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更新三日目です
浅瀬に沈んだ探し物を見つけたズテンフェオン。
巨獣がまずしたのは初めての海との慎重な触れ合いだった。
ペスティサイダーがギガダストに乗ってないためズテンフェオンは冷静だ。
冷静に初めて間近に目にする海という大量の水に戸惑っていた。
「ぶぶ…」
なんだコレと短い鳴き声。死酸を大量に含む海水。ズテンフェオンには死酸島を支配するものとしてそれは危ないものではないという確信があったが、水分摂取は島に実るレモンで済ませるズテンフェオンは、一面が見渡す限り水という地形を見たことがなかった。
能力は島の回りがそれに囲まれていることも感じ取っていたが、実際に目で見ると不思議でしょうがない。
クチバシを突っ込むのに躊躇いが生まれていた。
意を決して顔を海面に近づけるが、黒雨の匂いで消されていた嗅いだことのない香りを感じ取ると、その巨体が細くなったのかと思うほど上に首が伸ばされる。
樹齢数千年の巨樹の森に囲まれた彼の縄張りにはそんなものは届かず、これも初めてだった。
「ぶぅぅぅん、ぶぅぅぅん」
ズテンフェオンは伸ばした首を左右に動かし、踊るように躊躇していたが、危険はないという確信は大きく、恐れを振り切った無鉄砲な勢いで大きな鈎爪を有する前脚を海中に突っ込みペスティサイダーを掴みとる。
「ぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!」
海水は冷たく、大量の水に包まれる慣れない感触は気持ち悪い。素早く引っ込めた前脚が水を振り払うために振り回され、ペスティサイダーが宙を舞う。
風に吹かれた木の葉のように軽々と放り投げられ砂浜の上に背中から落ちた。
見つかったことを理解した彼は慌てて起き上がろうとする。
その胸をズテンフェオンの足が踏みつけた。
ペスティサイダーの全身の骨が軋み、肺から空気が絞り出された。下が砂浜、ペスティサイダーの骨はダストのお陰で頑丈なため死ぬほどの威力ではなかったが骨越しに肺を押さえつけられて息ができない。
身体が砂に沈む。崩れた砂が、空気を求めて大きく口を開けた顔に押し寄せた。
反射的に砂を払いのけようとしたペスティサイダーの目が、彼を覗き込むズテンフェオンの丸く黒い瞳と交わり、すぐに砂に遮られる。
ズテンフェオンの瞳にはペスティサイダーにも覚えのある輝きが宿っていた。
砂ごと巻き込みながらズテンフェオンの鈎爪がペスティサイダーを鷲掴み引き上げられる。砂から解放される代わりに全身が万力のように締め付けられ、まだ呼吸は許されなかった。窒息による死を回避するために自身の生命力の要である両手を必死に動かして生命力を高める必要があった。
無駄にワキワキと動き出したペスティサイダーの両手を、それこそ奇妙な虫でも観察するように眺めていたズテンフェオンは、おもむろに彼の右手をクチバシで咥えて引き千切った。彼の手も骨も頑丈だが、圧倒的に身体能力を上回っている相手にダストの影響が少ない関節を狙われては無意味だった。
肉の味はズテンフェオンの好みではない。食べても平気だが、草食の要素しか持っていない巨獣は口の中に広がった味に目を細めた後に砂浜に吐き捨てた。
右手を食いちぎられたペスティサイダーは、どこか遠くにあった窒息の苦しみが急速に距離を縮めてきたことに恐怖した。
死が命に向かって腕を伸ばし、指先で触れていた。
「ぶぶ?」
存在感が突然小さくなったことで、ズテンフェオンはペスティサイダーは手が致命傷になると理解した。もう片方も千切ってやれば死ぬのかもしれないと、より激しく奇妙な動きをしだした左手を見るが実行に映すかは迷いがあった。
巨獣の胸中に自身の縄張りに侵入された時の激情はなく、今も目についた細い枝をなんとなくへし折ったくらいしか心が動かない。
とても過去に味わった快感を得られるとは思えなかった。
ズテンフェオンは考える。記憶を反芻する。今と昔の違いを見つけようと思考を巡らせる。悩ましげに横に曲がる首が、頭を逆さまにしそうな可動域をペスティサイダーに見せた末に巨獣は現状と過去に微妙な差異があることに気付けた。
その差異をなくすために巨獣はペスティサイダーを投げ捨てる。
派手に砂を撒き散らして刺さるように解き放たれた彼は、驚きつつもすぐに立ち上がって逃げ出そうとしたが、既に回り込みペスティサイダーを覗き込むズテンフェオンの姿を見て実行に移せなかった。
ズテンフェオンのクチバシにはよだれと血に塗れたペスティサイダーの右手が器用に咥えられている。巨獣はそれをペスティサイダーに向かって再び投げ捨てた。
そして、拾えと言わんばかりに一歩下がり、じっと様子を伺ってくる。
ペスティサイダーは意味がわからなかった。突然、ズテンフェオンの優しさに見える意図不明の動きに逆に恐怖が高まった。気味が悪い。今すぐ逃げたいと足は震えているが自身の命の要の片割れが目の前にあることで動けない。
その様子を見ているズテンフェオンは段々とソワソワしだした。
ワサワサと全身のレモンイエローの羽毛が揺れ動き、早く拾ってくれないかなぁと無言で訴えていた。
ペスティサイダーは拾えばくっつけることができるのに拾うことも逃げ出すことも中々決断できない。
喉を擦り減らすような荒い呼吸。手首からの出血だけでなはく緊張で身体が冷えていく。ゲーム気分だったペスティサイダーを苛むように、世界が冷たい鉛のように重く伸し掛かっていた。
決断の重みが違った。
それでも、逃げるには最低限、両手が揃っていないとあまりにも希望がなさ過ぎた。
生き残るためには右手を拾う決断しか無かった。
彼は意を決っすると、足をもつれさせながら飛びつくように右手を拾い上げ、涎や砂で汚染されているのにも関わらず傷口に合わせて手を結合させる。
流れ出すだけだった生命力が急速に回復し、冷えた身体を回復する生命力が温めていく。
ペスティサイダーが万全には遠いが身体の復調に僅かに緊張を緩めたのと、ズテンフェオンが彼に鈎爪を振り下ろしたのは同時だった。
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次回更新は明日18:00の予定です。




