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俺たち双子は世界を救わない。~自由気ままな異世界グルメスローライフ~  作者: 京野きょう


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第35話・SPREAD!異世界の屋台は研究熱心?

「ちょっと待ちな! あんたらも食ってみな!」


 おばちゃんが、近くを通り掛かった屋台の店主らしき男を強引に呼び止める。


「おおい、なんだよ急に……!」

「いいから! このソース、試してみな!」


 そう言いながら、半ば押し付けるようにパンを渡した。


「おい、なんだよこれ……」

「いいから食えって言ってんだろぉ!?」


 おばちゃん強すぎるて。


 突然捕まった哀れな男は困惑しながらも、そのまま一口齧る。

 周囲の視線を気にしてというより、おばちゃんの圧に逆らえないようだ。


「……ん?」


 ぴたりと動きが止まった。


 そして、もう一口。


「……美味いな!?」

「ふふん、だろぉ?」

「これ……パン以外もいけるんじゃねぇか?」

「だろう!? 私も今それを考えてたんだよ!」


 ええー……もうアレンジの話になってる?


 そのやり取りを聞いていた別の屋台の店主まで近寄ってきた。


「肉は合うんだろう?」

「なんだなんだ?」

「赤いソースだってよ」


 おお、増えた。

 俺らの屋台前に、すでに数人でわちゃわちゃしてる。

 ここで華蓮がすっと前に出る。

 お前も度胸あんなぁ、おい!!


「こちら、トマトを使ったソースになります。焼いた肉や魚はもちろん、パンにも合いますよ」

「トマト……?」

「トマトだけでこんな味になるか?」

「メイン食材がトマトなんです」

「にわかには……」


 おぉ……なんか普通に営業してる……?

 口を挟んだ方がいいのか悪いのか……。

 ……って、俺が気圧されてどーする!


 よしっ!


「華蓮! 俺ひとっ走り行って鍋とか持ってくるわ!」

「大丈夫、持ってきてるわ」

「へ?」


 華蓮がアイテムボックスから、デカめのフライパンと山盛りのトマトを取り出した。

 おまっ、こんな人が多いとこで!

 ……と思ったけど、トマトソースに夢中なのか誰も見てねぇ。


 気付けば屋台の前には、かなりの人だかりが出来始めていた。


「おい、こっちにも試食くれ!」

「本当にレシピも無料なのか!?」

「俺にも見せてくれ!」


 ひぃぃ、なんか増えてるうう!


「いっ、今からトマトソース作りまーす!」

「なにっ!?」

「いいぞ、やれやれ!」


 と言っても、工程なんかあってないようなもんだけど。


「みじん切りにした玉ねぎに、塩振って炒めて水分飛ばしてー」

「……」

「焦げ付いてきたら、ざく切りにしたトマト入れてー塩振って炒めてー煮込んでー」

「……」

「水分飛ばして終わりっすね!」

「……」


 ぐっ、なんか視線が痛いっ!


「これがこのトマトソースになるのか……?」

「もちろん時間掛けたり、調味料足したりなんかはしますけど……基本はこれだけっすよ!」


 俺は小皿に出来たてのトマトソースを入れて、おばちゃんらに差し出す。

 華蓮はパンを一口サイズに切り分け配る。


「んん……酸味が強いねぇ」

「俺は甘ったる過ぎるより、こっちのが好きだな」

「それに蜂蜜を入れたのをどぞ!」

「んんっ、まろやかになるねぇ!」

「こっちはバター追加しました!」

「んんっ! コクが出てるじゃないか!」


 それぞれ好みはあるけど、概ね好反応。

 さすがにここでバジリカ草まで出すと、話が広がり過ぎそうだし止めとくか……。


「こんな感じでアレンジし放題っすよ!」

「……にしても、いいのかい?」

「何がっすか?」


 おばちゃんの言葉を皮切りに辺りがしんとする。

 ……あれ、なんかやばかった?

 新参がこんな事するなとか!?


「いや、利益的な話さね」

「利益……ああ、そっち!?」

「大事だろうが!」

「ひぃっ! すんません!!」


 おばちゃん怖い。

 俺の隣にきた華蓮が、おばちゃんに臆することなく口を開き始めた。


「私達は異世界からやってきたばかりで色々分からない事だらけなんです」


 そうそう、そーなんだよ。


「少しでも皆さんと仲良くなりたい……そういう想いでこのレシピの公開を思い付いたんです」


 そうそう、そーなん……だっけ?


「兄さんは料理人としてのレベルはまだまだですが、美味しいものを作れる人なんです!」


 おぉう、なんか、あれ……?


「こんな私達ですが……これからもよろしくお願いします!」


 こつんと肘で突かれる俺。


「お、お願いしまーす」


 わぁっと歓声が上がる。


 どこかで聞こえる「良い子達だ……」に多少の罪悪感はありつつ、場はまとまった。

 ……のか?




「順番でお願いしまーす!」

「ソータ! 手が止まってるぞ!」

「動かしてるっつーの!」


 さっきまで誰も近寄らなかったのが嘘みたいに、屋台の周りには人がいる。


「おっ、この串焼きに合うぞ!」

「色んな調味料混ぜてみたいねぇ」

「煮込みにも使えそうだな……」


 と盛り上がる声が飛び交った。

 ……なんかもう、試食会っていうか研究会?

 そう言っている間にも、屋台の周囲はどんどん騒がしくなっていく。


「ソータ! こっちにもソース!」

「ちょ、待って待って!!」

「次は魚で試させろ!」

「ちょまっ! 順番!」

「ソータのソースが足りねぇぞお!?」

「わははははっ」

「ううううるせー!!」


 ……今日、帰れるよな? 俺達。

読んで頂きありがとうございます!

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