第47話・HAPPY!異世界で懐かしい味を見つけました
悪臭騒ぎもひと段落。
テーブルを拭き終え、華蓮も手を洗って戻って来た。
ようやく一息ついたところで、改めて皆から質問が飛んでくる。
あ、ちなみに換気も抜かりなくしたから安心して欲しい。
「で、結局ショーユってのは何なんだ?」
「ここまでお二人が喜ぶってことは……相当良いものなのでしょうか?」
「俺は絶対食いたくない」
「でも美味しいなら食べたいよー?」
もちろん俺だってこのままこの実を食う、なんてことはしたくない。
そう、俺達には心強いスキルがあるんだからなっ!
「まー、とりあえず見せた方が早いんで……ってことで《素材解析》!」
俺の前にウィンドウが表示される。
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クロミの実/醤油
何の変哲もない木の実。
成熟した実を潰すと、強烈な匂いの汁が出る。
人も動物も食べない。
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人も動物も食べないって……あの味と匂いじゃ、そりゃそーだろうな……。
「えーと、クロミの実……やっぱり醤油だ!」
「それじゃ私の番ね……と、その前に」
残っていた数個のクロミの実全てを、ガラス瓶に入れる華蓮。
「これで良し……っと。《異材精製》!」
スキルを唱えると両手が淡い光に包まれる。
そのまま瓶を握ると光が移り──やがて光は静かに消えた。
「ふぅ……」
「お疲れ、華蓮! よっしゃ、味見だー!」
瓶の蓋を開け、小皿に少し出す。
さっきまでの悪臭が嘘みたいに香ばしい。
「これがショーユなのー?」
「臭くないな……」
「ええ、それどころかほんのり香ばしいような……」
「匂いはマシになったとはいえ、見た目は変わってねーだろ」
クロミの実の恐ろしさも、華蓮のスキルの凄さもここにいる皆が知っている。
警戒はしているものの、興味を隠せない様子だ。
俺と華蓮は顔を見合わせ頷くと、迷わず小皿に指をつっこむ。
ぺろ。
醤油だ……紛うことなき醤油だ。
これだよ、これ……!
華蓮を見ると少し涙ぐんでる。
分かる。
俺も泣きそうだ。
醤油が調味料でなかったら、がぶ飲みしてるとこだったわ。
「ねーねー! ボクも味見したーい!」
「もちろん! あ、ただしょっぱいんで舐めすぎないよう気を付けて下さいっす」
「しょっぱいのか……」
「調味料なんすよ、俺達の故郷の」
全員が恐る恐る指を伸ばす。
「ホントだ、しょっぱーい!」
「しょっぱいといえば塩だが……それとは違うな」
「ええ、香ばしさもあって……わたくし、これ好きです」
「思ったより悪くないが、肉に合うとは思えん」
「まぁ醤油の使い方は色々あるんで……お楽しみにってとこっすね!」
俺は瓶を手に取り、思わず頬ずりしてしまう。
「あああ、まっじで嬉しい……!」
「兄さん、お楽しみのところ悪いけど」
「何だよ華蓮、お前も頬ずりするか?」
「しないわよ」
「んじゃ何だよ」
「一回分にも足りないわよ、その量だと」
ピシッ。
頬ずりのポーズのまま石化する俺。
改めてガラス瓶を見ると、確かに少ない。
大さじ二杯くらいしかなさそう。
隠し味や刺身に使う量ならともかく、醤油メインの料理に使うともなれば足りないのは明白だ。
明日の夕飯こそ醤油味の何かが食えると思ったのにいいい!
「足りないのー?」
「この人数の料理分だと、多分足りないですね」
「もっと取ってくれば良かったー!」
「まぁいたずら目的で持ってきたもんだからな……」
「道中、割れても面倒ですしね……」
「ううう……! 次に冒険行った時には、いっぱい持って帰って来て欲しいっす……」
「それは構わんが……本当に美味いんだろうな?」
「美味いっす! 個人的にはトマトソースを凌駕するっす!」
「ええー? うっそだあー!」
トマトソースも好きだけど、やっぱり日本人としては醤油が好きなんだ。
醤油に関しては、毎日食っても飽きないしな!
と言ったところで、皆、疑いの目しかしてない。
まぁトマトソースも美味いんだけどさ……。
そんな空気の中、華蓮が醤油を舐めながら口を開いた。
「私もトマトソースより醤油を使った料理の方が好きです」
大食いで、飯に対してあれだけの執着を見せる華蓮がそう言うなら──
皆、そんな表情に変わった。
うん、確かに説得力満点だな。




