6歳 5
「なっ・・・なにしてるのよ!!」
サティスの困惑と怒りが混ざったような声が響いた。
背中に突如走った、熱い痛み。
あまりに突然で、足から一瞬力が抜けてしまった。
目の前で、驚いた顔をしているサティス。
なんだ・・・?
なにが起こった?
俺は痛みの走った背後に視線を向ける。
そこには、血のついた剣を振り上げるベンディスカ。
なんだ・・・?
嘘だろ?
俺は、ベンディスカに切られたのか?
俺を狙って再度振り下ろされる剣。
なんで俺は仲間に殺されそうになってるんだ?
「フェリス!避けて!」
サティスの叫び声にはっとする。
急いで体を前に転がして、緊急回避。
スレスレを切っ先が通った。
恐怖しながらなんとかサティスの元まで移動する。
体勢を立て直し、剣を構える。
「フェリス大丈夫!?」
俺の右隣、肩と腕に手を置きながら心配そうに見つめてくるサティス。
正直、まだヒリヒリと痛むが。
幸いにも深い傷ではないらしく、動きや戦闘に支障はなさそうだ。。
「あ、あぁ。なんとか大丈夫だ」
安心させるために無事を伝える。
「そう・・・良かったわ」
ほっと胸を撫で下ろして、俺から手を離し、再度剣を抜いて構えるサティス。
俺たちは2人揃ってベンディスカを見る。
いつものフードは被っておらず、見たことのない冷たい視線が俺達を射抜いていた。
構えられている剣。
「一体、どういうつもりなんだ!!」
ベンディスカに俺を切った理由を問う。
「ごめん」
謝るだけのベンディスカ。
「ごめんじゃ分からないわよ!ちゃんと教えて!」
サティスは困惑よりも怒りが勝ったような聞き方をする。
いったい、どうしてこんなことに。
仲間だろ?
そう言えばさっきの『道場』でブリランテが、『ブランコ村』に向かった方の『四天王』が『魔獣』を操っているとか言っていた記憶がある。
まさか、ベンディスカもか!?
「まさか、操られているのか!?」
それなら納得できるし、許せる。
仕方ない。
俺の問いにサティスが驚いた顔をする。
「え!?そうなの!?」
俺の顔を見たあと、もう一度ベンディスカを見て問うサティス。
彼女もわざとじゃないかもしれないと期待していたのだろう。
だが、返ってきた答えは俺たちの期待を裏切った。
「そんなわけないだろ?」
答えたのはベンディスカの隣のジュビア。
しっかりと濃紺のもやを纏っている。
「・・・え?」
サティスも残念そうな顔である。
返ってきたのは明確な否定だった。
「それは、俺を切ったのは2人の意思ってことか?」
ジュビアとベンディスカの2人は頷く。
「その通りだ。こうなることは決められていたんだよ」
「・・・ごめん」
・・・意味が分からない。
決められていた?
誰に?
「納得できない!ちゃんと説明してくれ!」
俺は2人を信じたいんだ。
誰よりも努力家なジュビアを。
誰よりも優しいベンディスカを。
大切な仲間を信じたいんだ。
だから、嘘だと言ってくれ。
「俺たちも、結局は『魔族』だったって事だよ」
ジュビアによって壊される信頼。
「・・・お前らも『裏切り者』だったってことか?」
仲間に裏切られた悲しみが打ち寄せる。
「それじゃあ、今までの事はなんだったの?」
隣でも、悲しそうな顔をしていたサティスが聞く。
「・・・それは」
ベンディスカが言いよどむ。
「私を倒すために頑張っていた格好いいジュビアも、みんなの為に恩を返したいって頑張っていた優しいベンディスカも、全部嘘だったってこと!?」
悔しそうな、悲しそうな。
そんな叫び声。
ポロポロと涙まで流し始めていた。
聞いていた俺も悔しくて、悲しくて、思わず奥歯を噛み締める。
「う・・・嘘なんかじゃっ」
ベンディスカの泣きそうな声。
「・・・日和ったな」
そんなベンディスカの肩にジュビアが手を置いた。
「ごめん。でも・・・やっぱり」
「そうだな・・・だが、やらなきゃならない。これは、どうしたって俺たちがやらなきゃならない事なんだ」
ジュビアがステップを踏んだ。
まさか・・・。
「『剣舞術』『クラコヴィアク』!!」
突発的な速度上昇。
『強化魔術』で強化された『筋力』による、重たい刺突がサティスに迫る。
「・・・え?」
俺は裏切りの衝撃で動けないでいるサティスの前に立ち、剣を抜いて舞う。
「『剣舞術』『アルマンド』!!」
体ごと回転して刺突をいなして勢いを殺す。
上がった両腕。
腹にできた隙に蹴りを入れて距離を開ける。
「サティス・・・やれるか?」
俺は2人を睨みつけながら問う。
裏切られたのは辛いしキツい。
だが、人は裏切るものだ。
本気で信じていた『約束』を破る人もいるのだ。
簡単に仕事仲間を売るような大人もいるのだ。
何回も裏切られてきた。
前世では、裏切りが怖くて人と深く付き合わなかった。
信じられる友人と家族だけが付き合いになった一番の理由。
だから、悲しいし悔しいけど。
俺は、戦える。
戦えてしまう。
またか・・・仕方ない。
と、割り切ることが出来る。
・・・出来てしまう。
それでも、割り切ることが出来たのなら剣をとれる。
俺は、大切な家族を守るために剣をとることが出来るのだ。
「無理そうなら、俺に任せろ」
サティスに、裏切られた経験は無いはずだ。
この世界に生を受けてからずっと一緒に歩んできた。
一緒に優しいあの村で育ってきたのだ。
そして、裏切った相手は、サティスが家族とソシエゴに次いで、特に大切に思っていた『アルコ・イーリス』の仲間。
最悪、もう立ち上がれないかもしれない。
だが、しかし。
サティスは俺の言葉に首を振った。
「やるわ・・・フェリスが戦うなら私も戦うわよ!」
涙を拭い、強く言い放つ。
強いな・・・サティスは。
2人並んで構える。
「来ないでほしかった。今日という日が」
涙を拭うベンディスカ。
「ベンディスカ!泣くな!やらなきゃやられるのは俺たちだ!!」
彼の前でジュビアが再度濃紺のもやを出す。
「『強化魔術』『筋力』」
「でも、だけど」
「・・・安心しろ。俺が一緒に背負う。1人じゃない」
「うぅ・・・ごめん。ごめんよぉ」
その謝罪は誰に対してか。
ジュビアか、俺たちか。
「『強化魔術』『俊敏性』」
ベンディスカが灰色のもやを纏う。
2人が完全に戦闘態勢へと移った。
「許せ、サティス。フェリス。おまえ達を殺す」
「ジュビア。ベンディスカ。私たちが止めてあげる」
互いに臨戦態勢。
一触即発。
裏切り者2人。
それは明確。
でも、まだ、信じたいと言う気持ちはあったのだ。
俺もサティスも。
2人が夢を追いかける姿は嘘ではなかったはずなのだ。
だから、ここで止めて話を聞く。
これからの事は話を聞いた後でも遅くないはずだ。
「「「「『剣舞術』!」」」」
だから、止めて終わらせる。
そのつもりだったのだ。
しかし、この戦いは最悪な形で決着する。
その結果は、俺たちにとって一生の傷になる。




