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後継のギガダスト  作者: 産土
死酸島ニューゲーム編

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20/20

20

5話目です。

今回の更新これで終了です。

 


 ペスティサイダーが去った後の巨大樹の広場。


 そこには困惑しているズテンフェオンが残されていた。


 彼は不自然な体勢だった。全長一〇〇mもあるステゴサウルスの骨格にカカポ顔とメットのようにパキケファロサウルスの頭を備えた巨大モンスターが、巨大樹の幹に壁掛け時計のように背中でくっついていた。


「ぶっぶっぶっ」


 苛立たしげに何度も鳴いていた。動けない様子だ。四本足と飛べない翼をジタバタさせて藻掻き暴れるが揺れるだけでビクともしない。


 アシッドブレイク6号の切り札を正面から粉砕したフィジカルを発揮してもその状態から脱出できない。


 苛立ちは困惑に変わった。こんなことは初めてだとズテンフェオンは困惑し、動きを止めて呆然と虚空を見つめた。脱力した四本脚と長い尻尾がブラブラと揺れている。


 そこにUKMとしての迫力は皆無。自身よりも遥かに大きい幹にくっついているため、ただのオウムが翼を休めているようだった。


 この状態の原因は鋭く長い四列の背鰭。その背鰭が鉄のように硬い巨大樹の樹皮に深々と突き刺さり、壁掛けのオブジェのようにズテンフェオンを固定している。


 滑稽な姿だ。


 UKM討伐を目指す者が見れば絶好のチャンスに見える。


 もし、ペスティサイダーがこの状態のズテンフェオンと遭遇していたら、彼は千載一遇のチャンスと誤解して死んでいただろう。


 ペスティサイダーは「死酸はクエン酸?」と半信半疑で推測していたが、それは完全とは言えないが的を得ていた。

 この島にはクエン酸が…死に至る酸と呼ばれるほど異常な【重クエン酸】と名付けられた物質が、ただの空気や水のように充満している。


 バチバチと音が鳴った。発生源はズテンフェオンの背後。音は段々と激しく連続でバババババババッと鳴り続けた。


 死酸島の生態系の頂点。死酸咆哮の異名を持つズテンフェオンは島に無尽蔵に存在する重クエン酸を支配する能力の一端が解放されていた。


 ズテンフェオンの背後で花火のような爆音と火が咲き乱れる。

 幹が半球状にくり抜くように粉砕され燃え上がっていた。


 背鰭が解放されたことで重力に引っ張られ落下を始めるが、その背後では幹が爆発を繰り返し、連続して爆音が鳴り鮮やかな火が咲き続けた。

 落下の軌跡は炎が幹をなめるように真っ赤に燃え上がる破壊痕が刻まれ、花火のような轟音を背負うズテンフェオンが地面に降り立つ。


「ぶぅぅぅん? ぶぅぅぅん?」


 壁掛けオブジェから脱したズテンフェオンはまだ困惑していた。

 身動きの取れない苛立ちで気づいていなかったが、縄張りにやってきた侵入者に感じていた。


 魂を焼くような激情が消えている。


「ぶぶぶぶぶ」


 それは初めてのことではない。

 覚えがある現象だった。

 ズテンフェオンは覚えていた。


 かつて巨人が…ギガダストの集団がこの島にやってきた事をハッキリと覚えている。


 島にやってきたギガダスト集団…それはデトネイがペスティサイダーに語った、この島を調査しにきたレゴリス教団の調査部隊だった。


 ズテンフェオンはそれらを蹂躙した時の記憶を反芻する。

 あの時も激情に突き動かされ、ズテンフェオンは襲いかかったのだ。


「ぶぶぶ、ぶっぶっぶっぶっ…」


 魂の訴える衝動のままに動いた結果、噴出したのは強烈な快感だった。あれはとても気持ちの良いことだった。爽快だった。長年抱えていたズッシリと重い膿の塊が、一気に流れ出たような解放感。


