5歳 7
日が落ち、夜。
プランターじいさんの家の前広場。
村人達が持ちよった蝋燭が照らす、宴会ムードの広場である。
「皆のもの!よくやった!乾杯じゃ!」
「かんぱーい!」
木製のステージの上に立つ、プランターじいさんの言葉に合わせて村人たちが持っていた飲み物をぶつけ合った。
今回、俺たちの村である『プランター村』は、『アルコメンバー』と『自警団』、アルコメンバーの親たちの活躍で全くと言っていいほど被害が無かった。
俺とサティスが『ブラキオサウルス』の首を落とした後、3人で村に戻ると、『自警団』の『団長』『エスタシオナール』を中心とし、彼の妻であるプリマベラール、俺とサティスの母、ブリランテ、セドロに、『治療魔術』が使えるセミリャが加わった精鋭部隊で壊れた壁の元で侵入を防ぐ戦いに向かった。
俺たち『アルコ・イーリス』のメンツは村の中に残った『魔獣』の討伐。
他の母や戦える者も一緒だ。
戦えない住人はプランターじいさんの家の地下に避難。
前にあった『魔獣』襲撃を思い出すが、あの時とは違う。
俺も戦えている事を素直に喜んだ。
翌朝、『ディナステーア』からの援軍、『王国騎士団』『雑務隊』が壁の元にたどり着き、壊れた壁の修繕と、『魔獣』や『魔族』の侵入からの防衛を任せてきたと、精鋭部隊が無事に戻って報告した。
全員疲れた顔をしていたので、すごい戦いだったのだろうと想像した。
ボロボロのセミリャに抱き着くソシエゴの涙に、隣のサティスと一緒に「泣かせるな」と文句を言いに行ったら困った顔をしていた。
ソシエゴは俺とサティス、ひいては『アルコ・イーリス』のメンツ、全員の姉のような存在である。
どんな理由があろうと、泣かせたら文句を言いに行くに決まっている。
『精鋭部隊』が戻ってきたその日のうちに、手の空いている者で『魔獣』の解体を済ませ、村人で分け合った。
下手をすれば去年の『猪狩り』以上に集まっているかもしれない。
大小さまざまな大きさの『魔石』も、全て売ればこの村のいい稼ぎになるだろう。
そして、日が落ちた頃、倒した『魔獣』や、『魔獣』に成り立て獣の肉で祝勝会と言う名の宴が行われたのだ。
『魔獣』になったばかりの小さな『魔獣』は『魔素』の汚染が少ないらしく、綺麗な部分は『人族』でも食べる事が出来るらしい。
『魔獣』は『魔石』を体に宿し、暴走している獣だ。
この世界は『魔素』で構築されている。
『魔石』も例外ではない。
『魔石』は、外から取りこんだ『魔素』が固まり出来たものだという。
その『魔素』が獣を暴走させる。
深くまでは知らないが、そういうものなのだ。
そして、この『魔素』は『魔素』を体に宿していない『人族』には有害らしく、食べ続けると、『魔獣』同様暴走してしまうらしい。
じゃあ、なんで『魔素』を体に宿している俺たちは大丈夫なのか。
だって、同じく『魔素』を宿しているはずの獣が『魔獣』になるのはおかしくないか?
・・・もしかして、獣にも『魔素』が宿っていないのか?
なんて考えながら祝勝会で肉を食らう。
うん、うまい。
料理の美味しさに考えることを止めて、黙々と食べる。
母2人が昨夜から今朝方まで戦っていたのだ、珍しく2人とも帰ってきてから眠っていた。
つまり、今日はまだまともな食事を取っていないのだ。
『喫茶店』も『魔獣』の解体で忙しそうだったから、入るにはいれなかった。
何とか、ブリランテが作ってあったのだろう、羊の干し肉を見つけたのでそれを食べたが、足りるわけがなく、俺とサティスは2人揃って腹ペコである。
この世界でも料理ができれば良いのだが、調味料とかよく分からないからな・・・。
多分前世と同じ感じだとは思うが、ぶっつけ本番は怖い。
いずれ、ブリランテに教えてもらうのも良いかもしれない。
今回の祝勝会の料理も腕に自信がある村人が作ってくれた。
住人が増えたが、作れる人も増えた。
ブリランテが忙しそうだったら他の人に教えてもらうのも手だな。
なんて、色々考えながら食べていると大分お腹が膨れてきた。
隣のサティスも満足そうだった為、俺は飲み物を取りに行き、ぶどうジュースと、サティスにカフェーオレを頼んで持ってくる。
サティスはステージの上で、『ミエド・ハバリー』の時のような解体ショーが無い代わりに『アルコ・イーリス』を代表してブリッサが舞っている『剣舞術』に見入っていた。
サティスの前にカフェーオレを置くと、サティスが微笑んで礼を言う。
俺は、どういたしましてと返して、いつも通りサティスの左隣に座ってぶどうジュースに口をつける。
隣村から貰って来ていると言うぶどうジュースは、とっても美味しい。
「・・・やっぱりブリッサの『剣舞術』は綺麗だわ」
隣でカフェーオレに口をつけたサティスが、ぼーと眺めながら呟いた。
セドロとブリランテは、『アルコ・イーリス』の母親たちで集まり盛り上がっている。
他の『アルコ・イーリス』のメンバーは、それぞれで仲の良い相手と一緒にブリッサを応援している。
ソシエゴはセミリャの腕に抱き着いている。
