『2年生』『想起編』 『雨』
激しい雨が降る中でテーセラは自身の寮室へと急いでいた。
「うっうぅ」
激しい頭痛にふらつきながら、血だらけのテーセラが走り続ける。
「うわっ」
石につまづいて転がり込む。
「うぅ。 うわぁ」
喘ぎながら立ち上がる。
頭痛は止まない。
雨の中で痛む頭の中で巡るのは酷い光景。
自身が殺した、自分を仲間と言ってくれた人。
その最後の姿。
血だまりの中で仰向けになって目をつむる姿が、靄のかかる記憶の中で大切な人の最後の姿に重なる。
一生一緒に居るだろうと思っていた人の死体。
あの日も激しい頭痛だった。
その死体の彼がとても大切な人だったのは思い出したのだ。
だけど、それ以外の何もかもが思い出せない。
その彼の名前さえも。
「う、うぐっ。 うぅ」
涙が止まらない。
雨なのか涙なのかわからないほど、顔がぐしゃぐしゃになる。
自身のしでかした事の後悔。
幸せな夢を自分が終わらせた絶望。
大切な人の事を思い出せない無力感。
もう、あの日々には戻れない。
自分が壊したのだから。
裏切る前に裏切った。
間違ったことはしていないはずなのに。
それでも、テーセラは辛かった。
やってから後悔した。
あの時、あの『深紅』の女は最後までテーセラを信じ、案じていたのだ。
最後までテーセラに、自身の事を背負わせまいと優しい言葉をかけていた。
だから、後悔した。
あんな状態になっても自分を気にかけてくれるような優しい人を自分は殺したのだと。
裏切るのは、本当に裏切られたときで良かったのだと。
裏切る前に裏切るのでは、こちらが最初に裏切ったことになると、今の今まで気付かなかったのだ。
「うわぁ。 あぁ。 あぁあああ!」
テーセラは走る。
自分が、裏切った。
自分を信じ仲間だと言ってくれた人を、自分を認めて受け入れてくれた人々を裏切った。
泣き叫びながら走る。
頭痛は止まない。
知らない場面が想起し続ける。
もう戻れない。
後悔しても遅い。
苦しい。
悲しい。
しかし、自業自得。
テーセラは作戦の事など忘れて自室に向かう。
今はとにかく一人になりたかった。
「うわっ」
今度は足がもつれる。
倒れ込んで仰向けになる。
雨に打たれる。
息を整える。
何度も全身を叩く大雨。
曇天の空から落ちるその大粒の水滴達を眺めていると、またあの、大切な人の死体が想起された。
「・・・あ。 あぁ」
テーセラは思い出した。
その大切な人の名を。
今自身の体を叩いてくれている水滴達で思い出した。
「・・・『雨』」
呟いた瞬間、テーセラの頭の中に彼との思い出が次々と想起され始めた。
「うわぁあああ!!!」
今までで一番強い頭痛にたまらなく叫びだしたテーセラだった。