 そんな気持ちをズテンフェオンは味わった。


 彼が抱えるダスト【巨獣の頭】【巨獣の羽毛】【巨獣の血】が宿敵である巨人の末裔を倒したことで得た、魂を震わす快感だった。


「ぶぶぶぶぶ」


 今回、それを感じなかった。


 侵入者は⋯ペスティサイダーは生きているとズテンフェオンは感じていた。


 あの瞬間に気配は小さくなった。回転して弾き飛ばされた時に相手が死んだと思うほどペスティサイダーの気配は小さくなり激情も消え失せたが、死んでいないと不思議な確信がある。


 しかし、気配が小さすぎてズテンフェオンはペスティサイダーを見失っていた。


 近くに潜んでいるのか、遠くに離れているのかもわからない。


「ぶぅぅぅん、ぶぅぅぅん」


 ズテンフェオンの真っ黒な目が道を見つめていた。逃がした獲物を探すのを止めた視線の先に巨大樹広場から巨樹の森を突き進む道が瞳に映っている。


 それはペスティサイダーがアシッドブレイクで歩きやすい場所を選び、通って来た道程。


 その歩きやすさには意味があったのだ。


 その道程は、かつてレゴリス教団が森を切り開き作った道が荒れ果てた姿だった。


 調査部隊が壊滅し、教団はセーフティエリアを維持する灰色の石柱を残して去った。

 残された道は巨樹の成長と侵食により荒らされ、当時のギガダストが集団移動できた姿は見る影もないが…


 その道はズテンフェオンの縄張りから、セーフティエリアまで続く一本道として今も残り続けていた。


 ズテンフェオンは覚えていた。


 その道を通ってギガダストの集団がやってきたことを。


「ぶっぶっぶっぶっぶっ」


 アレを殺せば、あの快感をまた味わえるのだろうか?


