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4話目です
「クソ運営が! このタイミングで言うことか!?」
言われなければ、何も知らずに死んでいたが言わずにはいられない。
そして、無駄に言葉を発した分だけ向こうは近づき。
できることが刻一刻と減っていく。
路線変更が必要だ。ペスティサイダーが思い描いた未来は砕け散った。そこに向けて敷いたレールに乗ったままでは死んでしまう。運営の言う通りに本当に死ぬかどうか見極める方法を持っていないが確かめる方法は無いのだ。
見えぬ真実よりもズテンフェオンという目の前の現実が優先だった。
「予告無しにサービスを変更することがあると言ってもこれは無い! 今更いうことじゃないが!?」
巨大樹より現れて飛び降りるズテンフェオン。ペスティサイダーが新たな路線を決めかねている間にも敵は接近、何百mもありそうな高さからの着地の衝撃を身体能力で踏み潰し、周囲の黒土を吹き飛ばしながら凄まじい勢いでコチラに向かってきている。
その姿は、ゲーム気分な戦意をみなぎらせていた彼の戦意を容易く粉砕した。
しかし、逃走はできない。ペスティサイダーがゲーム気分から覚めようと、そもそもゲームの中にしか存在していないギガダストは敵対状態のモンスターから逃げださないというこの世界のルールに支配されている。
ドングリレバーは逃走の意思を頑なに拒否し、相手が新コンテンツのUKMでも同じだとアシッドブレイクは主張していた。
行かせまいとその場で踏ん張らなければ、ただでさえ欠片も勝ち目がないのに無策で正面衝突する手応えだった。
時間が無い。いっそのことアシッドブレイクを放棄するかとペスティサイダーは真剣に考えるが、間もなく装甲外皮を襲う死酸の圧力が増したことでその選択もできなくなった。
ズテンフェオンが近づくほどに死酸が強くなり、機体から噴き上がる黄煙の勢いが増しているのだ。
「そういう能力か…!」
逃げ場も視界も死酸に奪われた。
コチラの恐怖を煽るように強者の走行音だけがズンズンと煙を揺らして突き抜ける。
いよいよアシッドブレイクを抑えきれない。直接ではないが一方的に攻撃されている状態に疑似生命は我慢の限界を迎えている。
機体が暴走状態になる前に攻めの姿勢になるしかなかった。
気持ちも腰も引けてしまったペスティサイダーは何としてでも相手の初撃を防ぐためにアシッドブレイク6号の性能では切る気はなかった切り札に縋り付く。
祈るように組んだ両手に纏うのは、周囲を歪ませ重力場が渦巻く空間歪曲。
【巨人の手】の能力の一つ【超重歪曲拳】。
空間も握り潰す大いなる巨人のミソロジカル握力がレベルの足りない貧相な機体に顕現した。
この瞬間アシッドブレイクの両手は、保有する様々な能力も合わさり機体重量の約三〇倍となる。
「ドングリフライホイール全力稼働! 保たせろよぉアシッドブレイク!! おまえが悪いんだぞ!」
空間歪曲に巻き込まれた装甲外皮が嫌な音を立てる。表面が削ぎ落とされるように発泡素材が剥離していき、機体内部のペスティサイダーにも身体を拗じられるような苦痛が襲う。
強化された死酸のダメージも合わさると長くは持たない。
黄煙がゴウゴウと両手に落ちていき、晴れた視界で目前にまで迫っていたズテンフェオンの姿とペスティサイダーは対面する。
その姿はカカポモンスターに似ているが、遥かに大きい。
体高だけでも二〇mあるアシッドブレイクの倍。ステゴサウルスを思わせた背鰭は長く鋭い四列となり、長い尾を併せた全長は一〇〇mはありそうだった。
何よりも違うのは顔。可愛らしいと言えたカカポ顔に額から頭上にかけて羽毛を失う代わりにドーム状に肥大し、ふちを短角に囲まれた見るからに頑丈で厳ついハンマーのような形状になっている。
「まさかパキケファロサウルス!」
どうみても頭突きが得意技な姿だ。
