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後継のギガダスト  作者: 産土
死酸島ニューゲーム編

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2話目です。

 


 日が傾き始めた頃だったのにペスティサイダーは気がつくと朝を迎えていた。


 恐ろしく湿度と威力の高い解錠呪文を食らった彼は、たまらずアシッドブレイクの内部にデトネイを迎え入れてしまっていた。


 今は一つの座席で密着しながら仲良く座り、対面した時に全裸で待機していたとしか思えない状態だったペスティサイダーは仮面で再び顔を隠した彼女に笑われている。


 二人で飲む、モーニングドングリ珈琲…コーラフレーバーではない…がやけに身体に染みる気がするペスティサイダーだった。


「あっはっはっはっはっはっはっ! おっかしぃの、なんで準備万端だったのぉ?」


「ぬぅ………」


「ははっ、こ、こらえるのに必死で、自身で作ったムードぶち壊し…ふっだめぇ思い出して幾らでも笑えてくる」


「ぬぅぅぅ……」


 アップデート前の印象とは少し違う意外とコロコロと笑う可愛い声が、全身を揺さぶるようなよくわからない衝撃をペスティサイダーに与える。


 ぐっと色々と湧き上がるものに堪えた彼は、唸ることしかできず、いい加減下着ぐらい作ろうと決意した。


「…それより、なんで生きてるんだ?」


 ペスティサイダーは覆せない状況から逃避するためにデトネイに疑問を投げかけた。

 彼は自身の装備よりもギガダスト建造を死酸島の攻略を優先していただけで全裸待機していたわけじゃないと訴えたかったが、デトネイに更に笑われると確信があり諦めている。


「ひひひっなぁに哲学ぅ? ワタシとオマエでそんな難しい話するのぉ?」


 デトネイはドングリ珈琲を飲み干すと「知性…いらなくなぁい?」と肩を寄せ、ペスティサイダーによって丹念に樹液が取り除かれた外套を半分開いてみせた。


 肌が顕になり、ムワリとアシッドブレイクの空調が取りこぼしていた、行為の残り香がペスティサイダーの鼻腔を刺激し、樹液とそれ以外の液にまみれた生々しい映像が脳裏をよぎるが慌てて頭を振って忘れる。


 解錠呪文の威力で流されたが、今の状態ではペスティサイダーを動かすほどの威力は無い。


 外套越しにほんのりと伝わる鎧の無い温かい肉感を楽しみ、外ではアシッドブレイク5号による作業を再開する余裕があった。


 後継のギガダストの古参プレイヤーは伊達じゃない。

 ペスティサイダーは色香に惑わされながらも、扱いが難しい上にレベルがリセットされた【触手】ソイルを使いこなす熟練のギガダスト職人だった。


 左右に肉眼と機体の視点をふり分け、ドングリ珈琲を飲み干し、デトネイと会話を続けながらギガダスト解体もこなすことができる。


「そろそろ何か履いたらぁ?」


 結局ペスティサイダーはそこまで手が回らなかった。


 他を優先した緑色の全裸、外套の下から見え隠れする裸体のチラリズムの会話は横道に逸れながらも続けられた。

 その会話で記念イベントの時にデトネイ…NPC達はどうしていたのかがペスティサイダーは知った。


 彼女を含む大陸の各都市に存在していたNPC達は全員、彼女が所属しているこのゲームで一番大きな組織であり唯一の宗教団体…ゲームプレイヤー視点だとクエストの受注所…であるレゴリス教団の本部に保護され隕石衝突被害から逃れていたという。


「月か…」


 教団本部…そこはストーリーモードで最後にプレイヤーが訪れる場所で遥か遠い空の先…月面にある。


「そ、みーんな、お月さまの上で高みの見物ぅ」


 デトネイの答えにペスティサイダーは思い当たる節があった。


(そういえば、ログインした時にNPCを見かけなかった気がする…)


