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「起きろ、アシッドブレイク」
結局、ペスティサイダーは作成した機体にガングエイコンとは名付けなかった。
彼にとっては非常に誉れ高くなってしまった名前は簡単に与えられない。
代わりに酸を打ち破る…アシッドブレイク。
強力な酸関係のモンスターかトラップが溢れるかもしれない未知未踏エリアである死酸島を攻略するという思いを込めた新しい名が送られることになった。
「きたきたっ」
ペスティサイダーが保有するダストによってギガダストに埋め込まれる仮面…塵面気と呼ぶ主要部品の一つ…に大いなる巨人の魂の欠片が目覚め、機体の初期起動が開始された。
魂の欠片は擬似生命の脈動を発生させる。機体を巡るそれは塵面気を核に装甲外皮、内槽骨格、動力袋、機体を構成するありふれた素材で作られた部品で建造された物体を強化し一体化させて。
塵造巨人ギガダストという疑似生命体へと変化させる。
彼がアシッドブレイクに発生した疑似生命にペスティサイダーがダストを通じて意識や神経を接続すると、彼を胴体に収納したアシッドブレイクが全身を震わせた。
機体上部の殻斗に埋め込まれたラクガキのような三穴シュミラクラ造形の塵面気下部の一穴がゴォォォと音を立てて呼吸し、機体の空調として機能し始め、上部二穴は暗い穴に光を吸い込んで自ら輝く、取り込んだ光で映像を紡ぐ機体の視界となる。
それはペスティサイダーの肉眼視界と重なるように共有される。
そのクラクラしそうな二重視界を意に介さず、重なる機体視界のみピントを合わせて肉眼視界を排除していく。
「おおっと、ワシのステータスが落ちているからこんな性能でもじゃじゃ馬に思えるな!」
電気を流されたように痙攣し、振り回される手足を制御するため、内部に設置されたドングリを加工したレバーやペダルに力を込めるが強い抵抗を感じる。
ペスティサイダーは懐かしい感覚だと手こずりながらも楽しそうに、ギガダスト初期起動特有の暴れ始めた機体を宥めていく。
ダストの影響で巨人の要素が強い両手は地面に手が届くほど長いせいでドンドンドン!と胴体が激しく上下するほど地面を叩き大暴れだ。
「そろそろ従え!」
アシッドブレイクは最後の抵抗のように両目から光線を放つと、それまでの暴れ様が嘘のように静まり、ペスティサイダーに逆らうように動いていたレバーとペダルも沈黙していく。
初期起動が終了し機体の疑似生命との接続と掌握が完了したのだ。
「塵面ガチャは光線型か…あーレバーが壊した」
右レバーとして壁から伸びるアームに接続されていた拳大の丸いドングリの残骸をインベントリに収納。
失敗を誤魔化すように、新たに取り出したドングリを指の上で回転させる。
いきなり壊してしまったが、レバーもペダルもゲームシステム的な補正を得るためのカッコイイ飾りに過ぎないと心の中で言い訳する。
「さぁ出発だ、アシッドブレイク!」
フリーになった右手でドングリを回し続けながら元気に告げたペスティサイダーはアシッドブレイクを力強く歩ませる。
ギチギチとその重量で足元の砂に悲鳴を上げさせ、砂浜に深く足跡を残していく機体はセーフティエリアの端…景色を斑に滲ませる半透明のドーム状の境界を越えて。
未知のエリアへと足を踏み入れた。
「どんな罠も敵も、ワシとおまえで踏み潰してやろう!」
相手は未知のエリアだ。
ペスティサイダーはいきなりうまくいくなど考えていない。気分を盛り上げるための適当な掛け声である。
だがほんの少しだけ、能力を制限された状態で初見クリアなどと夢みたいな事を考えながらの希望に溢れた軽快な歩み。
それが彼を地獄に放り込んだ。
アシッドブレイクがセーフティエリアから完全に出ると同時に世界は切り替わる。
セーフティエリアは通常のゲームエリアとは別空間に設定されており、この瞬間、初めてペスティサイダーは死酸と称される島に充満する空気に触れたのだ。
アシッドブレイクから黄色い煙が噴き出した。
煙は瞬く間に四メートルはある機体全体を覆い尽くし、高く狼煙のように立ち上った煙の中から二体分の骨が転がり出る。
四メートルはある人体と賭け離れた構造でありながら人骨の造形も随所にあるアシッドブレイクの内槽骨格と、その大きな胸骨の内側で守られて居たはずのペスティサイダーの骨が、黄煙を吐き出してボロボロになりながら砂浜に力なく倒れ込む。
(ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)
死酸島は、島のあらゆる場所、生物、空気や水の一滴までもが死に至る酸…死酸で満たされていた。
死酸に適応した生物や耐えられる素材以外は死体も残らないここは、無防備に等しいペスティサイダーとアシッドブレイクを容赦なく溶かし、アップデートで密かに追加されていた痛覚がペスティサイダーを襲う。
(クソ運営がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)
ペスティサイダーの保有ダストは【巨人の手】【巨人の骨】だ。
両方の影響を強く受ける彼の手の骨は非常に頑丈で生命力にあふれる。
彼はこんな状態で生きていた。
手の骨しか残っていない状態でも、回復する手段と時間があればここから挽回できたが、死酸に最後まで耐えていたその手もボロボロと黄色い煙を吐いて崩れていく。
ペスティサイダーの意識はそこで途絶えた。
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次回更新は明日18:00の予定です。




