『2年生』『想起編』 『音楽魔術の片鱗』 2
保健室に響き渡る歌声。
この場にいる全員が初めて聞くファセールの歌声だった。
歌詞はない。
『Ah』のみで奏でられる柔らかい旋律が数秒間だけ保健室の中に響いた。
「・・・これは!?」
セミージャが驚くのも無理はない。
その、数秒間の旋律で保健室内に存在する全ての『魔素』の動きが通常の数倍になり、『治癒魔術』の効果を規格外に引き延ばし、サティス自身の自然治癒力を『四天王』や『ミエド・ドラゴン』を彷彿させるほどに向上させたのだ。
その効果によってサティスの傷口がしっかりと塞がった。
「おえっ」
数秒の旋律を終えてすぐ、えずくファセール。
「うぐっ」
続いて起こる胸の痛み。
「くっ。 はぁ、はぁ」
息切れ。
「大丈夫ですか!?」
その尋常じゃない反動の様子にレティセンシアが心配の声をかける。
「・・・うん。 大丈夫。 ちょっとだけだから。 それより、サティスは!?」
ファセールが慌ててサティスを見る。
「・・・ははっ。 ありえない。 私の『治癒魔術』なんて、『音楽魔術』の前では無力だ」
セミージャが『音楽魔術』の片鱗を目の当たりにしてため息混じりに首を振った後、もう一度目をサティスに向ける。
「おかえり、サティスちゃん」
声をかけられたサティスが目をゆっくりと開く。
「・・・歌が、聞こえたわ」
そのままゆっくりと体を起こす。
「厳しいけれど、とても優しくて、柔らかくて、とっても大好きな歌声だったわ」
首を巡らせる。
ファセールを見つける。
「あぁ、やっぱり。 ファセールだったのね」
「サティス!!」
ファセールは思わずサティスに抱きついた。
「ごめんなさい。 歌を歌わせてしまったわ」
「馬鹿! 謝らないでよ! 歌なんてどうでも良いよ! サティス! サティスぅ!!」
泣きじゃくるファセールを優しくて抱き締めて背中を叩くサティス。
「・・・ありがとう」
抱き締めているファセールの温もりに安心感を覚えたサティスの頬を涙が伝った。
意識を失う前の自分の事を思い出したのだ。
間違いなく死んだと思った。
だが、今生きている。
「うっ。 うぅ。 良かったわ。 本当に、ありがとう。 ありがとう・・・!」
「本当だよ! もう! もぉ!!」
さらに強く抱き締めあうサティスとファセール。
「サティス!」
「良かったよぉ!」
「サティス!」
アミとミーゴ、バイレも泣いて喜び、セミージャとレティセンシアは安心したように微笑み、アモールは少しだけ表情が緩み、フロロースは泣きじゃくっていた。
一安心な雰囲気が保健室を包み込む。
しかし。
その雰囲気を壊す爆発音と地響きが保健室を襲った。




