第28話・STUN!異世界の常識非常識
ざくり。
ピザトーストの最後の一口を飲み込んだあと、しばらく沈黙していたマードさんが口を開いた。
「いやいやいや、お見事です……」
「何の変哲もないパンが、少し手を加えただけでこれほど化けるとは……」
二人は手元の空になった皿を見つめたまま、小さく息を吐く。
「先程の芋もそうですが、まるで魔法のようですな……!」
「へへ、そんなに喜んでもらえて嬉しいっす!」
「何にでも合う……と言われた時は、正直そんなバカなと思っておりましたが……」
「あながち間違いではないでしょう?」
華蓮が皿を片付けながら得意顔で言う。
「んじゃ、そろそろ最後の料理出しますね!」
最後はチキンステーキ。
よしよし、最後の鶏肉は……っと。
おっ、すっげーパリパリになってる!
鶏肉を皿に移す。
肉汁が残ったままのフライパンにトマトソースを入れると、じゅわっと音が響いた。
肉汁とトマトソースを混ぜ、乾燥させたバジリカ草の粉末を加える。
もちろん乳鉢でゴリゴリしたやつ。
……錬金術用に買ったのになぁ。
「鶏肉にトマトソースを掛けて……出来上がり! チキンステーキのトマトソース掛けっす!」
「いやいやいや、こんなチキンステーキも初めてです」
「この香りはもはや暴力的ですね……!」
「こいつはナイフとフォークでどぞ!」
「いただきます……!」
ナイフを入れるとバリッ、と皮が割れる。
良い音だ……!
「んんんん……!」
「こ、これは……本当に市場で買った肉ですか……!?」
「そっすよ! 材料ほとんどが、そこら辺で買ったものっす」
「こんなに柔らかく、臭みのない鶏肉は食べたことがありません……!」
「あとこのピリッとした辛味が味を引き立てて……」
「あ、それサンショの実っす」
──二人の身体がぴくりとし、空気が止まった。
「サンショの実……?」
「はい、知りません?」
「いやいやいや、気付けに使われるサンショの実ですか?」
「そっす」
「……それを料理に使ったと……?」
「はぁ、まぁ……」
な、何かまずいこと言ったか?
二人は言葉を失い、表情が段々と険しくなってきている。
いやだって、気付け薬に使うってことは食べても大丈夫なやつじゃん?
丸ごと齧るから、味として強烈なだけで。
とはいえ、説明もなしに食わせたのはまずかったのか……?
ルーグさん達は普通に受け入れてたから、何も気にしてなかった。
俺一人焦っていると、チキンステーキを飲み込んだ華蓮が口を開いた。
「……このトマトソース、先程と少し風味が違うと思いませんか?」
「え? ええ、先程の芋の時よりも少し爽やかな感じがありますね」
「これもより一層、鶏肉の旨味を引き立てていると思いますが……」
「それ、バジリカ草が入っているんです」
「!」
うおおい、華蓮!!
サンショの実だけでも警戒心持たれてるのに、これ以上ややこしくすんなよ!
そしてまた食べ始める華蓮に、呆気に取られるヤードさんとマードさん。
二人は顔を見合わせ、ナイフとフォークを置く。
食べ続けていいのか迷っているようだ。
しばしの間、華蓮の食事の音だけがやけに大きく響く。
華蓮に何か考えがありそうな気がした俺は、とりあえず沈黙を選んだ。
……いや、なにも考えつかなかったわけじゃ……ないよ?
「ご馳走様でした」
早々に食べ終わった華蓮は、固まったままの二人を見て、こう告げた。
「私達の世界ではバジルと山椒と言って、ありふれた調味料があるんです。ね、兄さん」
「そ、そーなんすよ! 解析の結果、バジリカ草はバジル、サンショの実は山椒っていう調味料なのが判明して!!」
ここぞとばかりに乗る俺。
正確には調味料って括りじゃないけど。
勢いが大事なんだ、こういうのは。
……知らんけど。
「俺たちの常識で進めてすんません。でも、食用出来るのはちゃんと確認してるんで!」
「いやいやいや……そうでしたか」
「なるほどなるほど……」
二人は顔を見合わせるとフォークを持ち直す。
そして再び、チキンステーキにかぶりついた。
「いやいやいや、美味いですな!」
「これが異世界の……! わたくし感激です!」
さっきまでとは打って変わって、満面の笑みで食べる二人。
……マジで良かった……!!
華蓮を見ると、ニヤリとした表情で俺を見ている。
くっそ、またしても華蓮にしてやられた感じがする。
……おかげで助かったけどさ!
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