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後継のギガダスト  作者: 産土
死酸島ニューゲーム編

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2/20

本日二話目。

 



 口の中に漂う潮の香りと塩辛さで眉間に皺を寄せる。


 不快な目覚めだった。


 ペスティサイダーが意識を取り戻すと、一糸纏わぬ若草色の肌を照り付ける陽光に晒し、波打ち際で左半身をザブザブと海水に洗われていた。

 光合成は捗るが、肌と同じ若草色の癖毛の長髪は海水に濡れてズッシリと重い黒色となり、まるで海草が人間から生えてユラユラゆれているように見えた。


「ぐぅぅぅ…」


 不快感で呻き、ヨロヨロと立ち上がった彼が周囲を見回すと、見覚えのある灰色の石柱が砂浜に突き立っているのが目に入った。


 寝起きの頭は霞がかかったかのようにボンヤリしていたが、そんな状態でも彼は、ここがセーフティエリア…ゲーム内の戦闘行為禁止区域…モンスターが出現しないし近寄れない場所だと無意識に理解できるゲーム廃人だった。


 それ以外の認識はあやふやで、何がどうなって砂浜で全裸で転がっていたのかペスティサイダーは咄嗟に思い出せなかった。


 とりあえず彼はセーフティエリア中央にある石柱…転移用オブジェクトに触れてみる。


 いつものように見慣れた転移用のメニューが脳裏に表示される。


 そこには彼が実際に足を運んで石柱に触れたことがある場所の転移用オブジェクト名…転移可能な地名…がズラリと一覧で表示されるが、全てがグレーアウトしていて選択ができない。


 それらの行動をしているうちにペスティサイダーの頭の霞はジワジワと晴れ、現状を理解し始める。


「クソがっ!」


 なぜこうなったのか、その原因となった記念イベントに抱いた感情が弾けるように蘇った。


 不快感で刻まれた眉間の皺が憎悪で更に深くなり、少女とも少年とも形容できる中性的で、若草色の髪と地肌、熟れた果実色の紅い瞳という妖怪じみた整った外見を裏切る、重く深い低音の罵倒が飛び出る。


「なんだったんだあのイベントは!? なんで全裸なんだ! 全年齢ゲームでだめだろこの造形は! いつもの脱げないインナー何処行った!?」


 楽しいイベントのはずだった。


 なのに胸に抱いたワクワクとドキドキを全て裏切られた。


 ひとしきり叫び意識が確かになった彼は全裸で居ることに無性に恥ずかしくなる。本当の姿とはかけ離れた色味と造形とはいえ、現実でもぶら下げている股の間のソレが、ベタつく潮風に晒されているのはいたたまれない。


 衣服を…着用していたはずの装備を探してインベントリ…アイテムの収納空間…に脳裏でアクセスする。


「なっ」


 無い。


 隕石墜落の衝撃で即死後に全裸。薄々そんな気がしていたペスティサイダーだったが、希少な素材で作られた身につけていた装備どころか、予備として持っている型落ち装備、死蔵していたアイテム、溜め込んでいたゴミすら見当たらない。


 インベントリは完全に空っぽだった。


 ペスティサイダーがこんなインベントリを見るのは一〇年以上前にこのゲームに初ログインした時以来だった。上限がないことを良いことに十数年間溜め込んでいたアイテムが何処にも見当たらない。


 八割は時間とゲーム内通貨があればいつでも入手可能なアイテムとはいえ、全裸の恥ずかしさなんて何処かへ飛んで行く衝撃の光景だった。


「嘘だろっ!?」


 その衝撃は序の口だった。


 動揺が思考操作を乱し、別のショッキングな現状を彼に突きつける。


「レベルがリセットされている! ぜ、全部…じゃない! 全部じゃ、逆になんで【巨人の手】と【果実】だけは無事なんだ!!?」


 後継のギガダストは【ダスト】【ソイル】という他のゲームではジョブやスキルに該当する能力の組み合わせでプレイヤーやギガダストの基礎能力をビルドできる。


 それぞれにレベルが有り、モンスターとの戦闘やギガダストの建造などの行動で経験値を取得してレベリングして強化できる。


 ペスティサイダーは、当然それらのレベルを全てカンスト…カウンターストップさせていた。

 サービスが長く続くほど上限も大きくなっていったダストとソイルのレベル。


 そんな最もわかりやすい努力の証が失われている。


 しかも、それは運営が行なったプレイヤーのアップデートと称するコメディの結末のような巨大隕石大爆発により唐突に引き起こされたのだ。


 アイテムの消失も含めて、余りにも大きな損失だった。


「ゆ、ユニークアイテムも無い…どういうことだ、完全破壊不能で完全譲渡不可能、あなただけの特別なアイテムという謳い文句は何処に行ったんだ…は、破壊されたのか? ワシのガングエイコン…ガングエイコン13号改27式も…破壊されたのか…?」


 ガングエイコンとは、ペスティサイダーが自ら建造したギガダストに与える名前だ。


 彼が建造したガングエイコンシリーズの中でも13号改27式はデザインが一番気に入っている機体だった。


 何度も改修と改名を繰り返したお気に入りの乗機であるが故に後継のギガダストの酸いも甘いも共に分かち合っている。

 後継のギガダストを遊ぶプレイヤーの多くがそうであるように、ペスティサイダーにとってガングエイコン13号改27式は物言わぬ玩具にして寡黙な戦友だった。


 最後に見た姿を思い返す。

 それは隕石から逃げるためだったのに天に召されるかのように上昇し続ける玩具にして戦友の姿は、永遠の別れを告げられた気分をペスティサイダーに味わせた。


 その妄想は鋭い刃となって胸中をズタズタに抉り穴を空け、喪失という極寒の風が吹き抜けていく。


「…もういい…何がアップデートだ…最低、最低だ…神ゲーだったのに投げ捨てて惜しくないクソゲーになってしまった」


 積み上げた物をすべて失ったが所詮はゲームである。

 これが何らかの事故、自分のミスだったなら泣きながらも、笑い飛ばして奮起する未来があったかも知れない。

 これは楽しいファンタジーで装飾された、運営という生々しい悪意を持つものによって実行された。


 ペスティサイダーはそうとしか思えない現実に心折られ、失意のままにログアウトを選択する。


 〈全てのユニーク・キラー・モンスターを倒すまでログアウト機能は解放されません〉


 そんな彼をこの仮想世界に留まらせたのは、ログアウト実行と同時に脳裏に表示されたテキストメッセージだった。


コメント、ブクマなど評価色々、募集中です。


本日22:00に三話目を予約投稿しています。

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