6歳 6
俺は焦っていた。
「ぐっ」
ベンディスカの連撃をいなして躱す。
意図的にサティスとジュビアから離されていく。
そして、気づけば、抵抗虚しく、2人から離れた場所でベンディスカの相手をすることになった。
「くそ!どうして裏切ったんだ!!」
サティスが心配だ。
いくら、立ち上がることが出来たとはいえ、大きなショックを受けているのに変わりはない。
向こうでサティスは、ちゃんと戦えているのか!?
「ごめん」
「謝ってばっかりじゃわからねぇよ!」
「これしかないんだ!」
ベンディスカの素早い切り上げ。
対応するが、力を込めるのに間に合わず、上方向に弾かれてしまう。
「くっ!」
歯を食い縛る。
ベンディスカが体を回転させる。
「・・・ごめん」
言ってベンディスカが重い回転蹴りを俺の腹に入れる。
「ぐぅっ!」
腹に蹴りを喰らい、痛みに声が漏れる。
俺は、蹴りの勢いで吹き飛び、さらにサティスとの距離を離されてしまう。
体を転がして体勢を立て直す。
サティスを目視できない場所まで離されてしまった。
「くそっ!ベンディスカ!お前、村に恩返しするんじゃないのか!?いつも言っていただろう!?」
サティスが心配ではあるが、目の前のベンディスカを何とかしないと助けにも行けなさそうだ。
なんとか構え直してベンディスカを止めるのに説得を試みる。
「ごめん」
「謝るくらいならやめろ!今は協力して村を守るときだ!それこそ、恩返しの良い機会だろう!?なのに、どうして!」
ベンディスカが、泣きながら何かを呟いていることに気づいた。
再度、接近してきた。
瞬きの内の急接近に息を飲む。
下からの切り上げに、今度はなんとか剣を合わせて上にいなす。
ぶつかり合った金属音。
「家族のため・・・仲間のため・・・『魔族』のため・・・これが俺の仕事・・・」
その金属音に紛れて、ベンディスカの呟きが聞こえた。
家族?仲間?『魔族』?仕事?
いったい何が彼をこんなにしているんだ?
歯を食いしばる。
ベンディスカが頭上で剣に力を入れ直したのが見えた。
「『強化魔術』『俊敏性』」
再度、灰色のもやがベンディスカを包み込む。
「『剣舞術』『ジグ』」
そして、今まで見てきた中で一番の速度で迫り来る。
素早いステップ。
高速の切り下ろし。
あの型は、段階的にスピードが上がっていく『攻』派の型・・・っ!
『強化魔術』で『俊敏性』が強化されているため、その速度は計り知れない。
俺は1撃目を受け止めていなす。
「『ダブル』」
速度の上がる素早いステップと共に、2度目の剣劇が瞬速の切り上げとして迫る。
「『スリップ』」
何とか追いつき、左横に弾く。
なんとか・・・いや、運が良かっただけだ。
更に早まる。
おいつけないどころか、目視すらできな・・・!?
「『シングル』」
判断や理解が追いつかないうちに俺は切られた。
それが、弾かれた場所から返す形で、俺の左側から横一直線な一撃と、振り抜いた先から俺の左斜め下に振り下ろされた一撃。その、2撃と把握するのに、一瞬の間が必要だった。
それほどに素早い、音速の2度切り。
「がぁっ!」
胸と腹には知る、熱い感触。
それを感じた直後、今度は腹に重い衝撃を受けて吹き飛ぶ。
ガンッと音を立てて木にぶつかり、後ろで木が折れた音がした。
その場にずり落ちるように座り込む。
「がはっ」
息が上手く出来ない。
眩む視界の奥で足を下ろしたベンディスカ。
・・・蹴られたのか?
くそ、座ってたら殺られる。
立ち上がろうと両手を地に着き力を込めると同時に視界が真っ暗になり、顔面に激痛が走った。
それがベンディスカに蹴り上げられたものであると認識した時にはすでに体は空中に浮いていた。
下から、ベンディスカによるトドメの鋭い刺突が迫る。
「『剣舞術』『クラコヴィアク』!」
速さだけならセドロに匹敵するその刺突。
目視することすら叶わないその一撃。
俺は、死を覚悟した。
「何してんだベンディスカ!!」
朱色の少年が横からベンディスカの刺突に、自身の刺突を食らわせた。
弾かれて刺突の狙いがずれる。
俺の心臓を狙った一撃は、俺の左腕をかするに留まる。
朱色の少年は体を回してベンディスカを蹴り飛ばす。
3回ほど転がって体勢を立て直したベンディスカ。
そんな彼と空中から落下しつつある俺の間に立つ少年。
「デスペハード!?」
朱色のツンツンヘアーの少年。
デスペハードがいた。
「フェリス!これはどういう状況だ!?」
落下しかけていた俺の体が、デスペハードに片手で抱えられた。
「どういう状況なのよ!?」
声に振り向くと、ベンディスカがカリマと鍔迫り合いをしていた。
「ベンディスカとジュビアが裏切った!」
「は!?こんな時にそんな冗談、笑えねぇぞ!?」
デスペハードに、怒られながら地に優しく下ろされる。
「この状況で冗談な訳があるか!?」
俺は痛む胸を押さえながらなんとか構え直す。
「くそ!なんでだよ!?」
デスペハードも構える。
「分からない!教えてくれないんだ!・・・ただ、家族とかなんとか言ってたのは聞こえた」
「家族・・・?ベンディスカの父さんと母さんか?・・・ちっ!」
