第31話・ COMMIT!異世界の屋台で勝負します
「確かに。店ごとに味付け変わったりしたら、それはそれで個性出ておもろいかも!」
「でしょ?」
華蓮の一言に、マードさんとヤードさんは顔を見合わせた。
さっきまでの勢いが嘘みたいに、二人は顔を見合わせたまま黙り込む。
「仰りたいことは分かりますが……」
「私たちはまだここに来てそんなに経っていませんし……それにここで暮らしていく以上は、顔見知りを増やしたいんです」
「なるほどなるほど……」
田舎で育った俺たちは、村のほとんどが顔見知りだった。
それだけで安心感があったのに、今は知り合いなんて数えるほどしかいない。
田舎ののんびりした暮らしから、急に都会に放り込まれたようなもんだ。
異世界人ってことで話題にはなるけど、実際は遠巻きにされてる方が多い。
そこで名刺代わりのトマトソース……。
めちゃくちゃありじゃね?
「うん、華蓮の案……俺はめっちゃいいと思う」
「顔を知ってもらえて、食事も良くなるかもしれなくて、安価なものも価値が上がるかもしれない……良いことづくし」
「後半は良く分かんねーけどさ! 良いことづくしなら、やるしかねーだろ!」
俺は思わず立ち上がり、身を乗り出してテーブルをバンッ!と叩いた。
「……そこまで言われたら、やらない理由はありませんね」
「ええ。まずは試してみましょう」
マードさんとヤードさんは、俺たちをしっかり見ながら頷いた。
「でもさ、配るといってもどこで配るんだ?」
「それなのよね……。怪しいと思われても仕方ない気がするし」
俺たちは顔を見合わせてから、ちらりとマードさんたちを見る。
ここは現地の人に任せる方がいい……はず。
マードさんが腕を組んで少し考え込む。
「……確かに、むやみに配れば警戒されるでしょうね」
ですよねー。
すると考え込んでいた華蓮が口を開く。
「今日みたいに試食はどうかしら?」
「おお、それでしたら……」
「市場の入口付近であれば、人の目にも付きやすいでしょうな。ただ……」
「ただ?」
「無許可ではあまり良い顔をされませんね。場合によっては止められる可能性もあります」
あー、そういうのあるよな……。
日本でも勝手に試食配るとかダメだった気がするし。
「んじゃあ許可取るとか?」
「ええ、お二人は商人ギルドに登録してますからね。あくまで屋台での試食ということになりますが」
「屋台ってなると、試食だけはだめかぁ」
「お二人が異世界人と分かっていても、出所の分からない食べ物を警戒する方も一定数いらっしゃいますからね」
「それならトマトソースにレシピをおまけで付けるとかはどうかしら」
「おっ、レシピの代金を上乗せしないんならありじゃね?」
「その時に試食もしてもらえるしね」
レシピだけ配るより、ちゃんと味を知ってもらえる。
そんでもって美味いって思ってくれた人に渡せるのもいい。
うん、めっちゃいいじゃん!
「ええ、その形であれば問題はないかと」
マードさんが頷く。
「試食で味を知ってもらい、その場でレシピを渡す。流れとしても自然ですしね」
「私たちも空き時間に様子を見に行きますよ」
「ありがとうございます」
「おっしゃー、決まり!」
一気に話がまとまってきた。
「場所は市場の入口でいいんすかね?」
「場所が確保出来れば……ですね。人気の場所でもあるので」
「試食をしてもらうならば、むしろ奥の開けた場所の方がいいかもしれませんね」
「確かにそっちの方が落ち着いて配れそうですね」
「んじゃそーしよう!」
どんどん決まってきた!
やることは山ほどあるけど──
「面白くなってきた! やるぞ、華蓮!」
「兄さんはしゃぎすぎ。……でも頑張りましょ!」
そういう華蓮もテンション上がってんじゃんか。
つっこむと倍返しされそうだから黙っといてやるけどな!
あ、そうそう。
魔獣肉のビーフシチューを、最後に二人に振舞った結果。
俺と華蓮を軽く超えたテンションになり、トマトソースの話がどんどん飛躍した。
なぜか華蓮もその中に加わったりしてな。
……抑えるのに苦労したわ。
大丈夫なんだろうか、明日の屋台。
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