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更新四日目です
袈裟懸けに若草色の胸を切り裂かれて悲鳴を上げるペスティサイダー。
それをズテンフェオンは観察していた。
飛び散る血しぶきの一雫さえも数えられるほど集中して。
ズテンフェオンは思い出す。
レゴリス教団のギガダスト達が縄張りに侵入してきた時、ズテンフェオンは圧倒的な強者だった。モンスターとしての激情と衝動に突き動かされながらも、思考は冷静に破壊するギガダストを観察する余裕があった。
コイツらにも自分たちと同じように生命の要となる部位がある。
ズテンフォンの命の要は【巨獣の頭】【巨獣の羽毛】【巨獣の血】三つのダストが最も強く影響する頭部。この巨獣は首を跳ねられても瞬く間に身体が再生し、ペスティサイダーは両手がそうだ。
ズテンフェオンは理解していた。胸部を引き裂かれたペスティサイダーは派手に血を流したがもうそれは止まっているし、傷も塞がっていた。
命の要を避ければ直ぐに治る。
恐ろしいほどに正しく理解し、そして思い込んでいた。
振り下ろした鈎爪が跳ね上がり、今度は爪の背でペスティサイダーの顎を打った。
ペスティサイダーの顎の皮膚と肉が弾けておびただしい血を流し身体が浮き上がる。こうして甚振ればギガダストを出して反撃するだろうと、過去の経験からズテンフェオンは思い込み、一〇mは軽く飛んで、砂浜を転がる若草色を追いかけて爪を再び振り下ろす。
太腿を貫通して砂浜に突き刺さる爪により静止するペスティサイダー。悲鳴を上げる間もなく、爪で引っ掛けられた彼は血を振りまきながら持ち上げられ、爪から外れてまた空を舞う。
落ちてくるペスティサイダーを今度はズテンフェオンの頭が襲った。
ヘルメットのように頭を覆うパキケファロサウルスの硬く重い頭蓋が下から突き上げられ肉の内側で骨が軋む。投げ捨てられた人形のように手足を振り回しながら打ち上げられ、また落ちてくる。
彼をまた頭突きが襲う。まるでボールのように、サッカーのヘッドリフティングのように、何度も何度も頭で突き上げられ血を吐きながら打ち上げられる。
ズテンフェオンは思いの外ペスティサイダーが小気味良く頭上で跳ねるため、この行為に楽しさを見出し始めていた。
弾んだ鳴き声と共に頭突きがペスティサイダーを襲い続ける。
当然ながらペスティサイダーはどうにか脱出できないか足掻いていた。
打ち上げられる度に飛びそうになる意識と思考を必死に保ち、【飛翔】【回転】【落下】などのソイルに生命力を注ぎ込んで離れようとしたりタイミングをずらしてチャンスを作ろうとした。
ソイルのレベルが足りない。
ろくな装備もない状況では上手く行かない。
ズテンフェオンの身体能力が相手では焼け石に水。
逃げられず巨獣の頭に突き上げられ、なんとか頭が間に合わない位置に行けても、巨獣の長い尻尾が、ペスティサイダーを殺さぬ驚きの繊細さで空気を切り裂き打ち据えて地獄のリフティングが続く。
皮肉なことに飛翔の難易度を下げる【飛翔】ソイルを持つ彼は、娯楽に飢えていたズテンフェオンを楽しませるほど小気味良く跳ねた。
その楽しげな様子は飢えるほどではないが、娯楽が少ない死酸島の住民を呼び寄せることになった。
いつのまにか、そばにやってきていたカカポモンスターが足元で声を上げる。
ペスティサイダーを打ち上げるのに夢中だったズテンフェオンは驚き、リフティングに失敗して砂浜に落としてしまうがリカバリーは素早い。
ヨロヨロと緩慢に逃げようとしたペスティサイダーは追いつかれて前脚で押し潰される。
その様子に興味津々なカカポモンスターは、逃げ遅れてズテンフェオンに放り投げられた個体だった。