舌打ち1つ。
そうこうしている間にカリマがベンディスカの力に勝てず、押し負けそうになる。
「とりあえず、ベンディスカを止めるぞ!フェリス、戦えるか!?」
「あぁ、何とか」
剣を握る手に力を籠める。
頷いたデスペハードがカリマとベンディスカの元に再度刺突を繰り出す。
「『クラコヴィアク』!」
2人に割り込む形だ。
離れる2人。
「カリマ!ベンディスカの家族が心配だ!様子を見に行ってくれ!ここは任せろ!」
「分かったわ!『気配魔術』『気配消失』!」
言って姿を消した。
「待て!行くな!」
言いながらベンディスカが手を伸ばす。
しかし、空を切るのみ。
握り、胸元に持っていき歯を食い縛るベンディスカ。
「カリマ・・・死ぬよ?」
「あいつはそんなに弱くねぇよ。俺の彼女だぜ?あいつのことはよく分かってる」
「・・・違うんだ。死ぬんだよ。『身体強化』『俊敏性強化』」
灰色の靄が再発生する。
「2人で倒すぞ!」
「わかった!・・・くそ、サティス・・・大丈夫だろうな!」
ベンディスカに、時間をとられ過ぎている。
サティスが心配だ。
「サティス!?そういえばいないな!?」
デスペハードが焦る。
「ジュビアと戦っているはずだ」
「そう言うことか、だからここに、ジュビアが居ないわけだ!」
言ってるうちにベンディスカが目の前に現れた。
「『サルタレロ』!」
ベンディスカの素早く激しい跳ね踊り。
容赦のない斬撃が上空から降り注ぐ。
「「『エコセーズ』!」」
俺とデスペハードはベンディスカの攻撃をいなしつつ回りを旋回して距離を取る。
「『ガヴオット』!」
デスペハードは間髪入れずに地面を蹴り、ベンディスカに近づく。
打ち込めないと見るやつかず離れずの距離を取る動きを繰り返す。
そして、もやが収まると同時、本命の刺突『クラコヴィアク』を放つ。
上手い!
「『アルマンド』!」
その突きをベンディスカが縦回転でいなそうとする。
俺はその予備動作である、ステップを見て動き出す。
『アルマンド』はいなした後、一瞬の隙ができる。
案の定、デスペハードの攻撃をいなしたと同時に一瞬の隙が出来た。
「『クラコヴィアク』!!」
その隙に俺は鋭い突きを放つ。
「ぐっ」
その突きはベンディスカの右手に突き刺さった。
噴き出す鮮血。
人を刺すのってこんな感触なんだな。
俺は初めての感触にぼんやりとそんなことを思う。
良いものではないな・・・。
歯を食いしばって剣を引き抜きつつ、蹴り飛ばして距離をとる。
俺に右手を刺されたことで力が抜けたのだろう、零れ落ちる剣。
デスペハードが遠くに蹴り飛ばす。
剣を蹴り飛ばされたベンディスカが追いかけようとしたため、俺はそれを転がり込むように突進して阻止する。
俺の突進にバランスを崩し、もつれ会うように勢い良く倒れていくベンディスカ。
彼は、そのまま木に勢いよく後頭部を強くぶつけた。
ガツンッと嫌な音がして、ベンディスカが意識を失った。
後頭部から出血が始まり、背後の木に染みを作っていく。
「はぁ・・・はぁ・・・死んでないよな?」
隣で息を整えながらデスペハードが呟く。
俺はその言葉に焦る。
まさか・・・。
俺はベンディスカを殺してしまったのか・・・?
慌てて近くにより、呼吸を確認する。
呼吸はある。
右手と後頭部から出血はあるが、生きてはいる。
良かった。
「カリマが心配だ・・・俺はカリマを追う!ジュビアとサティスの事は頼んだ!」
俺にそう声をかけてすぐに走り去っていくデスペハード。
「あ!おい!」
手を伸ばすがデスペハードは振り返って手を振ってくるだけだった。
俺はベンディスカを見る。
ベンディスカのフードの右袖部分を剣で切り取り、右手と後頭部の傷口を包帯の要領で抑えるのに使う。
せめてもの止血だ。
あの、ベンディスカがなんでこんなことを・・・。
立ち上がる。
聞きたいことは多々あるが、今はサティスだ。
俺はベンディスカをそのままにして、サティスの元へ走る。
かなり離されていたらしい。
元の所に戻るのに数分かかった。
「サティス!」
俺は座り込む『深紅』の髪の少女を見つけて安堵する。
駆け寄る。
・・・様子が変だ。
途中からゆっくりと近づく。
違和感の正体に気づく。
「・・・っ!?」
足が止まる。
激しい戦闘だったのだろう。
増えた傷だらけの道。
倒れる木々。
直線だった道は不自然に広がり、広場のようになっている。
その中心。
ペタンと座り込む『深紅』。
髪は地に着き、紅に染まっていた。
そう見えた。
だが、違った。
近づいて気づいた。
その紅は髪ではない。
血。
血だまり。
『深紅』の髪がその血だまりに沈んでいた。
彼女の前で仰向けに横たわる男。
意を決してサティスの背後に立つ。
見下ろす。
「・・・ジュビア」
髪は色が抜けて無色。
光の加減で白く見える。
だが、その男の姿は間違いなくジュビアだった。
「ジュビアが・・・私に勝てるわけないじゃない・・・」
遠くを見る少女。
目に光が宿っておらず、返り血を浴びた傷だらけで震える少女。
俺の大切な家族。
サティスが、『ジュビア』を殺していた。




