回想の純白編
「・・・また、籠の中」
そう、独り言ちたのは純白の少女。
純白のワンピース。
透き通るような色白の肌。
華奢な体躯の6歳の少女。
ひと際美しく整った顔立ち。
何よりも目立つのはその、椅子に座った状態で、周囲の床に広がる美しい純白の長髪だろう。
『城下町』『ディナステーア』。
『北区』『貴族街』。
『王城』『2階』。
その一室。
ベッドと椅子。
積まれた大量の本。
それだけの部屋。
その固く閉ざされた窓際で椅子に座って空を見上げる少女。
膝には、読み終えたであろう本。
少女の唯一純白ではない部分。
紅の瞳。
それが空を飛ぶ、2羽の鳥を追いかける。
彼女は、故郷で聞いたおとぎ話を思い出していた。
〇
純白の少女。
名を『ファセール・ブランコ』という。
彼女は生まれながらに、貴重な血筋であることを理由に、村長の家の一室に隠されるようにして育った。
隠されるようにしてと言えば聞こえはいいかもしれないが、言ってしまえば監禁状態だった。
父の顔はほとんど覚えておらず、母も最期に声を聴いたのはいつだったか。
監禁状態の彼女にとって、話し相手は、村長と、体調を崩したときに訪れる緑の髪のお兄さんと、その手伝いである黒髪で眼鏡をかけたお姉さん。
そして、姿の見えない変な話し方をするお兄さんだった。
彼女の持つ『限定魔術』『音楽魔術』は、生まれるという事が『覚醒条件』になっている。
そのため、彼女は『魔素』を生まれながらに視認できていた。
しかし、『魔素』とのうまい付き合い方を知らない彼女は度々体調を崩していた。
変な話し方をするお兄さんからとある話を聞いたのは、そんな体調を崩していた日だった。
本日分の体に溜まった『魔素』を少しずつ抜いていく施術をファセールに施し終え、緑髪の青年は手伝いの女性を引き連れて部屋を後にした。
静寂に包まれる室内。
『やぁやぁ、姫~?体調はいかがですかな~?』
誰もいないはずの室内に、変な話し方のお兄さんの声が響いた。
正直、体調が悪い時にその声を聴くのは頭に響いたが、ファセールはそのお兄さんと話すのが嫌いではなかった。
寂しさもまぎれた。
体を起こそうとして、何かに止められる。
『姫。ゆっくり休まれよ。おじさんが今日もお話をしてあげますから』
おじさんというほどの声ではない。
それはファセールの思うところである。
ファセールはベッドに身を預けて口を開いた。
「・・・ありがとう。今日は、どんなお話をしてくれるの?」
『ふひひっ。純白ロリッ子にお礼を言われてしまいましたぞ?恐悦至極!』
ファセールにはよくわからないことである。
『おっと、失敬。では、今日も拙者のとっておきをお話ししますぞ!』
カタンと近くの椅子が音を鳴らした。
そこに座ったのだろう。
『これは、拙者が昔居た国でのおとぎ話である』
そう言った話のはじめ方はいつもの事。
ファセールは幼いながらに、『むかしむかし』と似たようなものだと思っていた。
こうして始まったのは、鳥かごに捕まったヒロインを助けるために仲間の力を借りて戦っていく。
そんな話。
以前聞かせてくれた、別の世界に捕らわれた漆黒の主人公が、2本の剣を駆使して戦い。
最後の敵を倒して元の世界に帰る。
といった話の続きらしい。
漆黒は『魔族』の色だ。
それを主人公にした話はとても珍しかったので、彼女は良く覚えていた。
続きの話は、元の世界へ一緒に帰れなかった、鳥かごに捕らわれたヒロインを助けに行くのだ。
『おしまい』
最後の敵を倒し、鳥籠から救い、ともに帰ると言う大団円だった。
『この後は、また別の世界に行くことになるのですが、それはまた今度ですな!いや、その世界でのヒロインがとても可愛く、声まで良いのですよ!ま、主人公とヒロインの娘には勝てませんがな!ぐふふっ』
「声?」
物語りなのに?
『おっと、これ以上はいけない。姫よ、大分話し込んでしまいましたな。休みましょうぞ』
促されたファセールは頷く。
「わかった・・・ねぇ。気になっていたんだけど。鳥かごって、檻みたいなものなんだよね?」
『ふむ、そうであるな』
ファセールは、お腹のあたりを優しくたたかれている感触を感じていた。
寝かしつけてくれているのだと思うと、うとうとしてきた。
姿の見えない男は、ロリコンではあるが、紳士的なのだ。
悪い事はしない。
『心頭滅却・・・イエスロリータノータッチ・・・ってタッチしとるではないか!』
1人で何かを呟いていた姿の見えないお兄さん。
彼の独り言を聞きながら眠りに落ちていく。
「それじゃあ、私は・・・鳥かごの中に・・・いるのかな・・・?」
少女の言葉をしっかり聞いていた姿の見えない男。
ファセールが眠りについたと同時、椅子の上に青年が現れた。
こげ茶色の長髪を後ろで纏める美青年。
左目の下に泣きぼくろ。
つり目は、『プランター村』で生きていた、あの素直になれない少女に似ていた。
眉がハの字になる。
庇護欲をそそるようなその表情のまま青年が呟いた。
「・・・姫。いつか、君を連れ出してくれる人が現れるといいですね」
呟いて、消えた。
〇
回想を終えた純白の少女。
空を再度見る。
2羽の鳥が、目の前の木に止まっていた小さな鳥のもとに来る。
そして、3羽で飛んで行った。
「私を、鳥かごから連れ出してくれる人なんて・・・いないわよ」
飛んでいく鳥たちを見つめるその深紅の瞳。
その瞳は、羨ましいと訴えていた。
明日から、第2部が始まります!
よろしくお願いします!




