は本日二度目の"空を飛ぶ感覚"を味わうことになった。
崢拓が片手で沢恩を持ち上げ、そのままバイクへ放り乗せたのだ。
「お前、仕留めてなかったのか!?」
「こんなにしぶといと思わなかったんだよ!」
猛烈な風が二人の顔面を叩きつける。
「うわああああぁぁぁ!!」
沢恩の悲鳴が森へ響く。
「ガアァァァ!」
猛攻獣は疲れを知らないかのように追い続けてくる。
「カチッ。」
沢恩は引き金を引く。
しかし、何も起きない。
「しまった……弾切れだ。」
「…………」
「…………」
崢拓は何も言わず、アクセルをさらにひねった。
「……で、どうする?」
「猛攻獣が疲れて死ぬのを待つ?」
「どれくらいかかる?」
「三日?」
「その前に俺のバイクが死ぬ。」
一瞬だけ考えた崢拓は覚悟を決める。
壊れかけた高速道路を飛び出し、そのまま深い森へ突っ込んだ。
「ブゥゥゥン……」
立ち込める黒煙を引き連れながら、バイクは森の奥へと消えていった。




