『2年生勉強会編』 『想起前夜』
7月29日。
夜。
「『決行は明日だ。 明日の放課後、試験結果が出て気が緩んだ時を狙え』」
1人で広場のベンチに座りながら、セミージャに『治癒魔術』の事を教わっているフロロースを待っていたテーセラの背後に立つ小さな影。
それがテーセラの肩に手を置いて、少女の声で静かに言った。
「『・・・わかった』」
テーセラはその言葉に覚悟を決める。
どうせ皆は裏切るのだ。
それは、本当の歴史が証明している。
例え今見ているものが、どれだけ本物だと信じたくとも。
『魔族』は裏切られる。
後ろに立つディオがその証明だ。
彼女は長い時を生きている。
彼女は嘘を言わない。
だから、今自分達を受け入れてくれているように見える皆もいずれ裏切るのだ。
だったら、先に裏切った方がいい。
テーセラは頭を抱える。
「『私達がこの学院にきたのはなぜだ』」
「『・・・『天族堕とし』と呼ばれるまでの力を持つ『英雄パーティ』『ミエンブロ』の崩壊と、『最終兵器』『音楽魔術』の取得です』」
「『その通りだ。 その為に『魔王』様は私達『魔族』を大量にこの学院に通わせることにしたんだから』」
「『・・・わかっています』」
「『ならば良い。 しかし、情報通りにこの学院にいる事に気付いた時は驚いたな。 あれで隠れているつもりなのだから笑い者だ。 それとも、絶対の自信ゆえの油断か。 で、あればなめられたものだが』」
小さな影が腕を組みながら苛立ちを含めた声音で言う。
「『・・・まぁ、今は良いか。 テーセラ、やることはわかっているな?』」
「『はい。 サティスとフェリスは2人揃うと厄介です。 その為、まずは私が狙いやすいサティスを切ります。 それから、サティスを失って狼狽えているだろうフェリスを切ります。 その後、2人の戦闘不能を確認してファセールを拐います』」
「『その通りだ。 君がサティスを切ったのを確認した後、私はシオンとスィダを切る。 しかし、よくもまぁ、集まってくれたものだよ。 ここで、私達の作戦に支障をきたしそうな強力なパーティをひとつ潰せるのだから』」
「『・・・そうですね』」
影はテーセラの肩にもう一度手を置く。
「『・・・『テーセラ』の意思を継ぎ、私達とともに夢の世界を実現させよう』」
テーセラは、彼女の言うテーセラが、自分ではなく彼女の大切な人の事だと言う事を知っている。
「『・・・そのつもりです』」
影はテーセラの返答に満足そうに頷いた後手を離して去っていく。
「『そのいきだ。 健闘を祈る』」
そのまま影は闇に紛れて消えていった。
テーセラは夜空を見上げる。
三日月が目に入る。
「『・・・また、裏切るのか』」
思わず呟いた言葉に自分で驚く。
「『・・・また?』」
自分でもなんでそう思ったのか不思議だった。
それでも確かに、『裏切り』に覚えがあった。
この覚えはきっと、失った記憶の中にあるもの。
そこまで考えて激しい頭痛に見舞われる。
「うぐっ」
頭の中で声が響く。
裏切りたくない。
こんなことはしたくない。
でも、やらなきゃ。
やらなきゃならないんだ。
そんな、自分の声なのに、全く覚えのない声。
「・・・くそ。 『なんだ』。 この記憶は『なんなんだ』」
ひとり、『天人語』と『魔語』が混ざった言葉を呟いて縮こまるテーセラだった。




