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後継のギガダスト  作者: 産土
死酸島ニューゲーム編

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16/20

16

おまたせしました。

1話目です

 


 謎の大型アップデートから既に四日も経過していた。


 ギガダストを操る片手間。昼食としてコーラ風味ドングリを齧るペスティサイダーも流石に現実の状況が少し気になっていた。


 四日経ったのはゲーム内の時間だ。

 特殊なシステムにより体感時間は現実の三倍となっている。


「ガリガリ…それでも一日以上経過しているな…ゲフッ」


 つまりそれだけの時間、肉体は飲食もトイレも無しで寝ていることになる。

 死ぬほどの時間じゃないが、何かしら不具合を感じてもおかしくない時間経過だ。

 なのにシステムがアナウンスする筈の長時間ログイン、脱水や空腹症状などを告げる警告メッセージが一切無い。


 何も感じないなら考えるだけ無駄。

 気にする必要はないなと、ペスティサイダーは思考を打ち切った。

 それよりも森に近づくほど死酸が強くなっていることの方が彼は気になっている。


「更に強くなるか」


 ペスティサイダーが動かすアシッドブレイク6号は、UKMが潜んでいるらしい巨樹の森へと足を踏み入れた。


 その途端に薄くまとうだけだった黄煙が音を立てて威力を増していく。


 しかし、アシッドブレイク6号は止まらない。


 アシッドブレイクは外見も性能も大きく変化していた。


 メインカラーは緑色。丸々としたドングリに足が生えたドングリオバケスタイルは変わらずだが。

 機体の核となる塵面気は、ドングリ胴体の天辺を覆うクヌギ系ドングリ帽子…モサモサと生えた反り返る鱗状木質が形成するコミカルに歯を剥き出して笑うカエル頭という凝ったデザインになり。

 両腕は左右の肩に八連装ドングリランチャーと腕のように太く長い巨大な指を備えた両手をぶら下げている。


 オーバーヒートした機械のように轟々と黄煙を発するアシッドブレイクの歩みは濃度を増した死酸に侵され弱るどころか、一歩踏み出すごとに力強くなった。


 機体が持て余す疑似生命のエネルギー発光。三日月のようにコミカルに歯を剥き出し笑う口を模したバイザー型の塵面気の目を真夏の太陽のようにギラギラと輝かせている。


 煙で悪化するはずの視界も良好だ。


「障害をねじ伏せ踏み潰し進む、これぞギガダスト…巨大ロボの嗜みだな」


 耐性への負荷をエネルギーに変えられる【耐性】ソイルがやっと本領を発揮していた。

 今までは死酸が強すぎて役に立たなかったが機体が強化され、死酸によるダメージは逆に擬似生命を強靭にしている。


 その結果にペスティサイダーはニヤリと笑う。


「くっくっくっく………さて、よく見るとレモンなのかこの木、死酸の正体はクエン酸とか言う気か…いや、本当にそんな香りがするな???」


 塵面気が感じ取る爽やかな香りと酸味は完全のレモン風味だ。気になったペスティサイダーは道中に落ちていた軽ワゴン車サイズのレモンを一つ、アシッドブレイクに拾わせてインベントリに回収しておく。


 デトネイの話には素材情報は無い。今の状況だと漢鑑定が必要。インベントリに収納できたのでモンスターでは無いが正体は不明だ。

 この環境で大きさ以外は呑気に果実をやっていられるなら耐性強化に役立つかもしれないが、危険物の可能性も高い。

 インベントリから直接スロットにセットできないシステムの不便さを嘆き、詳細は後回しで探索を優先する。


 アシッドブレイクの大きさでも樹冠は見えない。

 百年どころか千年生きていそうな巨木達の根と腐葉土が折り重なり合う地面。


 そんなデコボコの地面をギガダストが進む。


 足場は悪い。空気をよく含むフカフカの黒土は一歩踏み出せば機体の足首まで沈み込んで足を埋めるように周囲の土が崩れてくる。


 しっかりと足を持ち上げなければ足元に小山ができそうな有様だった。


 アシッドブレイクは土を耕す農夫のように地面をひっくり返し、大股で不格好に歩くことを強制されている。


「なのに足跡らしきものは見当たらず…代わりに幹の上の方には無数の爪跡らしき樹皮の傷……デトネイから聴いた通りか」


 歩行をアシッドブレイクの疑似生命に一任し、ペスティサイダーは頭上に注意を払っていた。


 鋭い爪を持ち樹上生活をしているモンスターの存在を事前に知らされていた。

 彼は、経験の浅い疑似生命の未熟な足さばきよりも頭上からの奇襲を警戒している。


 幸いにも歩くのは見た目ほど難しくない。森を形成する巨樹は大きく、空は木の葉で殆ど隠されて薄暗く既に森の入口も見えなくなっているが、幹と幹の間は二〇mの巨体が楽々進めるほど広く開けていた。


 未熟な疑似生命の歩行でも問題無い。


「新鮮だなぁ、そんなことを気にしながらギガダストを歩かせるなんて」


 まるで初心者に戻ったような気分だった。


 彼は後継のギガダストが大好きだ。だからこそ自他ともに古参プレイヤーだと認める彼の長い活動期間が楽しさを摩耗させていたと気づいていなかった。


 それが強制的にリセットされたことで、凝り固まった執着は溶けて、摩耗して歪に変形していたこのゲームを楽しいと思う心が。


 初心者だった頃の真球のように美しい純粋さを取り戻していた。


「冒険は楽しいな、アシッドブレイク!」


 その言葉に答えるかのようにアシッドブレイクに衝撃が走った。

 何かが上から、二〇mの巨体を揺るがす勢いでのしかかってきたのだ。

 それは同時に鋭い鈎爪を装甲外皮に突き立て空気を震わせる鳴き声を上げる。


「ぶぅぅぅぅぅん!」


 モンスターの襲撃だ。不覚にも相手の先制攻撃を許したペスティサイダーの視界が機体と共に傾く。鼓膜を圧迫されるような重い低音の鳴き声は少々マヌケだが、機体が大きく片足を上げた瞬間を狙った襲撃はマヌケとは程遠い狡猾さがあった。


 足場は柔らかく不安定。ギガダストとモンスターの重量でより深く沈み込みバランスを保っていられない。


「ぶぶ!?」


 ペスティサイダーは敢えて崩れたバランスに逆らわなかった。寧ろ勢いを増して機体をはん回転させた。同時にモンスターを【触手】ソイルで伸ばした腕のように太い指が絡め取る。

 乱暴だが背負投げの形。【回転】ソイルを中心に他の能力によって回転運動エネルギーを増幅したその勢いは、モンスターが樹上から飛び降りることで得ていた威力の殆どを根こそぎ奪い取りモンスターを地面に叩きつける。


 鋭い鈎爪が装甲外皮の表面を傷つけ、叩きつけた勢いで腐葉土が爆発したように弾け飛ぶ。


 モンスターは奇襲成功したと思い込んでいた。瞬く間に地面に叩きつけられ、その衝撃で目を白黒させて混乱し、殺意と闘争心を一瞬忘れてしまう。


 モンスターとは逆にアシッドブレイクの殺意と闘争心が激しく燃え上がった。


 ペスティサイダーの追撃の意思よりも先に機体が動く。


 アシッドブレイクは先端から弾頭のようなドングリが顔を出す指をドリルのように高速横回転。そのまま相手の胴体に極太のピンドリルと化した四本の指が深々と突き刺さり、羽毛と血肉を回転によってえぐり飛ばした。


コメント、ブクマなど評価色々、募集中です。


次回更新は明日18:00の予定です。

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