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後継のギガダスト  作者: 産土
死酸島ニューゲーム編

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5話目です。

 


 デトネイの昂りが頂点に達するのと、視線の先でペスティサイダーが五つに引き裂かれたのは同時だった。


「くっ………ん!」


 仮面を付けた顔が黒い塵で覆われた空を仰ぐ。


 絶頂に達した熱は、黒雨に冷やされ溶けて砂浜に流れ落ちていった。


 外套以外は仮面しか付けていない状態で砂山の影に座り込むその肢体は、下から緑色の淡い光で照らされ、黒い雨で色褪せた世界に彼女を怪しく浮かび上がらせていた。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ…」


 空を仰いだまま小刻みに震える彼女は忘れていた呼吸を取り戻し、荒い呼吸を繰り返した。下半身に伸びていた手には淡い光を放つ蓄光ドングリ型の対死酸ペンダントが握られ、それは黒い雨とは別の液体で濡れている。


 彼女は抑えきれなかった。


 もっと早く、ペスティサイダーを助けに行こうと思っていたが、仮面の望遠機能が彼女に見せる光景は危ない嗜好を槍で抉るように熱く貫いて強烈に刺激し、気がつくと外套と仮面を残して身につけていた物の殆どを周囲に脱ぎ散らして、緑色に光る蓄光ドングリを手にした手は下半身に伸びて夢中になり。


 デトネイがそんなことをしている間にペスティサイダーは、死なないように必死に残った左手を動かす片腕と胸部だけになっていた。


 まるで身体をバラバラにされても動く気味の悪い虫のようだ。

 赤い体液と黒い雨に濡れながら灰色の砂浜の上で若草色の虫が蠢いている。


 ペスティサイダーの哀れな姿は、デトネイの下腹部の奥にくすぶる情欲の熾火にドロドロと油を注ぐが、彼からのプレゼントである蓄光ドングリを首につけ直して握り込むことで抑える。


「ふぅぅぅ……ひひ! 今、助けてあげる…」


 すぐに手が届く目先のちゃちな快楽に惑わされたが、デトネイが本当に欲しいのは、二人で殴り合うように欲を叩きつけ合うような行為。彼女はセーフティエリアを破壊されるという想定外のトラブルのお陰で、ピンチになったペスティサイダーを助けるという状況に巡り会えた。


 人は貪欲だ。


 生を拾ったなら、眼前の性を喚起する肉の塊に飛びつかずには居られない。


 命の危機という究極の緊張から解き放たれたペスティサイダーの前で、彼女が己をさらけ出せばペスティサイダーの思考は容易く染まり、海上に姿を見せたクジラのように噴き出そうとする情欲をデトネイにねじ込むしかないだろう。


 デトネイは服は着ずにこのまま行こうと決めながらそう確信していた。


 仮面の下で欲と悦で笑うデトネイは己のギガダスト…ガングエイコン20号改18式がフィギュアのように封入されたブリスターを取り出す。


 そして、これから行う困難極まる救助の難易度を改めて思い出し、肉欲とは別の表情が浮かぶ。

 彼女は目先の快楽に惑わされた結果、助けに入るタイミングを完全に逸していたのだ。


 今からだと遅すぎる。それはペスティサイダーがより悲惨で絶望的に追い込まれ、彼女の望みはより深く強く叶う状況だったが、代わりにデトネイが助けに入ってもまとめて死ぬかもしれない状況になっている。

 ペスティサイダーが建造し改修を繰り返した優秀な機体に、レゴリス教団の秘技を施したガングエイコン20号であっても、撃退も逃走もできない可能性の方が高かった。


 ソレでも良いなぁ。


 人は欲望に弱く、易きに流れる。

 そんな人の性に忠実なデトネイは、内側で膨らみ続ける素敵な破滅の妄想に心が傾いていた。


 始まれば一瞬で終わる。デトネイがギガダストに乗った瞬間、巨人の気配に気づいたモンスターは一斉に彼女を目指すだろう。

 ガングエイコン20号の機動力でそれを躱して、モンスター達が反転してくる前にペスティサイダーにたどり着いて収納できるかが肝だ。


 それさえできるなら、どちらに転んでも問題なかった。


 デトネイは死を恐れていない。その手に心が執着するペスティサイダーがあるならギガダストごとモンスターに叩き潰され、中で圧し潰され、二人が混ざり合い血が滲む肉団子になる未来でも良い。


「ねぇ、おまえもそう思わない? ガングエイコン20号!」


 ブリスターから解き放たれた赤いギガダストは、その言葉に頷くように主に跪いた。

 墓もペスティサイダー製だと思えば、まさに転がり落ちることもない永遠の人生の絶頂とさえデトネイは本気で思っていた。


 しかし、彼女は絶頂に辿り着くどころか、転げ落ちている途中だということを知らなかった。


 勢いが弱まった雨に紛れて届く、その音を耳にするまで全く気づいていなかった。


「……はっ?」


 デトネイはそれが幻聴だと思った。


 プレイヤーならプロペラを持つ飛行機を想像する音だ。それが幻聴と一蹴できないほどハッキリと聞こえてくる。高速で何かが空気をかき混ぜ穿孔する音が小さくなる雨音に反比例してドンドン大きくなっていく。


 デトネイがその音で思い浮かべるのは、飛ぶだけでも必死な脆弱な機械ではない。


 神話の欠片で物理法則をねじ伏せ、空を翔ける緑色の巨人の姿だった。


「…嘘」


 デトネイは砂浜でペスティサイダーがユニークアイテムを失ったと話した時にこの状況を予想したが、自分の欲望に夢中で、この瞬間まで頭の片隅にも残っていなかった。


「こ、こんな…よりにもよってこのタイミング!?」


 慌ててギガダストの操縦槽に飛び込み、機体の疑似生命と同調した彼女だったが何もかも遅いとやっと理解した。


 空を覆う黒い塵の上に人型の巨大な影が近づいてくる。音の発生源だ。あろうことかそれが海を越えて死酸島の砂浜の真上にタイミングで、如何なる経緯でそうなったのか、ズテンフェオンは頭上に乗せたペスティサイダーの残骸をカカポモンスター達に囃し立てられながら全力で真上に打ち上げようとしていた。


「なんでぇ!?」


 ズテンフェオンのパワーと【飛翔】ソイルの効果が合わさり、ペスティサイダーは凄まじい勢いで上昇して黒い塵の中に消えて、そこに図ったかのように人型の影が到達する。


 ペスティサイダーの絶望が圧倒的な幸福と希望に塗り替えられた瞬間だった。


 黒い塵の一部が渦巻いて丸く引きちぎられ、眩い日差しが柱のようにズテンフェオン達の真上に落とされ、灰色の砂浜を照らし出した。


 輝くその穴の中央から姿を現すのは緑色の巨大ギガダスト。


「ガングエイコン13号⋯!」


 デトネイは胸元で揺れる蓄光ドングリを握りしめ、その名を呟いた。




次回更新は未定。

今月に更新する気持ちはあります。


ブックマーク、コメント、ポイント、いいねしてくれると、とても嬉しいです。

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