『2年生』『追想編』 『裏切り』3
「な! 貴様!」
アモールはテーセラがサティスの手を振り払ったその態度に怒りを露にして拳を握る。
そのままサティスの右隣から前に出ようとして。
「待って!」
サティスに制されて足を止めた。
さらに、なにか言いたそうにするアモールを笑顔で制してテーセラに向き直る。
「テーセラ? 何かあったなら教えてほしいわ。 私たち、もう仲間よね? なにか力になれるなら力になるわよ?」
サティスの優しい言葉にテーセラは歯を食い縛る。
「・・・仲間?」
「えぇ、仲間よ」
「・・・黙れ。 どうせ。 どうせ裏切るんだろおまえ達も!! 『身体強化』『俊敏性』!!」
悲鳴にも似たその叫び。
顔を上げたテーセラの顔は、苦痛に歪んでいた。
涙を溜めて歯を食い縛って、苦しそうにしながら剣を抜いた。
そのままサティスに迫る。
サティスは、仲間と思っていたテーセラ相手に警戒しておらず、あまりにも突然の攻撃に反応が遅れる。
その遅れは、テーセラの速度の前では致命的なものになる。
「愛しの君!!」
アモールが盾になろうとするが、テーセラの強化された速度についていけず、間に合わない。
テーセラは、自身の剣をサティスの腹に深く突き刺した。
「ごふっ」
サティスが吐血。
それと同時に剣を捻って左へ向け、そのまま振り抜いてサティスの腹を切り裂き、隣にいたアモールへ剣先を向かわせて勢いそのままに遠くへ切り飛ばした。
アモールは腹に傷を負いながら吹き飛んで壁にぶち当たり、そのまま床に落ちて意識を失った。
サティスは膝から崩れ落ちる。
吐血と、体を半分切り裂かれた激痛に表情を歪めながらサティスは視線を上げる。
「・・・ごめん。 ごめん」
その先ではテーセラが大粒の涙を流しながら返り血を拭い、謝り続けていた。
そのテーセラの姿にサティスは、幼少期を思い出す。
故郷を失ったあの日も『彼』が裏切った。
何度も謝りながら、それでもやらなければならないと仲間を裏切っていた。
「・・・そう。 また、なのね」
サティスは自身の傷が取り返しがつかない程深いものであることを察する。
そして、今の自分の状態を理解して、今のテーセラの状態と幼少期に自分が背負っている『罪』が重なっていることに気づいた。
その『罪』とは、大切な仲間を殺したと言う大きな『罪』。
サティスは、それを今度はテーセラが背負うことになるかもしれないと思い、血に濡れた右手をテーセラに必死に伸ばした。
「謝らないで。 貴方はきっと。 なにも悪くないわ」
苦しいだろう、痛いだろう。
それでもなお、笑顔で手を伸ばす。
「や、止めろ!」
その姿がまるで、極悪非道の自分を責め立てているように感じて後ずさる。
「うわっ」
サティスが流した大量の血に足をすべらせる。
尻餅をつく。
「わ、私を刺した事は、貴方のせいじゃないわ。 だから、傷つかないで。 貴方は悪くない。 だ、だから、私の事を背負わないで。 だい・・・じょうぶ・・・よ」
再度の吐血。
腹からの出血により広がる血だまり。
そして、そのまま倒れ込んで仰向けになるサティス。
「うっ。 わぁ」
テーセラは血だまりに倒れ込んだサティスの姿を見て激しい頭痛に苛まれる。
血だまりに仰向けで横たわるその姿に見覚えがあった。
記憶を本当に失うその瞬間に見たとある風景。
それが一瞬脳裏をよぎった。
「あ、あぁ。 ああああああ!!!」
テーセラは自身が本当にサティスを殺したことを理解する。
もう、戻れない。
そして、脳裏をよぎったあの風景。
同時に始まる激しい頭痛。
テーセラの苦悶に染まった絶叫が響く。
外ではその絶叫をかきけすように激しい雨が降り始めていた。