あの後、樹上で目覚めたモンスターは楽しげにペスティサイダーで遊ぶズテンフェオンの姿に惹かれて近づいてきたのだ。
無邪気な好奇心が島の絶対強者に対する畏怖を忘れさせていた。
頭だけ器用に上下させて何かをズテンフェオンに要求している。
その何かとはズテンフェオンの足の下で弱々しく蠢くペスティサイダー。カカポモンスターは楽しそうな遊びをやってみたくて畏怖を忘れ、ふり続けている大粒の黒雨も気にせず、激しく頭を上げ下げし続けている。
その熱意はズテンフェオンに届いてしまった。
水を吸って重い砂を、できるだけ巻き上げぬように気をつけ蹴り上げられるペスティサイダーは狙い違わず山なりに飛ぶと、ソワソワとフリフリと水を弾く羽と長い尻尾を振るカカポモンスターの頭上へと落ちていき。
手加減の無いカカポモンスターの頭突きがペスティサイダーを突き上げる。
胸にまともに食らい、骨が折れる音を聞かされ息が詰まった。ズテンフェオンのように突き出て硬く重いパキケファロサウルスの頭を持たないフワフワの羽毛に包まれた頭部の一撃だったが、感触が柔らかいだけで殺さぬように気をつけていたズテンフェオンよりも痛烈だ。
見様見真似の乱暴な遊びは、本気の頭突きを繰り出している。
それは偶然にも、カカポモンスターからズテンフェオンへと繋がるパスとなった。今度は手加減しているがずっしりと重く大きな頭部がペスティサイダーは再び打ち上げ、ラリーへと繋がっていく。
全身で嬉しさを訴える、バタバタと足踏みをして踊り跳ねるカカポモンスターがペスティサイダーを待ち構え、四本脚をどっしりと使った一撃がペスティサイダーを襲う。
頭突きで打ち上がり、また打ち上がる。
どちらかがミスすると頭の代わりに鋭い尻尾の一撃が襲う。
砂浜に落ちれば鈎爪で上から押しつぶされて器用に放り投げられる。
そうしてラリーが続く内に、いつの間にか周囲に頭数が増えていた。
黒雨が染み込む灰色の砂浜の一画は、雨を弾き鮮やかに色めき立つレモンイエローの好奇心の塊に染まっていた。
ペスティサイダーが宙を舞えば、レモンイエローの大移動が起きて、我先にと目標を打ち上げようと頭が幾つも飛び跳ね、砂浜に落ちれば先に拾おうと幾つものクチバシや鈎爪がペスティサイダーの上で踊り狂う。
ズテンフェオンは自分にラリーが回って来ないのを不満に思うことなく、目を細めて穏やかに様子を見守っていた。巨獣の心を冷たい黒い雨が気にならない温もりが満たしていく、懐かしい同族の群れの温かさに心まで包まれている。
本来の目的は頭の片隅にも残っていなかった。
そして、それは起きる。
五つのクチバシがほぼ同時にペスティサイダーの頭、右腕、左腕、右足、左足をガッチリを咥え込んだ。取り合いだ。ペスティサイダーを巡ってその五体をそれぞれの方向から引っ張るペスティサイダー引きが始まった。
大事に思うならクチバシを離してくれただろう。壊れてしまうと諭す第三者の介入も期待できた。しかし、ズテンフェオンもカカポモンスター達も、ただ未知の楽しい遊びとしかペスティサイダーを認識していなかった。
新しい遊びが大事であって、ペスティサイダーには興味が無い。
そして、黒雨で洗い流せぬほど血まみれでズタボロのペスティサイダーはそんな状態でも頑丈だった。
それが災いして、カカポモンスター達の引っ張り合いは白熱し、唯一止められるだろう第三者のズテンフェオンは穏やかな目で見つめるだけだった。
ペスティサイダーは五つに引き裂かれた。
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次回更新は明日18:00の予定です。