よっぽど心配だったのだろう。
他の村人たちも楽しそうだ。
俺は空を見上げる。
日はすっかり落ち、夜。
星が瞬いていた。
今日は満月らしい。
普段より星の数が少ないわけだ。
この世界、星の配置は全く違うが、月はひとつである。
ブリッサの番が終わり、セドロとブリランテが母親たちに次行きなさいと背中を押されているのを見る。
サティスはカフェーオレをごくごく飲んでいる。
ぷはっと飲み干して口を拭い、ニコニコ笑顔である。
可愛いやつめ。
セドロとブリランテがステージに立って『協奏』を始める。
いつ見てもすごい。
俺もサティスとあれだけ舞えるようになりたい。
と、考えていた時だった。
いつもは真剣に見入っているサティスが口を開いたのだ。
「『協奏』を成功させる条件。覚えているわよね?」
サティスから聞かれて言葉を返す。
「身体能力、体力、呼吸、気持ち、全てが重なったとき舞うことが出来る。だったな」
俺の答えに満足そうに頷いて俺を見る。
村人が持ち寄った蝋燭の明かりが彼女の笑みを照らす。
「フェリス、やっと追いついたわよ」
俺は一瞬固まる。
あまりの美しさに息を飲んだのだ。
ごまかすように視線を2人の母に送る。
「俺はサティスに追いつくので精いっぱいだと思っていたよ」
実際は、それだけじゃなかった。
気持ちが全く重なっていなかった。
俺は合わせてやるなんて驕り。
サティスは、合わせてくれるという驕り。
互いに互いを見ているようで見ていなかったのだ。
これでは成功するはずがない。
「なによそれ」
俺の言葉に小首をかしげる。
今日は結っていない長髪がさらりと落ちた。
「・・・実際、本気を出しているサティスに1対1では勝てないからな」
「ふふっ、それを言うなら私だって、フェリスに体力じゃ勝てる気がしないわ」
「俺はそれに気づけなかった」
「フェリスは凄いわよ。私にはできない事が沢山できるんだから。そうよ、体力だけじゃないわ!例えば自分で特訓を考えるでしょ?紙を作れるし、お絵かきも上手。本が読めるのだってすごいこと!お話もちゃんと聞けるし・・・」
一生懸命俺のできる事を言い続けてくれるサティス。
その一生懸命さに笑ってしまう。
あぁ、この子はこんなにも俺の事を認めてくれているし尊重してくれている。
なのに俺は、無意識のうちにこの子を下に見ていた。
酷い奴だ。
俺はため息をつく。
これからはちゃんと尊重しよう。
この世界での大切な『幼馴染』だ。
前世とは違う『幼馴染』。
共に夢を見る同志。
かけがえのない家族。
大切にしよう。
「そういうサティスは、『剣舞術』の才能にあふれているよな」
「え?」
「だけど、才能だけじゃなくて、強くなるためにちゃんと頑張ってる。『剣舞術』への集中力では勝てないし、好奇心旺盛で俺一人じゃ見れないだろう場所に連れてってくれる。今みたいに嬉しい事を沢山言ってくれるし、とっても優しく真っ直ぐだ、それに・・・」
「あ、ちょっとまって!?う、嬉しいけれど・・・なんでかしら、恥ずかしいわ!」
そう言って俺の言葉を遮ったサティスを見る。
顔が真っ赤になっていた。
可愛いやつだ。
俺なんかの言葉でこんなに喜んでくれるなんて。
嬉しいことこの上ない。
だが・・・ちょっと照れ過ぎじゃないか?
俺まで恥ずかしくなって来たんだが?
俺は赤くなってきた顔面をごまかすようにぶどうジュースを飲み干した。
サティスは、俺と同じタイミングでカフェーオレを飲もうとして、もう無いことに気づいていた。
しばしの沈黙。
それに反して母2人の『剣舞術』は最高潮。
「・・・私たち、お互いに違う物を持っているのね」
呟いたサティス。
ちょっと赤い頬で笑う少女。
俺も頬が赤い。
「だから、2人で『無敵』を目指せるんだろ?」
俺の答えにふふっと笑って頷くサティス。
「そうね。これからもよろしくね。お母様にも期待されちゃった。もう止まれないわね!」
『ブラキオサウルス戦』を思い出す。
『私はお前らなら出来ると信じている!期待もしてる!これからもずっと!!』
「信頼と期待か・・・」
前世で誰かに向けて貰った事があっただろうか・・・。
あったのかもしれない。
だけどあんなに真っ直ぐな言葉で言われたのは初めてだった。
サティスを見る。
彼女も、彼女の母も俺を認めてくれている。
セドロは信頼と期待も寄せてくれている。
サティスが俺と目が合って首を傾げる。
「いや。いいもんだな。誰かに認めてもらって、信頼されて。期待もされてるって言うのは」
「んふふっそうね」
満足そうに笑うサティス。
俺を必要と言ってくれる存在がいる。
俺を認めて、信頼し、期待してくれる存在がいる。
俺は、この世界に来ることが出来て本当に良かった。
自分のことを見てくれて、認めてくれる人がいるのって嬉しい事ですね!
努力して、認めあって、助け合って、何かを誰かと成し遂げる。
そんな、物語にしていきたいなと思っています。
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