 そうなるとペスティサイダーには気になることがあった。


 月にまで逃げていたNPC達は、あの隕石の襲来で大陸が吹き飛ぶことを事前に知っていたことになる。


「ワシは聞いてないんだが…」


 異常な状態だがこれはゲーム、これは八つ当たりだ。アップデートで降って湧いた情報だとペスティサイダーは理解していたが、失った物を考えると運営に文句を言えない状態では眼前のNPCに文句の一つでも言いたくなる気分にさせていた。


「ひひ、不死身の後継者さま方には必要ないよねぇ?」


「ぬぅ、そんな…設定だったな」


 プレイヤーは不死身だ。


 アップデート前はただのゲームなのだから当然だが、世界観にもそれは組み込まれ、デトネイのようなNPCにもそう認識されている。


 そして、運営が推奨してるプレイ方針はサービス開始から一貫していた。


 失ったギガダストはまた作れば良い。


 全く納得できず腹立たしいが、精魂込めて建造したギガダストがちょっとしたボタンの掛け違いで無残に破壊されるのもこのゲームの醍醐味。


 それを幾度も体験し乗り越えてきた古参のペスティサイダーには反論が難しい。


 初心を忘れていたのではないかと少し反省の念すら生まれるくらいだ。


 ペスティサイダーはそれでも、ガングエイコンの件は絶対に許さないし、ドングリが届く範囲に運営関係者がいたら本気でぶつけてやろうと考えている。


(…中の人とか居ないよな?)


 彼は生成したドングリを回転させて弄ぶ。

【果実】スキルは果実を扱う難易度を下げるソイルだ。

 その効果は幅広く、武器として扱うことも容易にしてくれる。


 それだけで彼のドングリの投擲は人体くらい簡単に貫通する威力が宿り、他のソイルも合わされば人そのものを粉砕することも容易い。


「これは予言された試練の時、機は熟し、後継者さま方の逃れられぬ運命の時が遂に来た…ってわけ」


「おおっと、知らない情報が出てきた」


「んんっ」


 何故か、囁くように仮面越しに甘ったるい声で耳打ちされる情報にペスティサイダーは背筋をゾクゾクと震わせ、一段と低い声で応じた。

 彼はそういうのが今一番聞きたいのだと鼻息を荒くし、弄んでいたドングリを無意識に噛み砕く。


 中の人が居るとか、運営に痴態を見られたどうかなど、つまらないことはもう記憶の片隅にも残っていない。


 そのまま魅力的なNPCのデトネイから告げられる魅惑の新コンテンツの断片に聞き入る。


 未知の情報の中には、転移オブジェクトである灰色の石柱を死酸島に設置したのはレゴリス教団で、環境ギミックのせいで大勢の団員が犠牲になったというどうでも良い情報もあった。


 後継のギガダストのリアリティなら実際にNPCを犠牲にして実行した可能性もあったが、興味がないペスティサイダーはただのフレーバーだと聞き流す。


 そんなことよりも、アナウンスされた新コンテンツが一体この島に棲息しているという非常に心が躍る情報の方が優先される。


【死酸咆哮ズテンフェオン】

 それがこの島を支配しているユニーク・キラー・モンスター…UKMの名前だった。


「そういえば、教団がサポートの為に人をやってるのはさっき聞いたが、デトネイ以外にも来るのか?」


「えぇー」


 ペスティサイダーがそう聞いてしまうとデトネイの声色は明らかに不機嫌に染まった。


 何か不満があるのかと問うように、仮面を被った彼女の顔がペスティサイダーの横顔に押し付けられる。


「で、デトネイ一人?」


「…そぉーだぞぉ、派閥違いのバカがねぇ勝手に決めて集団でオマエのとこに行こうとしてたからぁ、全員ね、殴り…………ひひっ倒してからワタシが来た」


 ペスティサイダーしかいないから交友があったデトネイが、一人で来たと納得しかけた彼だったが、それが事務的なシステムによるものではなく、彼女が独断で来たというシチュエーションを聞かされ…


「どぉーうれしぃ?」


 喜びがあることに気づいて、ペスティサイダーは表情を歪ませた。




コメント、ブクマなど評価色々、募集中です。


次回更新は明日18:00の予定です。

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