『2年生』『想起編』 『襲撃』 2
自分の部屋に戻ることができたテーセラは、泥や雨で汚れたままの姿で部屋の隅で座り込んでいた。
薄暗い室内。
雨が降り続く音だけが響く中でテーセラは追い詰められた表情で震えていた。
自分がしてしまったこと。
サティスを殺してしまったこと。
仲間を裏切ったこと。
そして、頭の中に浮かび始めた断片的な記憶。
無くしたと思っていた記憶が蘇り始めていた。
しかし、その断片的な記憶の中でも自分は仲間を裏切っていた。
自分があまりにも酷い人間で、自分を殺してしまいたい程の嫌悪感を抱く。
そんな彼の部屋の真下。
雨に打たれる青年がひとり。
雨で濡れた前髪が顔に影を落として表情が伺い知れない。
しかし、彼の震える拳は強い怒りを感じさせる。
(さっき見つけた漆黒の『魔素』を持つ奴は後で話を聞かないとな。 サティスは無事だろうか。 ファセールはサティスに会えただろうか)
混み上がる怒りで思考力を落とさないように、あえて冷静にものを考えようとするが。
「・・・駄目だ」
青年は、自分が冷静になれない事を察して諦めたようにため息をつく。
そしてそのまま、追っている対象がいる部屋を見上げる。
「さっさと済ませよう」
そう呟いて姿を消したと同時に、その部屋の窓の前に出現。
彼の手のひらの上に『炎弾』が出現。
拳大から一気に大玉ほどの大きさまで膨らませる。
青年はそれを振りかぶって投げつけた。
衝突。
爆発音。
大口を開ける寮の一室。
『炎弾』によって燃やされている家具や小物類が煙を上げる。
雨が入り込む、元の原型が全く無くなったその部屋の隅。
膝を抱えた青年が顔を上げて襲撃してきた者の方を力無く見た。
フードが落ちる。
露になった灰色の伸ばしっぱなしの髪。
長い耳。
絶望で諦めさえも感じさせる色で染まった灰の瞳。
そして、『魔族』特有の角。
先の方が黒く変色した小さなこぶのような角が額にあった。
「あぁ、来たのですね」
青年、『テーセラ・アディナトス』はふらふらと立ち上がる。
自分を殺しに来たであろう青年を力無く見る。
ウルフカットの青い髪。
怒りに染まったその相貌に収まるふたつの青い瞳には同色の『魔素』が炎のように可視化されていた。
彼は腰に下げる短剣と直剣、2本の剣を抜き、空中からテーセラの部屋に降り立った。
テーセラも短剣を抜き、逆手に持って構える。
「・・・言い残すことはあるか」
普段の彼の姿を知っている人が聞いたら、本当に彼が発した声と言葉なのか信じられないほどに冷たい声と言葉。
「・・・ごめん」
それが、なにに対する謝罪なのか。
今のフェリスにはそれをいちいち考える程の余裕はない。
「そうか。 じゃあ、死ね」
フェリスはそう呟いてテーセラに斬りかかった。