ハンマー頭は下げられ、アシッドブレイクに真っすぐに突き出す突撃の構えになる。
「ぶ! ぶ! ぶ!」
「が、学説通りにその首をへし折ってやる!」
「ぶぅぅぅぅぅぅ!!」
足りない気持ちはアシッドブレイクの蛮勇と頭突きの反動を吸収できる構造じゃないから頚椎が折れるというパキケファロサウルスの学説を思い出し補う。
変わり果てたカカポ顔に向かって歪曲した空間を纏う両手を突き出し、生命力を燃料のように焚べられて激しく脈動する動力袋と【突進】ソイルが生み出す推進力が機体を弾き飛ばすように急加速させた。
ズテンフェオンの突撃とアシッドブレイクの決死の切り札が激突し、拮抗する。
実はパキケファロサウルスの頚椎骨折説は、ある要素を軽視した説だと言われていた。
それは筋肉。頭突きで頚椎骨折は骨しか見ていないという指摘があり、骨の構造ではなく筋肉が反動を吸収して強力な頭突きをくりだせるとも言われているのだ。
実際に骨格にそういう構造が無くとも頭突きを得意とし、争いで互いにぶつけ合う動物が実在している。
アシッドブレイクの両手で繰り出した切り札と正面衝突したズテンフェオンの肉体は、鳥とは思えぬ重厚な筋肉の塊だった。
更にはパキケファロサウルスよりも足が多く力強い四足走法。
どの説が正しいかは不明だが、刹那の拮抗を生み出した全力攻撃の天秤はもう相手に傾いていた。
コチラの威力は殺し尽くされ、ズテンフェオンに押し返された威力はそのまま反動となってアシッドブレイクの全身を襲う。
上半身の装甲外皮は腕から弾け飛び、ダストの影響で最も頑丈なはずの手指が折れ砕け、限界を振り絞った動力袋の幾つかが破裂して燃え上がる。
アシッドブレイク6号はあっという間にスクラップだ。
最早ギガダストとしてまともに機能するところは塵面気だけとなった。
今はそれで十分だった。
塵面気が生きているだけでまだ次がある。
「グラビトンバブルフォーム展開!」
機体は気密性を失っていた。強化された死酸に晒されたペスティサイダーが痛みに耐えて叫ぶ。
残りの生命力の殆どを【重力】【樹液】ソイルによって生成できるグラビトンを含んだオレンジ色の発泡樹液に変えて大量に分泌する。
両者を包み込むグラビトン発泡樹液。アシッドブレイクとズテンフェオンの体長の半分を瞬く間に飲み込み瞬く硬化。両者は固定され、含有するグラビトンが蒸発することで重力に還元される。
周辺重力が激増し、地面が落とし穴のように陥没してギガダストとモンスターは落下した。
突如生まれた巨大落とし穴と局所的重力の増大に引きずり込まれたズテンフェオンは、頭を軸に巨大な身体が半円を描く。
「回れぇぇぇぇぇぇぇ!」
ペスティサイダーは、生み出されるよりも減る方が早い生命力を機体の疑似生命から必死に絞り出し【回転】【飛翔】ソイルに注ぎ込む。
異物が張り付く頭を軸にズテンフェオンが風車のように回転し始める。
「ぶぶ!?」
回転はドンドン加速し、あまりの速度で黄色の円盤と化した両者は回転速度が上がるほど急上昇。生み出された回転エネルギーと推進力で、あっという間に巨大樹が見下ろす巨樹の森の上空へと飛び出した。
この回転の遠心力がアシッドブレイク6号に止めを刺した。
硬化した発泡樹液に包まれたペスティサイダーが崩壊する機体から勢いよく飛び出てくる。
「負けてやる!」
「ぶぅぅぅぅぅん!?」
同時にアシッドブレイクの崩壊で回転の重心がズレたズテンフェオンも反対側へと吹き飛ばされる。
「だが命は駄目だ!」
なんと情けない捨て台詞。言葉は傲慢。上位者が譲ってやると譲歩する響きを持たせているのに内容はただの命乞いだった。
それを自覚しながらも強者のように堂々と叫ぶペスティサイダーは、戦いとも言えない一方的な衝突から離脱していった。
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次回更新は明日18:00の予定です。




