第37話・CALL!異世界でも怒られるのは嫌いです
冒険者ギルドの二階にあるギルドマスターの部屋に案内された俺達。
ふかふかのソファに座りながら、俺はため息をつく。
俺は今、猛烈に家に帰りたい。
なんでかって?
そりゃ怒られたくないからだ。
「なんでそんな死にそうな顔してるの?」
「だって呼び出しって……怒られるの確定じゃん」
「別に処刑されるわけじゃないんだし……」
「そんな雑な慰めすんの、止めてくんねぇ?」
ヒソヒソと言い合う俺達。
そりゃ処刑まではされないだろうけど。
何を隠そう、俺は怒られるのが大嫌いだ。
いや、好きなやつなんていないだろうけどさ。
ギルドマスターは気のいいおっちゃんだったけど、改めて呼び出しって……。
気の良さそうなおっちゃんに怒られるって、恐怖でしかない。
原因は一つ。
どうせ屋台での騒ぎだろう。
というか、それしか思い付かねぇ。
やだなー。
怒られたくない。
帰りたい。
知らん顔して寝ていたい。
「怒られるって決まったわけじゃないのよ?」
「いやもう、それしかないじゃん」
「でも騒いでたのは私達じゃないもの」
「いやでもさ、俺達がきっかけではあるし……」
平然とした華蓮に俺が頭を抱えていると、扉が勢い良く開いた。
「おう、お前ら。久しぶりだな」
やだあああ、なんかしかめっ面してるうう!
帰りたいいいい!!
どかっと音を立てて向かいに座るマスター。
そしてその横に静かに座る副マスター。
明らかに不機嫌ぽいよぉ……怖いよぉ……。
「あの……今日は一体どんな用件で……?」
「ああ。……昨日は派手にやってたみたいだな?」
や、やっぱし……。
「あれだけの騒ぎ起こしといて、ただで済むと思ってるのか?」
「ひぇ……」
「私達は起こしていませんよ?」
間髪入れずに華蓮が反論すると、眉毛が大きく動くギルドマスター。
この空気でこれが言える華蓮って、マジですげーな……。
「す、すんません!! やり過ぎました!」
「……兄さんてホント……」
思わず謝る俺を、華蓮が呆れた顔で見る。
だってマスターの眉毛がピクってしたもん!
こえーんだもん!!
と、ここで副マスターがため息を付きながら口を挟む。
「マスター、本題を」
「おう、そうだな。ソータをからかうのは面白いが日が暮れちまう」
「はい……?」
そう言うとマスターはニカッと笑うと、身を乗り出した。
「レシピの無料公開どころか、実際の作り方、試食までかましたんだって?」
「は、はい……まずかったですかね……?」
「いや、前例がないだけで禁止していたわけじゃない。……だが」
マスターは頭をポリポリと掻きながら、少し言いにくそうに続ける。
「結局、最後の方は騒ぎになっちまっただろ? それプラス、ちっとばかし問題が出ちまってなぁ」
「す、すいません」
「いや、謝ることでもないがな。まず何でレシピを公開してたんだ?」
俺達はマードさん達とのやり取りや、レシピを公開した理由を簡単に説明した。
マスターは頷きながら、副マスターは何やらメモを取りながら聞いている。
「なるほどな」
「や、やっぱりまずかったですか?」
「まぁ俺は料理のことは良く分からんが、レシピを公開することを面白く思わない料理人もいてな」
考えてみたら、確かにそうなのかもしれない。
ただトマトソース自体、この世界では見たことないんだけどなぁ。
だから公開しても困ることはないと思ってたんだけど……。
「少々よろしいでしょうか?」
メモを書き終えたらしい副マスターが、こちらに向き直し口を開いた。
「料理人の中には、レシピを公開することを面白く思ってない者も確かにおります。ですがそれはごく一部で、大衆食堂や屋台などすでに取り入れている店もあります」
「マジっすか」
「ええ。昼間に屋台などに視察に行ってきましたが、概ね好評のようですね」
「よ、よ、よ、よかったあああ」
「今回、トマトを使用したソースということで、トマトの売れ行きも上がっているようで……野菜売りの屋台からは喜びの声も上がっております」
マジで良かったあ……!
ただよく思ってない人達もいたっていうのは盲点だった……。
つーか、別に迷惑掛けてない気がするんだけどな。
「まぁ今回に関しては問題というほどじゃない。ただクレームが上がった以上、ギルドとしても話を聞かなきゃならなくてな」
「そうだったんすね。俺はてっきり……」
「騒ぎを起こして怒られるとでも思ってたか?」
笑いながらお茶をすするマスター。
超思ってたよ!
いつ怒鳴られるんだってビクビクしてたよ!!
「ま、あの騒ぎが連日起こると面倒だからな……しばらく屋台は控えてくれ。何度もとなると、ギルドも対応しきれん」
「は、はい……」
実はもう二度とやるかレベルまで疲れたから、やるつもりはなかった。
なんて、この場では言わない方がいいよな絶対。
「レシピの公開は今後もするのか?」
「うーん……その辺は華蓮に任せてて……」
そう言って華蓮に集中する視線。
それにしても、こういうことは華蓮に丸投げなのが情けなくなる。
まぁ俺が何言ったところで、華蓮の決定には逆らえないんだが。
……こっちの理由の方が情けねぇ。
「今後は特に決まっていません。今回は手っ取り早く顔を覚えてもらうためだけにやったので……」
「なるほどな。まぁ何かあれば相談してくれ」
「あざっす!」
はー……ホンット良かった。
怒られなかったし。
出されたお茶も、ようやく喉を通るってもんだせ!
「……ところで、お前の料理の腕を見込んで一つ頼みがあるんだが」
……終わりじゃないの?
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