深紅の修行編 後編
翌日、『南区』で見事に『サクリフィシオ』を見つけたサティスは、彼女を『アロサール家』に招待した。
コラソンも快く受け入れ、少しして帰ってきたコルザを加えた4人で昼食をとった。
サクリフィシオは、推しと食卓を囲うことになったこの状況に混乱していた。
(な、ななな、なんでこんなことに!?)
あわあわとしているサクリフィシオに気づいたサティスが微笑みかける。
(あぁ・・・美しい!)
昇天しそうになっているサクリフィシオを不思議に思いながらも、サティスはスープのおかわりを食べきった。
昼食後、いよいよ、修行の第2段階が始まった。
サクリフィシオも時間があるという事だったので、修行を見学してもらうことになった。
『アロサール家』『道場』。
中心で、コルザとサティスが向き合って立っていた。
真ん中でコラソンが簡単にルールを説明し始めた。
それを、『道場』の隅で正座で見つめるサクリフィシオ。
「使用できるのは『剣舞術』のみです。他の『剣術』や『魔術』の使用はできません。また、危ないと判断した場合は私が止めます。かといって、必要以上に攻めないように」
頷くコルザとサティス。
「久しぶりだね。この感じ」
「そうね。今度はズルしないでよ」
「わかってるよ」
腰を落として同時に構え。
固唾を飲んで見守るサクリフィシオ。
(修行って聞いてたけど・・・これって、結構本気の奴なんじゃ・・・?)
雰囲気にのまれて汗を飛ばしている。
「始め!」
コラソンの合図でサティスが動く。
「『剣舞術』『クラコヴィアク』!!」
消えたと錯覚するほどの踏み込み。
向かう刺突。
「『剣舞術』『シチリアーナ』!!」
対応するコルザの回転切り上げ。
毎回のように上方向へいなし、勢いを利用して切りつける。
はずだった。
「うえっ!?」
声を上げたのはコルザ。
「・・・え?」
戸惑いの声はサティス。
コルザはサティスの刺突を持ち上げられずにいた。
刺突を上方向にいなすのを諦め、刺突の方向へ身を任せて回転。
なんとか、その回転の勢いを利用しながら身を転がして回避する。
服に掠ったサティスの刺突は、コルザの服に穴をあけた。
「うそでしょ・・・?母さん!!何したの!?」
驚きのあまり、怒声を響かせたコルザ。
「簡単ですよ。人に見せるという事は、より美しく、洗練していく必要があります。それこそ指先まで。加えて、サティスには才能があり、『努力』も怠らず、常に舞っている。『練度』の上昇は確定です」
自身の両手を見て震えているサティス。
「さらに、サティスにはコルザと同様、他の『舞術』にも触れさせました。コルザほど才能はありませんでしたが、他の『舞術』の動きには『剣舞術』に生かせるものもあります。全力を出せば、サティスはコルザに遠く及ばないでしょう。ただし」
サティスが振り返る。
コルザのよく知る獰猛な笑み。
獲物を狩る者の眼光。
「『剣舞術』だけは、コルザ。あなたはサティスに遠く及びません」
サティスが消えた。
サクリフィシオにはそう見えた。
上段からの切りかかり。
「『剣舞術』『修型』『タンゴ』!!」
「くっ!『剣舞術』『修型』『ボレロ』!!」
下からのカウンターで対応するコルザ。
しかし。
カンッと音を響かせて、コルザの木剣が飛んだ。
カランカランと音をたててサクリフィシオの元まで転がってくる。
サクリフィシオはサティスを見る。
尻もちをついたコルザに木の曲剣、その切っ先を向けるサティス。
(・・・綺麗)
サクリフィシオは感動を覚えた。
同時、彼女に惚れ込んだ一番の理由を思い出す。
忌避や侮蔑の視線をものともせずに舞い続ける美しい姿。
その、気高い心。
その全部が美しかった。
だから、初めて感動というものを知ったのだ。
感動を教えてくれた『深紅』の髪の少女。
それが、彼女の推しであった。
「そこまで!」
コラソンの合図で力を抜いたサティス。
「はぁ・・・はぁ・・・。コルザ」
本気で動き、息を切らしたサティス。
彼女が息を整えながらコルザに声をかける。
「なんだい」
対する彼女は息の一つも切れていない。
『剣舞術』では負けた。
だが、コルザは全力ではないのだ。
しかし、それでも悔しいものは悔しい。
