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後継のギガダスト  作者: 産土
死酸島ニューゲーム編

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更新1日目です

 


「…壊せるオブジェクトだったのか?」


 雨が降ってきた。


 感情がストンと抜け落ちた彼を大粒の雨が濡らす。


 隕石に砕かれ、空に舞い上がった大地の塵が雨となって大地に帰ってくる。


 その雨粒は小石が落ちてきたかのように重く、不気味な黒い色をしていた。


「……インベントリに入った」


 ペスティサイダーが後継のギガダストで初めて遭遇する事態だった。


 如何なるモンスターも近づけないセーフティエリアの消失。転移オブジェクトである灰色の石柱の破壊。どちらもアップデート前は壊せない物だったのに石柱はインベントリに収納されてしまっている。


 頭の片隅にいるゲーマーのペスティサイダーが「レア素材GETだぜ!」と場違いに明るい声を上げているが、これはそんな暢気な状況じゃなかった。


「っ!」


 雨音に紛れて確かに聞こえたガサガサと何かをかき分ける音。


 慌てて音源に向かって振り返ると、砂浜と巨樹の森の境に生えた巨樹の枝に幾つものレモンイエローの塊が見えた。


 カカポモンスターが見える範囲だけでも一〇体以上。枝葉に隠れる二対の好奇心の輝きは数え切れないほど。


 顔だけは可愛らしい巨獣達がペスティサイダーを物珍しげに見ていた。


 その視線に敵意は無いが、森に分け入るまで全く姿を見せなかったモンスターがこんな近くまでやってきていることに彼は戦慄する。


 冷水を浴びせられた気分だった。


 手が震えて歯がカチカチと不快な音を鳴らしていた。降り続く黒い雨で薄汚れたペスティサイダーは雨の中に捨てられたペットの子犬のように震えている。


 愛らしい顔でモンスター達は、ここに安全地帯は無いと無言で突きつけていた。


 咄嗟にインベントリからブリスター…アシッドブレイク5号がフィギュアのように封入された物体を取り出すが、慌てて思い留まる。

 完全に悪手だからだ。ギガダストに乗らなければカカポモンスターは人馴れした猫よりもあざとく擦り寄ってくるだけだ。


 乗れば奴らは殺しに来る。


 収穫期のように好奇心という黄色い果実を実らせた奴らが、その身に宿す巨獣の塵に突き動かされて殺戮モンスターと化す。


 アシッドブレイク6号ならともかく、戦闘用じゃない5号では勝ち目がない。


 ペスティサイダーは必死に自分に言い聞かせた。

 怯えからくる衝動的な暴力は敵だ。

 攻勢は更に不利になるだけだ。

 落ち着け冷静になれ。


「……………すぅ……はぁぁぁぁぁぁぁ…流石にフワフワの好奇心の塊でも木の無い場所には飛び込むのは躊躇する…か」


 それとも雨が降っているせいか慣れぬ砂浜を嫌ったのか、ペスティサイダーにはわからない。


「そうだ…怯える必要は無い。アイツラは襲ってこないし、もし襲われてもUKMじゃない奴らに殺されてもリスポーン……いや、待てよ? 今死んだらどこでリスポーンするんだ? まさかランダムか?」


 ペスティサイダーはもう一つの異常事態に気づく。転移地点として登録されたセーフティエリアの喪失である。アップデート前でそんな状況になったことは無く、そもそもありえなかった。


 この状態で死んだ時の挙動を彼は知らない。


「やばい、やばいぞ、迂闊に死ねない…!? もしランダムなら…死酸島以外に転移するならマシだが、死酸島エリア内でランダムリスポーンなんてしたら最悪だ…ズテンフェオンの直ぐ側で復活したら終わりだ!」


 震えながらズテンフェオンとの戦いを思い出す。

 あの時、UKMが近づいてきただけで周囲の死酸が強化された。その威力は装甲外皮の再生力を上回っていた。あの時の死酸は生身では耐えきれないレベルで、環境ギミックとは言え、ズテンフェオンの影響を受けたアレで死ねばUKMに殺された判定を受ける。


 全てペスティサイダーの推測だったが、ここにはそれを否定してくれる材料も他人も居ない。


 孤立無援。最初は喜び、望んでいたが、彼が思い描いていた状況とはかけ離れてしまった。彼は他のプレイヤーの来ないことを望んでいたのに、いつのまにかプレイヤーが大挙して押し寄せて欲しいと真逆のことを思っている。


 こんな切実な状況は願い下げだと…彼は救いを求めて周囲を見回した。


「ひぃ!」


 カカポモンスターだ!


 樹上で好奇心を鈴なりに結実させた奴らが、黒雨に晒されても色褪せぬ濃緑の葉影から出てきて、ビルのような幹の半ばまで…彼らの身体能力なら飛び降りるなど容易い位置まで降りてきていた。


 黒雨でレモンイエローの羽毛が濡れることなど全く意に介さず、何体も降りてきて更に増える!


 その視線は、黒雨が混じり灰色に見える浜辺で、一人場違いな若草色が目立つオロオロと情けない動きをするペスティサイダーを追っていた!


「て、敵意は…敵意は無い筈だ!」


 ペスティサイダーは自分に言い聞かせ…そして許しを乞うように叫んでいた。

 余計に注目を集めるだけだとわからないほど必死だった。

 当然、カカポモンスター視線が一斉に…集まらない


「はっ…はっ…はっ…?」


 カカポモンスター達は一斉に後ろを振り向いた。ペスティサイダーの見える範囲の全ての個体の頭は砂浜とは逆の森の奥へと向けられている。


 葉影から覗く目の光も見えなくなり、騒がしい気配が静まり返った。


 雨の音と自分の荒い呼吸だけがやけにペスティサイダーの耳に残る。

 彼は先程の恐怖を忘れ、不思議そうに森の奥に視線を巡らせた。


 森は暗く、その奥は見通せない。雨脚が少しづつ強まる黒雨で薄暗いが森よりは日が当たる砂浜にいるペスティサイダーは更に暗い。


 カカポモンスター達の目は、それが森の奥からやってくるのをハッキリと捉えていた。


「ぶーん!!」


「ぶぶぶ!」


「ぶーん! ぶーん!」


 幹の半ばまで降りてきていたカカポモンスター達が砂浜に飛び降りた! 身構えるペスティサイダーには目もくれず、モンスター達は巨樹の森の入口を境に左右に分かれて走り出す。


 鬼気迫る様子だった。

 樹上の個体達も木の葉や細い枝をかき分けて仲間と同じ方向へと必死に移動を開始し、樹上から落ちてくる個体もいるほどの慌て様だった。


「ぶっぶっぶっぶっぶ」


 呆然とモンスター達の騒乱を見るしか無かったペスティサイダーの身体が強張る。


 カカポモンスターと似ているが、決定的に違う鳴き声。

 身体を押されるような圧力を伴う低音が聞こえて来る。


「な、なんで」


 その巨体の足音は全く聞こえなかった。

 フカフカの黒土と更に勢いが強まる黒雨のせいだ。


「ぶぅぅぅん、ぶぅぅぅん」


 カカポモンスターが雛鳥に見える巨体が…


 死酸咆哮ズテンフェオンが、巨樹の森の入口から姿を見せる。




コメント、ブクマなど評価色々、募集中です。


次回更新は明日18:00の予定です。

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