 死酸の島の頂点は退屈していた。


 生存権を争っていた別のモンスター種を島から駆逐する過程でUKMに変貌したズテンフェオンに敵は居ない。

 その力を畏れられて同種だったカカポモンスター達から孤立していた。

 久しぶりに現れた外敵であるレゴリス教団は、一度蹴散らすとあっという間にいなくなってしまった。


 力を持て余したUKMにはこの島は余りにも刺激が少ない。


 それでも、頂点であるが故に島から出ることはなかった。


「ぶっぶっぶっぶっぶっ」


 ズテンフェオンは弾むような鳴き声を発していた。

 人であればご機嫌に鼻歌でも歌うような調子だ。


 巨獣の末裔は、久しぶりの刺激を…ペスティサイダーの死に付随する快感を求めて。


 セーフティエリアへと続いている道を進み始める。




「ぬぁぁぁ!」


 ペスティサイダーは叫んだ。叫び、抵抗し、必死に手足を動かした。自身を捕らえる柔らかい黄色の塊を水中を泳ぐようにかき分けた。


「ぶー」


 蠢くモコモコした黄色の塊から右手が飛び出した。その手は緑色。オレンジ色の樹液に濡れていて死酸の効果で勢いよく黄煙が上がっている。

 同様の状態のペスティサイダーの頭も飛び出し、次に上半身と下半身がジタバタと藻掻いて這い出てくる。


「ぶーん、ぶーん」


「ぶー」


「ぬぁぁぁ! よるなモフモフどもめ! 痛いんだ! その毛は!」


 急いでその場を離れるペスティサイダーを黄色の塊達…ズテンフェオンじゃない…カカポモンスター達がノシノシと四本の脚で追いかけてきた。

 彼らの羽毛には死酸が染み込んでいるらしく、柔らかい感触に反して、接触するとグラインダーで皮膚や肉をゾリゾリと削られるような痛みがあった。


 このせいで装備が失われ、ペスティサイダーは全裸となっている。


「くそっ! 暢気過ぎる! 滅びるぞ! 貴様ら!」


 彼らとの触れ合いはまるで拷問だ。耐性があり、それでダメージを受けると生命力が高まるので死の危険は感じないが辛い。

 向こうは見慣れぬ生き物に好奇心旺盛な様子でじゃれついてるだけで敵意が無く、さんざん殺し回ったがペスティサイダーはやりづらさを感じていた。


 後継のギガダストのゲームジャンル名はフルダイブVRロボクラフトRPG。


 メインは勿論ロボクラフトな部分だったが、プレイヤー人口の半分はロボクラフトやRPGとは別の要素に惹かれるトラベル派というプレイヤーが占めていた。


 このゲームのエネミーであるモンスターは、プレイヤーがギガダストに乗ると問答無用で襲ってくるアクティブな暴力の化身だ。

 しかし、それはプレイヤーやギガダスト両方揃った状態に限り、どちらか単体だとモンスターはコチラに興味を示さないノンアクティブな動物となる。


 ギガダストがなければゲームのメインコンテンツに殆ど触れられないが、代わりに生身で超巨大なサファリパークを旅行のような気軽さで練り歩く自由を得る。


 それを目的にプレイしていたのがトラベル派というプレイヤー達で、ゲームのセオリーどおりにペスティサイダーは自由を得るはずだったのだが…


「ぶーん」


「ぶーん、ぶーん」


「ワシはお前らの同族を五〇を殺してるんだが!?」


 しかし、カカポモンスターは敵対しないどころか非常に友好的だった。

 プレイヤー単体だと言うのに彼らはペスティサイダーに興味津々。

 餌をねだる人馴れした猫のようにかまってくる。


 時間はもう早朝。夜明けの森は塵のせいで暗い。ギガダストを使えず、絶え間なく好奇心旺盛なカカポモンスターに絡まれるせいで、UKMの縄張りから離れ、セーフティエリアの近くに戻ってくるまでに夜が明けてしまっていた。


「出口だ!」


 巨樹の森が途切れた。ここまでくればもう安全だと安堵した。アシッドブレイク6号の足で一時間程度の道程は徒歩だと、じゃれつくカカポモンスターの邪魔も有り一晩かかってしまった。


 生成したコーラフレーバーのドングリに興味を示してくれなければもっと遅くなっただろう。


「セーフティエリアの近くにはモンスターは居ない!」


 精神的な疲れからか無意味に叫び、無意識にラグビーボールサイズのドングリを齧る。香ばしいドングリの味をかき消す露骨なコーラーフレーバーの甘みが疲労を訴える心に染みる。


「…場所間違えたか?」


 塵に覆われた空のように雲行きが怪しくなった。ペスティサイダーはアシッドブレイク6号が耕すように黒土に刻んだ跡を頼りに歩いて森の出口⋯セーフティエリアの近くの浜辺に帰ってきたはずだった。


「無いぞ…セーフティエリアが無い」


 優雅に寛いでいると想像していたデトネイの姿もない。どういうことだ? 混乱しながらも砂浜を歩く。彼の足元には森へと向かうアシッドブレイクの大きな足跡が確かにあるのに一番肝心なモノが見当たらない。


「…足跡が多い?」


 セーフティエリアがあった筈の場所には無数の足跡が刻まれていた。アシッドブレイクじゃない二種類の巨人の足跡だ。刻まれた痕跡は方向も軌跡もめちゃくちゃで足の持ち主同士が互いに踏み荒らしている。


 その場で激しく踊り狂ったか、戦闘でも行われないとつかないような跡だった。


「しかも、ガングエイコン! これはガングエイコン20号改18式の足だ! まさか戦ったのか! 畜生! ワシにはガングエイコンが無いのに! デトネイはワシのガングエイコンで戦ったのか!」


 ペスティサイダーの感情は瞬時に沸騰し目的も我も忘れた。危うく粗末で未熟なギガダストで死にかけた彼には、ガングエイコン13号改27式じゃないとは言えデトネイがガングエイコンを自由に乗り回しているのが許せなかった。


「いや、違う! 落ち着け! 20号はあげた物だ、ワシのじゃぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」


 頭をかきむしり、フラフラと荒れた砂浜を歩くペスティサイダー。その足はガングエイコンとガングエイコンじゃないギガダストの戦闘の痕跡が残る中央へと進み、それを見つけてしまう。


「ゔっ!?」


 見つけたのは横倒しになった灰色の円柱。砂に埋もれていたのを素足で蹴飛ばしたそれは、セーフティエリアの中央に立っているはずの転移用オブジェクトの残骸だった。




コメント、ブクマなど評価色々、募集中です。


次回更新は5月中で、その更新で今章は終了予定です。

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