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ブクマや評価が増えて嬉しいです。
初期のゲルドアルドよりも好調かもしれない。
ありがとうございます!
全部で5話を今日から毎日18時に投稿していきます。
「ふーん」
蜜蜂の巣からこぼれ落ちる、蜜のように甘い声だった。
灰色の石柱…転移オブジェクトから現れた仮面と外套で全身を隠した人物は、甘い女の声で鳴き、ユラユラと左右に体を揺らした。
それは美しく芳醇な花が虫を誘うようでいて、捕食者が獲物との距離を念入りに図っているようにも見えた。
外套の隙間から覗く着衣は随分と使い込まれた印象を受ける革と金属の軽装鎧、身体の動きを邪魔せず女の要所を守り、生まれ持った肌のように身体の線に密着するそれは後者が正解だと訴えている。
「くっくっく、くっはっはっは!」
「…ひひ、いいなぁ」
極貧状態からの素材の山に笑いが止まらないペスティサイダーの低い声に反応し、彼女は仮面の奥でとろけた表情をすると、唐突に仮面の女は走り出した。
フラリと前に倒れるように胴体を地面とほぼ水平に傾けて矢のような速度で足場の悪い砂浜を走り抜け、その勢いのままに辿り着いたアシッドブレイク5号の足を垂直に駆け上る。
ヘビィゴーレムの解体作業を続ける上半身は激しく揺れ動いていたが、下半身を登りきっても速度は緩まずあっという間に二〇mの巨体の肩にたどり着いてしまう。
そんな仮面の女を迎え撃つように細長く人の胴より太い物体が大蛇のように正面から襲いかかった。
足元の小さな存在に気が付かないほどに流石に作業に集中していたペスティサイダーでも緑色の装甲で行う光合成を遮られると嫌でも気がついた。
太く長い物体はアシッドブレイクの指が【触手】ソイルの力で細長く変化した物だった。
この触手は改修から解体に様変わりしたヘビィゴーレムの内槽骨格を吊るし上げるクレーンのように力強く働き、細かな作業を行う職人の手のように繊細な作業に使われていた。
「あはっ」
彼女は触手とぶつかる寸前に喜びすら滲ませて笑う余裕を見せる。
ヒラリと回って触手の先端を躱し、空中に灰色の外套が花が咲くように美しく円を描いて広がる。
触手は躱されたとわかるとすかさず先端から反り返って向きを変えるが、その動きで下り坂になった触手の背に仮面の女は飛び移った。
そのまま優雅に横向きに腰掛けて滑り降りる。
進行方向より後ろに回った手はその速度と感触を楽しむように攻撃的な造形の手甲に包まれた指先で表面を撫で、もう片方の手は二本の指で灰色の仮面の口辺りに触れた後…
銃を突きつけるようにアシッドブレイクの塵面気に向けられた。
塵面気越しにそれを見たペスティサイダーは、仮面で隠されているはずなのに、夜を引き裂くような三日月の笑顔が見えた気がした。
ぞくりっと震えた背筋。相手の正体を察して内心動揺しつつ、ペスティサイダーは滑り台にされた触手を波打たせて仮面の女を空中に弾き飛ばした。
そこに二本目の触手を向かわせるが、またも灰色の花を咲かせて彼女は躱してみせる。
向かってきた触手に突き立てた片手で速度を殺し、触手の回りを計算され尽くした曲芸のように螺旋を描いてグルグルと降りていき…その途中で【樹液】ソイルで分泌された粘着性の高い液体にドップリと浸かった仮面の女は身動きが取れなくなった。
そこに反転してきた一本目の触手の先端が追いつき、彼女を橙色の半透明な樹液ごと掬いとって絡め取り捕獲する。
こうなってしまえば人の力では何もできない。
この世界でギガダストとはそういう存在だ。
そして、ネットリと彼女の肢体に絡みつく樹液には攻撃的な成分は一切含まれていないため、外套を巻き上げながら手足を絡め取り、扇状的な嫌らしい艶を刷り込んでスタイルの良い身体の線を白日に晒しても、セーフティエリアの制限には引っかからなかった。
「やーん」
「………その声は、デトネイ?」
仮面と外套で全身を隠す怪しい女…その名はデトネイ。
ペスティサイダーは彼女を知っていた。
最初は後続のプレイヤーが現れたのかと思っていた彼はゲームで関わったNPCが死酸島に現れたことに困惑し、まとめて隕石で吹き飛んだのではなかったのかと疑問を覚えた。
アシッドブレイクの右手親指を伸ばした触手で捉えている彼女をシュミラクラ塵面気の前に移動させ、思わずフィギュアでも見るように観察してしまう。
ペスティサイダーは肉体の方の親指に彼女の造形がハッキリと伝わってくることに気づき驚いた。
元からフルダイブVRの後継のギガダストは五感が再現されていたが、ゲームに不要な過度な刺激や全年齢を逸脱しそうな刺激はカットされるか全く別物に置き換えられていた。
匂いなどはあまり自重されていなかったが、アップデート前はギガダストで握ったスタイルの良い女体の形状がプレイヤーに伝わることは無かった。
「不思議だ」
ペスティサイダーは軽鎧という硬い殻と外套に包まれていても確かに伝わってくる命の温かさと柔らかさにグニグニと夢中になる。
ますますデトネイを塵面気へと近づけると、ペスティサイダーの好奇心に反応したアシッドブレイクの触手が彼女の仮面に隠された顔へと向かって乱暴に…二〇mサイズのギガダストに捉えられたデトネイにはそう感じる力強さで…触手の先端が蠢く。
橙色の樹液に濡れた先端は彼女の顎下をゆっくりと抵抗を許さぬ強さで撫であげ、装着された仮面の頬までネットリ糸を引く樹液を巨大な舌で舐めるように擦り付ける。
その動きは意図せずデトネイの身体に巻き付く部分にも力を込め、彼女を弓なりに締め上げた。
それは頑丈そうな革とビキニのような金属鎧を押し上げている胸を強調させ、ボタボタと触手とデドネイの間から絞り出された橙色の雫が足元を伝い落ちていく。
「んやーん、えっちぃ!」
デトネイのわざとらしい艷やかな叫びで我に戻ったペスティサイダーは操縦席の上でのけぞり、触手に込められた力は緩む。
「ひひひっ…」
デトネイは緩んだ触手からズルリと抜け出すと、締め上げられたことも樹液まみれなのも気にせず、硬直した触手の上を平然と歩き、シュミラクラ塵面気の向こうで自身を見つめている相手に語りかける。
「ねぇーえ」
対面しているわけでもないのに妙な緊張感を味わうペスティサイダーはゴクリと喉を鳴らし、無意識に生成したドングリを一つかじった。
その無意味で隙だらけな様子と精神的に優位に立ったのがわかったかのように、デトネイは触手から一気に跳躍して距離を詰めてくる。
ズシャリと外套が湿った音を立てた。
「え・ろ・す・け・べ」
塵面気の前に降り立つデトネイは、片手で樹液に濡れた重い外套を開き、グチャグチャに糸を引くその身体を見せつけ、もう片方の手で太腿、腰、豊かな胸の間をゆっくりとなぞっていく。
「そんなにぃ興味があるならさぁ?」
シュミラクラ塵面気の強い視線を感じて仮面の下で粘着質に笑うデトネイの手は彼女の身体をなぞり集めた樹液をすくい取る。
「直接…触らなぁい?」
それはべチャリとアシッドブレイクの塵面気に塗りつけられた。
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次回更新は明日18:00の予定です。




