第7話・STEP!異世界のファッション事情
ルーグ一行と別れたあと、俺達は再びギルドへ向かった。
目的はただ一つ。
異世界人保護のための支度金を受け取ること。
昨日と変わらぬ人の多さに、少しうんざりしながらも昨日と同じ受付嬢に声を掛ける。
話が通っているからか、すぐに別室へ案内された。
「おう、来たか」
「ども」
昨日のショボくれたマスターとは打って変わって、初対面のときの威厳モードだった。
威厳と言っても、今はもう気のいいおっちゃんって感じだけど。
「早速、支度金を渡すんだが──」
「?」
「お前らの世界にあるかは分からんが……"銀行"というものがある。要は金を預ける場所なんだ」
「あ、銀行なら分かるっす」
「おっ、それなら話は早いな! 使い方は……まぁ直接行って聞いてくれや」
急に雑だなおい。
「それともう一つ」
「なんですか?」
「ギルドタグを発行しただろう。それにチャージも出来る」
PayPay的な感じだろうか?
「チャージはギルドでしか出来ないが、依頼の報酬なんかはそのままタグに入金出来るってわけだ」
「おお、そんなシステムが……」
「チャージした金額はステータス画面の右上に、取引する時はタグ同士を重ねると出来るんだ」
「重い硬貨を持ち歩かなくていいなら、すげーいいっすね!」
「こんな便利な物、お前らの世界にはないだろう!」
マスターは、ふふんと得意げな顔で言ってくる。
いや、あるけど……言わないでおくか……。
「いえ、ありますね。チャージはどこでも出来ますし……」
無表情のまま言い放つ華蓮。
かれんんんん!ちっとは空気読め!!
ほらみろ、マスターまたショボくれちまったじゃねーか!
「ま、まあ、金に関してはそんな感じだ。帰りに受付でチャージしとくといい。金貨200枚、持ち歩きたくないだろ?」
「確かに。200枚ってめっちゃ重そうっすね」
書類を見ながら手続きをサクサク進めるマスター。
「後は家だな。これに関してはもうしばらく掛かる」
「了解っす」
「余裕が出来たらお前らで探してみてもいいけどな」
「それも楽しそうっすね!」
「私も色んな物件見てみたいかも……」
「何でも自分達でやるのも、一つの楽しみだからな!」
確かに、ここまで色んな人に世話になりっぱなしで、俺達自身で何かをした事はほぼない。
頼るばかりじゃなく、そろそろ自分達で行動しなきゃな……。
「とまぁ、そんなところか」
「色々ありがとうございます!」
「なに、良いってことよ。落ち着いたら、お前らの世界のことも教えてくれな」
「もちろんいいっすけど……」
「異世界の話なんてワクワクするからな。お前らもそうだろう?」
そう言って、ニカッと笑うマスター。
「不安もありましたけど……今は少し楽しみです」
「俺も! 丸裸で放り出されてたら、多分詰んでたし……」
「わはは! せっかくなら楽しめよ」
マスターは立ち上がると、後ろの棚から何かを取り出す。
それをテーブルの上にドカッと置くと、ジャラっと硬貨の音が響いた。
「こいつが金貨200枚だ。無駄遣いすんなよ?」
ニヤリと笑うマスター。
「無駄遣いというわけじゃないんですけど、そろそろ着替えとかが欲しいんです」
「あ、そーいやそだな! 俺は学ラン抜けばそんなだけど、華蓮のセーラーは目立つよなぁ」
街中を歩いていると視線を感じることが多いが、そのほとんどが華蓮へ向けられている。
異世界人が物珍しいとはいえ、ジロジロ見られるのはあまり気持ちのいいものじゃなかった。
「そうだな。この世界に溶け込むためにも、まずは見た目から変えるのも悪くないだろう。」
マスターの言う通り。
単純に着替えも欲しいけど、出来ることからやらねば。
「夕暮れまでまだ時間あるし、色々見て回ってみようぜ!」
「……ふふ、そうね」
俺の誘いに、華蓮は笑顔で答えた。
次の目的地は服屋。
まずは見た目から異世界に溶け込む作戦だ。
マスターおすすめの服屋に向かった。
「こんちわ~」
「いらっしゃいませ! おや、お客さん、異世界人です?」
「やっぱり、分かります?」
「そりゃこの辺でそんな服珍しい服着てる人なんていませんからね」
うーん、やっぱりそうなのか。
「というかお客さん、すでに有名ですよ?」
「マジかぁ……」
「服装もですけど、職業がどうちゃらどか……」
「あははは……」
どうやら、俺達の職業について、すでに話題になってるらしい。
店主は詳細までは知らないみたいだから、何となく乾いた笑いで誤魔化す。
「とりあえず服!服欲しいんです!」
「ぜひぜひ、色々ご覧下さい。ご希望があれば伺いますよ」
「助かります!そんじゃ俺は──」
「俺はこれにする!」
店主のおすすめを聞きながら、上はゆったりしたロングTシャツ、丈が短い革ジャンパー、腰ベルトに小物入れ、柔らかい革パンツ、履きやすそうなショートブーツに、指抜きされた革手袋。
ついでにショルダーバッグも購入。
──憧れてた異世界ファッション!!
かっけえー!!
テンション上がるわー!!
華蓮はというと、ブツブツ言いながら店内を物色している。
手を伸ばしては戻しを繰り返している。
こうなった時の華蓮の買い物、長いんだよなぁ……。
「なぁー、まだぁー……?」
「……もう少し……」
何回めのやり取りだろう。
俺の買い物が終わってから、小一時間ほど経過。
店主は時折、華蓮にアドバイスをしつつ店先で呼び込みをしている。
「よし、決めた」
「やっとか!!」
──俺よりも数段、量が多い。
いや、俺も部屋着とか買ったけどさ……。
「多くね……?」
「普段着三着に、部屋着に下着。いつも洗濯出来るとは限らないのよ?」
「確かに。」
さも当然と言い切られ、納得してしまった。
こんなに買って金は大丈夫なんだろうか……。
「でもほら、金が……」
「それなら心配いらないわよ?」
「へ?」
「流石に制服を売るわけにはいかないけど、ローファーを下取りに出す代わりに、色々交渉済みなの」
「いつの間に……」
アドバイスじゃなくて交渉だったのか。
ちゃっかりしてるな、我が妹は……。
華蓮が選んだのは白いワンピース、編み編みが付いた太めのベルト、俺と同じく短めの革ジャケット、ショートブーツにニーハイ。
これまた異世界ファッションぽい。
「おお、いいじゃん!」
「……そう?」
少し照れ笑いする華蓮。
心なしか少し嬉しそうだ。
「さてと! 服も揃ったし、そろそろ軽い依頼でもやってみねー?」
「そうね、ちょっと冒険っぽいこともしてみたいわ」
服を着替えただけで、強くなったわけでも道が大きく開かれたわけじゃない。
それでも、俺達の中で何かが大きく変わった気がした。
俺たちはもう、この世界の一員なんだ、と。
読んで頂きありがとうございます!
応援して頂けると励みになります。
次回更新:2/3




