第30話・FREE!異世界で名刺配ります
「はああああああああっ!?」
さっきまでの和やかな空気はどこへ行ったのか、部屋にマードさんとヤードさんの叫びが響き渡った。
「無料!? 正気ですかソータさん!!」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってくださいカレンさん!!」
机を叩かんばかりの勢いで詰め寄られ、俺は思わず身を引く。
いや、マードさんは叩いてるけど。
華蓮は、しらっとお茶飲んでるし。
「いや、俺に言われても……」
そこまで騒ぐほどのことなのか……。
完全にこっちの想定を超えてる反応なんだけど。
「利益が……利益が出ないではありませんか!」
「独占権も何もなくなるんですよ!?」
「いやでも……」
興奮状態の二人を、まぁまぁ、と手で抑える。
華蓮を見ると、いつも通り涼しい顔をしてお茶を飲み続けている。
ていうか、何で俺だけ責められるんだ?
華蓮が言い出したことなんだから華蓮に詰め寄ってくれよお!
「あの、ヤードさんなら分かると思うんすけど……」
「……な、何でしょうか?」
「これ言い出したの華蓮なんすよ」
「あ」
「分かってもらえました?」
「なるほどなるほど……いや、そうですね……」
過去にこの家を借りるとき。
他の家に決まったあと、華蓮のごり押しでこの家を借りることになった。
その時の俺は、それはもう華蓮の言いなりだった……んだよ、ちくしょう……。
その時の光景をヤードさんは見てるもんな……。
瞬時に理解してくれたようで……う、嬉しい、よ……?
な、泣いてなんかないんだからねっ!
「ふ──……」
深い息を吐きながらお茶に手を伸ばす二人。
さすが双子、息ぴったりだな……。
「いやいやいや、しかしですよ……」
「兄ほどではないですが私も商売人として、無料はいかがなものかと……」
まぁ、二人の言うことも分かる。
懐は寂しくなってく一方なのに、売れるものを売らずに配るってのも微妙な気もする。
正直、金は欲しいっちゃ欲しい。
ただ金稼ぎのためとはいえトマトソース量産なんかしだしたら、マジで他のものなんか作れなくなる。
一応料理人だし、他のもんも作りたいしなぁ。
「兄さん、この街のご飯についてはどう思う?」
「え? えーと……」
「正直にね」
あんまし美味しくない。
なんて、さすがにこの二人の前で言えんだろ……。
「う、うーん、そうだなぁ……ちょっと物足りないつーか、なんつーか……ねぇ?」
俺にはこれが精一杯だ。
「そう、あまり美味しくないんです。兄さんの料理と比べて」
「おおおおいっ!?」
俺は美味しくないまでは言ってねぇぇ!
なにが「そう」だ!
しかも俺を比較対象に出すなよこんにゃろ!!
二人の表情見るのが怖すぎて、顔上げらんないんだが。
「いやいやいや……正直に言うと、お気持ち分かります」
「そうですね……私たちはそれなりに資産があるので、そこまで貧しい食事をしているわけではないのですが……」
怒られるかと思いきや、意外にも同意してくれた。
いや、華蓮の言いたいことも分かるけどさ……。
「ソータさんのご飯を食べて、よりはっきりと分かりました。お二人が食事に関して厳しい目をお持ちな理由がね」
「正直ソータさんには、専属シェフとして迎え入れたいとすら思いましたよ、私は」
「いやその……光栄……です」
そいやルーグさんにも言われたなー。
お世辞だとしても、嬉しいもんは嬉しい。
「だからこそこのトマトソースが広まれば、この街の食生活が向上すると思いませんか?」
「いやいやいや、確かにそうですが……」
「上手くいけば、トマトの価格も上がりますよね?」
「仰る通りですが……」
「さっきは企業秘密と言いましたが、本当は難しくないんです。ね、兄さん」
「あ、ああ……」
あれ、バラしていいの?
難しくないって言った途端、二人の目がハンターみたいになったぞ?
「まぁこのひと瓶くらいなら、一時間も掛かんないっすよ。材料もトマトと玉ねぎ、塩くらいで」
「なんと……」
「量産するとなると、もう少し手間は掛かりますけどね」
「い、いいのですか……? その、教えていただいても……」
「華蓮がいいなら、俺はいいっすよ」
出し惜しみせずさらっと話した俺に、逆に恐縮してる二人。
あわあわと、動きがシンクロしてる……。
「兄さんはこれにバジリカ草を入れてアレンジしましたけど、他にもあると思うんです」
「確かに。店ごとに味付け変わったりしたら、それはそれで個性出ておもろいかも!」
この街のあちこちで、違う味のトマトソースが並ぶ光景が目に浮かぶ。
……うん、絶対面白くなる!
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