『2年生』『想起編』 『襲撃』 1
「あ! スィダ! エンシアさん!」
『メディオ学院』廊下。
シオンが、前を歩くスィダとエンシアの後ろ姿を見つけて声をかけた。
呼ばれて振り返るスィダとエンシア。
「あら、シオン! 重そうな荷物を抱えてなにしてるんですの?」
スィダはシオンが両手に抱えている箱を見て問う。
「『帰還魔術』の研究用にピエドゥラさんと協力して作った『魔石』達です!」
言いながら箱の中身をスィダとエンシアに見せつける。
中には藍色の『魔石』が大量に入っていた。
「あら、すごい量ですわね」
「本当ですわ。 これだけの量、作るの大変だったのではなくて?」
その量に驚くスィダ。
エンシアは、『魔石』についても少し学んでいる為、どれだけ『魔素』を使ったのかを想像して少し引いていた。
「いえいえ! 時間かけてゆっくりと作ったので問題なかったですよ!」
「そうだったのですわね。 それで? それだけの荷物を抱えてどうするのかしら?」
「あ、これはですね、さっきまで外で実験しようと準備していたのですが、雲行きが怪しくなってきたので回収してきたところです!」
言いながらシオンが窓に目を向けると、外では大雨が降り始めていた。
「ふふっ。 私にしては素晴らしい判断でした!」
嬉しそうに笑うシオンと、それを微笑ましそうに見つめるスィダ。
エンシアも笑顔である。
そんな3人を、すぐ側の廊下の角から様子見する影。
(今なら2人纏めてやれる。 テーセラからの報告はまだか?)
予定ではそろそろテーセラがサティスの息の根を止めている頃だ。
成功したらすぐに報告に来るように伝えてある。
しかし、報告はまだ無い。
(なにをしているんだ)
影が苛つきを露にする。
と、その時だった。
影の全身に突き刺さるような不快感が襲いかかった。
まるで、丸裸にされたような、監視されているような。
自分を値踏みするような、そんな嫌な視線。
影にとっては、あまり思い出したくない感覚だった。
自分の正体を無理矢理暴かれるような感覚。
(・・・嘘だ。 あいつは確実に死んだはず!?)
影が驚くのも無理はない。
なぜなら、この感覚を味あわせてくる女は自分が滅多刺しにして、『トゥーリア・アサーナトス』によって命を散らしている。
万が一を考えた事もあったが、様々な証拠が確実に死んだ事を決定付けていた。
だから、この感覚を味あわせてくる者などもういない。
いないはずなのだ。
しかし。
「・・・まさか」
息を飲んだ。
「あの男。 まさか、すでに使えていたのか?」
ありえる可能性はただひとつ。
この学院に通っている、殲滅対象の1人。
あの女の息子。
『フェリス・サード・エレヒール』。
彼が本当の力を隠していた可能性。
すでに、母と同等の事ができるとしたら。
いや、万が一それ以上だとしたら。
あの日、あの女を殺せたのはあの女の疲れが溜まっていた機会を狙った事、精神的に疲労させた事、親友の最期がすぐ側にあった事などの好条件が揃っていたからだ。
もし、あの女以上の実力を持っていたとしたら。
そこまで考えた影の耳に爆発音が響く。
影は思わず窓に駆け寄る。
雨降りの中、遠く、寮が連立する辺りで煙が上がっていた。
「・・・まずい」
事の重大さを察して助けに向かおうとしたところで。
「あれ? あなたは確かフェリスくんの後輩でしたよね?」
荷物を抱えたシオンに話しかけられた。
影は横を見る。
シオンの隣にはスィダとエンシアもいた。
3人とも窓を見ていた。
「どうしたんでしょうね? あっちは寮ですよね?」
「心配ですわ。 見に行きますわよ!」
「そうですわね。 行きましょう」
なんて話をしている3人。
不覚にも、思ったより近くにいた3人の隣で状況を確認してしまったのだ。
「あ、えと。 し、心配ですね」
なんとかそれだけを絞り度し、その場を全速力で離れる。
これではもう闇討ちはできない。
真正面からやりあって殺せたとしても、『メディオ学院』全てを敵に回す事になる。
そうなったら『魔族領』に帰ることはできなくなるだろう。
それでは駄目なのだ。
「くそ!」
影は悪態をつきながら寮まで急いだ。




