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ブクマ1号さんが来てくれました。
ありがとうございます。
10話まで毎日18時に投稿予定。
その後の投稿間隔は検討中。
二時間以上かけて完成したアシッドブレイク4号を前にしたペスティサイダーは眉根を寄せて考える。
果たしてこれで、この恐ろしい死酸島の環境ギミックを突破できるのかと。
「無理だなー」
考えるまでも無かった。
アシッドブレイク2号は装甲のみを厚くして玉砕し、空気がだめなら海中ならどうだと更に装甲を厚くして機体も大きくした3号も無残な結果に終わった。
三度の失敗の経験から、装甲の厚みを求めて一五mまで巨大化したアシッドブレイクだったが、これでも数分耐えるのが限度である。
探索どころか目の前の森に辿り着くのも難しいほどに死酸島の環境ギミックは強力で理不尽だった。
まさか空気や海水、地面に触れるだけでも跡形もなく溶けるなんてギミックが採用されているとはペスティサイダーは思いもしなかった。
死酸島という名前からして、下手すると島全域がそうなっていそうだと、やりがいはあるが少し面倒な気分になっている。
古参のエンジョイ勢を自称するペスティサイダーだが何もできずにシュワっと溶けるしかない状況を楽しめるほど極まってはいない。
最強無敵の自作ロボで全てを蹂躙するのが理想のプレイだ。
「耐性カンストしたのに効果実感できないし、なんなんだここは、攻略させる気があるのか?」
後継のギガダストはもうただのゲームじゃない。
何十万人も抱えていたプレイヤーを意識だけとはいえ拉致監禁している異常な状態だ。
もしかしたら攻略法なんて無いのかもしれない。
なのでペスティサイダーは攻略不可かどうかは忘れることにした。
これしかできないなら、これ以外の情報は必要ない。
なんとか現状の手札で打開策を捻り出すしかないなぁと知恵熱が出そうな頭を抱える。
彼はドシャリと砂浜の上に背中から倒れた。
服はまだ用意しておらず全身で光合成が続いている。
「整理しよう」
頭の中で情報を並べていく。
拠点ごと大事なガングエイコンシリーズは破壊された。
ログアウトはできず、死酸島から移動もできない。
死酸のお陰でろくに探索もできない。
だから素材も手にはいらない。
「クソ運営がよぉ」
現実には今のところ帰らなくて良いので時間制限は無い。
観測手段が無いので現実のことは考えても無駄。
つまりゲーム時間は無制限解放中。
「素晴らしい、これで能力がいつも通りなら楽しく悩むだけだったな」
死酸島。
空気や地面、恐らくは島の全域が名前の通り死に至る酸で満ちる地獄のような環境ギミックを備えた島で大型アップデートで追加された未知の高難度エリア。
ペスティサイダーは攻略の手がかりも掴めていない状況だが、ゲームプレイヤーとして未攻略エリアに誰よりも早くたどり着いたのは喜ばしい。
他のプレイヤーも同じような状況なら後続の心配も無いだろう。
独占という名の孤立無援である。
「バカヤロぉ加減しやがれ」
思わず罵倒が漏れ出る。
恐るべきこの環境ギミックはペスティサイダーの初期化されていたソイルの一つ【耐性】をたった三度の挑戦でカンストさせた。
とんでもないパワーレベリングだったが、残念ながら【耐性】単体では死酸島の環境ギミックを無効化できない。
「秒殺を分殺にしてくれるが…ドングリの背比べ、どっちも変わらん」
生成した二つのドングリを手に取る。普通のサイズの丸いドングリはペスティサイダーの口に運ばれてガリガリと小気味良く噛み砕かれる。
口の中に僅かな甘みと芳ばしさ…を完全に塗り潰す、わざとらしいコーラフレーバーが広がる。
秒殺を免れると言っても、セーフティエリアから出た瞬間ボロボロになって行動不能。本当にどちらも大差ないという状況だった。
カンストしたため、このソイル単体ではこれ以上の進展はない。
「活路は拡張スロットか」
ソイルにはレベルとは別に固有スロットにアイテムをセットして能力を拡張できる機能がある。
カンストした【耐性】なら拡張スロットに非常に強力な酸性物質である死酸島の砂を一つ掴みでもセットすれば、ほぼ完璧な酸耐性を獲得できる可能性があった。
「いや、だめだ、砂や空気みたいなのはまとまった量を適当な容器に入れないとアイテム扱いされない、スロットどころかインベントリにも入らん」
肝心の容器が砂でシュワシュワと溶ける。
セーフティエリア内なら、そんな砂や空気も平気だが、この状態では採取ができない。
そもそも何かを採取する余裕も無いなと、ため息と共にペスティサイダーの全身から力が抜けていく。
ドロドロに溶けた鉛を頭の中に流し込まれているような重い疲れと知恵熱を感じていた。
あーじゃないこーじゃないと試行錯誤するのは楽しい。
最近の高性能な希少素材やユニークアイテムの能力で無理矢理押し通るようなギガダスト開発とは違う、初心を思い出すトライアル&エラーは、心地よい刺激になっている。
それ故にこうしている間にもジワジワと眠気が意識を侵食していくほど疲労していた。
傍らで無言で立ち尽くすアシッドブレイク4号の巨大ドングリ製の緑色の装甲が紅葉したかのように夕焼けに染まり、転移用オブジェクトの石柱が長い影を砂浜に描いている。
いつの間にか日が暮れて夜が訪れようとしていた。
「寝るか」
眠気に抵抗する気力がなかったペスティサイダーは、難題を未来の自分に丸投げすることに決めた。
虫のようにスルスルとアシッドブレイクの足を這い登り、上に開く巨大ドングリ殻の胴体装甲と、その下の左右に開く人の肋骨に似たギガダスト骨格の奥にある操縦席に身を沈める。
「起きたら夢じゃない事を祈ってる」
閉じる肋骨とドングリ殻に遮られていく風景に向かって静かに呟いた。
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次回更新は明日18:00の予定です。