不機嫌気味に返している。
「次は、全力のコルザに勝ってみせるわ。全力のコルザに勝ってこそ、ライバルよ!」
「ふん。せいぜいやってみるがいいさ『ちょっと強くなった友達』」
サティスが差しだした手を掴んで立ち上がるコルザ。
不機嫌気味に返したが、口元には笑み。
コルザもサティスの成長は嬉しいのだ。
「では、明日からはコルザも全力を出しなさい。ともに高めあえば、自ずと成長が見込めます」
「だってさ、サティス」
「えぇ、よろしく頼むわね!」
握手をしてその日は終わりとなった。
その姿はもうすでにライバルと言っても過言ではないのだが。
コルザはまだ認めたくはないらしい。
〇
その日の晩。
サティスはサクリフィシオを離さず、夕飯まで一緒に食べた。
サクリフィシオが帰ることになり、最後に舞を見せることになった。
『ディナステーア』。
『西区』『住宅街』。
『回廊広場』『上階噴水前』。
5本、大人の背丈くらいまであがる、この町の名物である5大噴水の一つ。『西区』の『上階噴水』。
『ディナステーア』には、人々の流れをせき止めないために、回廊が町中に張り巡らされている。
そのため、どの建物にも1階と2階に玄関がある。
ここは、その回廊が多く交わる『回廊広場』。
回廊の中を巡る水道が水を運び、この広場にある噴水から水を噴き上げさせている。
そんな噴水の前で少女が立っていた。
深紅の髪。
観客はフードの少女1人。
戸惑いを隠せないそのフードの少女。
「わ、私なんかのために舞ってくれるのは嬉しいけど・・・どうしてこんなに良くしてくれるの?」
舞が始まる直前に、サクリフィシオが聞いた。
サティスは驚いた顔をした後、微笑み、答えた。
「あなたも、寂しそうだったから」
「・・・え?」
美しい笑みと、その言葉から、目が離せなくなった。
「私、お母様や仲間たちとお別れしたのよ」
サティスの脳裏に浮かぶのは、故郷が襲われた、その2日後の事。
『プランター村』の住民たちは、ボカ率いる『雑務隊』の協力の下、東の山にある、巨木の下にブリランテとセドロ以外の全員を埋めた事をサティスは聞かされた。
生き残った者とアロサール家で葬式代わりに、花を添えて別れを告げに言った。
そこでフェリスが、サティスの隣で手を合わせて目を瞑りながら言っていたのだ。
『お別れ』と『報告』、『これからの事』を話しているのだと。
サティスも真似をしてみると、不思議と本当に話ができているように思えたのだ。
そこで、別れを済ませ、これからの事も話した。
だが、それでもやはり。
「でも、やっぱり寂しいのよ。そんな時にあなたが私を見つけてくれた」
自分を射抜く視線に胸が高鳴ったサクリフィシオ。
「事情はよく分からないけれど、私を寂しそうな目で見てくるあなたが気になった。私と同じで寂しんだって思った。だから、あそこで踊る最後の日、話しかけたのよ」
言われて思い出すのは初めて感動を知ったあの日。
父から罵倒され、呆れられ。
なんとか信用を取り戻そうと、頼まれた仕事を頑張っていたあの日。
(・・・あぁ、そっか。わたし。寂しかったんだ)
それを自覚すると、涙は出ないものの、不思議と目頭が熱くなった。
「あ。わ。なにこれ」
泣くことが出来ない彼女にとって、それは衝撃であった。
「サクリフィシオ。私、あなたに話しかけてよかったわ。あなたと話したのは昨日と今日だけ。だけど、どうしてかしら、とっても楽しかったのよ」
「わ・・・私だって楽しかった!」
「良かったわ!それじゃあ、友達ね!」
孤独だった彼女に伸びる、優しい手。
サクリフィシオは、胸の高鳴りを感じながらサティスの手を取った。
嬉しいという、至極当然の感情。
それをサクリフィシオは初めて感じていた。
「それじゃあ見ててね!サクリフィシオのために舞うわ!」
「うん!」
その日、『回廊広場』で深紅が舞った。
途中から、フードの少女も一緒に踊っていた。
楽しそうな2人の少女の笑い声が響いたと言う。
この後、半年の間に2人は互いの事を『サティ』『リフィ』と呼び合うほど仲を深め。
『親友』と言い合えるほどに仲良くなっていく。
サティスに『親友』がいて、嫉妬するコルザと驚くフェリスが見えるのはまだ少し先である。




