勇者になる覚悟はできているか①
「うーん……」
「うーん……」
二人はテーブルの上に置かれた指輪をじっと見つめていた。二人の瞳には同じ疑問が浮かんでいる。
「これは五年前、魔獣と戦っていたときに使っていた指輪なんだ。あるおじさんからもらったものでね。当時使っていたやつは、長年使い続けたせいでボロボロになって、最後には砕け散っちゃった。」
沢恩は赤く淡い光を放つ指輪を見つめながら、静かに説明した。
「(つんつん)……わっ、熱っ。この指輪、すごく熱いよ。」
サリスが無邪気に指先でつつく。
「起動すると毎回こうなるんだ。理由は俺にも分からない。」
沢恩は苦笑した。
「ねぇ、ササス・サスサお姉ちゃん。」
サリスは澄んだ瞳で彼女を見つめる。
「どうして昔は指輪を使わなかったの?」
「まずね、この指輪は火力が強すぎるの。普段はそこまで必要ないし……一番の理由は。」
ササス・サスサは真面目な表情で肩をすくめた。
「私、使い方が全然分からないのよ。」
「ふーん……でも私が攻撃魔法を覚えたら、こんな小さな指輪より絶対強くなるもん。」
サリスは誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。
そのとき、沢恩は救援物資を配っているスタッフを見つけた。
「あの、何か手伝えることはありますか?」
「えっ、本当ですか!? ありがとうございます!」
スタッフは遠慮しようとしたが、あまりの忙しさに素直に頭を下げた。
「私もやるー!」
サリスも勢いよく立ち上がり、沢恩の隣へ駆け寄る。
「ははは、今の若い子は本当に元気だねぇ……って、あれ? 私もまだ二十代前半だったっけ。」
ササス・サスサはあぐらをかきながら、押し合いへし合いしている二人を眺めて笑った。
地下シェルターは毎年整備と改良が繰り返されている施設だった。
魔王の襲撃は決して珍しいことではない。そのため、地下へ避難することも、この世界ではごく当たり前の日常となっている。
白く柔らかな照明。
落ち着いた色合いの壁。
近代的な設備が整った空間は、人々の胸にある不安や恐怖を少しでも和らげていた。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「こちらです。」
「助かります。」
「ふぅ……これでだいたい配り終わったかな。」
沢恩は大きく伸びをして息を吐いた。
「よいしょ!」
「ありがとう!」
「ちゃんと受け取ってねー!」
「助かるわぁ。」
「おばあちゃん、どうぞ。」
「あらあら、ありがとうねぇ。」
老婦人はサリスを見て優しく目を細めた。
「お嬢ちゃん、とっても綺麗な赤い瞳だねぇ。レトロな魔法使いみたいな服もよく似合ってる。北の方から来たのかい?」
「もちろん! 私は未来の大魔法使いだから!」
サリスは胸を張って得意げに答える。
「あの男の子はお友達かい?」
「うん!」
サリスは自信満々に頷いた。
「いい子だねぇ。でももう少し身だしなみに気を遣えばもっと格好よくなるのに。茶色い服に長い髪、髪型も整えてなくて、少し元気がなさそうに見えるよ。」
「おばあちゃん、まだ鳥魔獣の討伐は終わってないんだよ。」
サリスは真面目な顔でそう返した。
「ははは、分かってるよ。おばあちゃんは若い頃から何度もこんなことを経験してきたからね。もう慣れっこさ。」
「現在、こちらが優勢を維持しています。予測では、あと三時間ほどで鳥魔獣の討伐が完了し、一時的な平穏を取り戻せる見込みです。」
ササス・サスサは床に寝転び、頬杖をつきながらニュースを眺めていた。
「ササスお姉ちゃーーん!」
サリスが大きく手を振りながら駆け寄ってくる。
「どうしたの? あと私はササス・サスサだからね?」
ササス・サスサは苦笑する。
「全部呼ぶと長いんだもん。だからササスお姉ちゃん!」
「まあ、それでもいいけど。」
「沢恩は今、ご両親とすごく真面目な話をしてるみたい。だから私はこっちに来たの。」
そう言ってサリスはササス・サスサの隣へちょこんと座り、両膝を揃えて両手を膝の上に置いた。




