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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第一部 乳幼児期 『5歳編』
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セドロ 1

 私は大きな失敗をしていた。

 1か月ほど前、娘が私に泣きついてきた。

 休息日に私の仕事についてきたいというサティスを連れて、2人で猪の数減らしをしていた時だった。

 山の中でひと段落していた時、不意に泣きながら抱き着いてきたのだ。


 娘はフェリスに付いていけないのが辛いと泣き叫んだのだ。


 「このままじゃ・・・2人で無敵になんてなれないよぉ・・・」


 初めてだった。

 勝手に悩みらしい悩みもなく、ずっと笑っている物だと思っていた。

 違ったのだ。

 娘も私と同じく生きている。

 辛くなる事があるのだ。

 絞り出すような、どうしようもなく、無我夢中で助けを乞う。

 そんな、娘の姿。

 私はどうしようもなく、抱きしめるしかなかった。

 私はどこで間違えた?

 才能の塊のような娘だぞ?

 どうして、フェリスに付いていけない?

 何がいけない?

 どうして気づけなかった?

 娘がついていけない理由に気付いたのは翌日の特訓の際だ。

 単純な話。

 よく見ればすぐにわかった。

 体力の差だけだ。

 もっとちゃんと見ていればすぐに気付いてあげられた。


 私は怠ったのだ。

 私の娘は才能の塊だから自然と強くなるだろうと慢心し、しっかりとした修行を積ませて来なかったのだ。


 私は侮った。

 2人の夢をただの子供の夢だと、覚悟の強さを。


 後悔した。

 自分の道場を持って、自分とブリランテの子供に『協奏』を教えると言う夢を叶えてそこで終わりではなかった。

 師匠とは、弟子の未来のためにあるのだ。

 私は弟子、それも娘たちの夢さえも壊しかけた。


 師匠失格だ。

 サティスの今の状態を解消出来たら師匠を止めよう。

 

 まず、謝った。

 次に娘を追いつかせるために全力を注いだ。

 ブリランテに胸の内を話し、フェリスには一度、成長を止めさせた。

 成長の助けになるべき存在である師匠として、やってはならない愚行だ。

 もう2度と師匠には戻れない。

 そして、ひと月が経つ頃にはサティスの頑張りもあり、やっと追いつけそうなところまで来ていた。

 幸か不幸か、良いタイミングで『ドラゴン』が壁を壊した。

 欲を言えばもう少し鍛えてやりたかったが。

 だが、それでも良い機会だ。

 この機会に2人で『協奏』が完成させられるように協力して最後にしよう。

 フェリスが私たちに追いついた。

 フェリスの姿を見て覚悟を決める。

 隣に行って話す。

 これが終わったら師匠は辞めよう。

 「気付かず、サティスには辛い思いをさせてしまった。フェリスには努力を禁じてしまった。師匠として、母として、これはしてはならない事だった。不甲斐ない人間で本当に申し訳ない・・・。私はこの立場を降りようと思う」

 言葉にしてやっと実感が湧いてきた。

 私の夢はこれでおしまい。

 視線の先で強くなった愛娘を見ていると涙が出てきた。

 2人の成長の邪魔になってしまった。

 申し訳ない・・・。


 「謝るなよ。俺だって悪かった。セドロは俺たちの師匠だ。俺はセドロに師匠を止めてほしくない」


 耳を疑った。

 私のどこに憧れるようなところがあるんだ?


 「俺たちがボカに連れて帰られそうになったあの日、セドロは俺達をこの村に留めてくれた。セドロは俺達が寂しがらないように出来るだけ一緒に居てくれた。『アルコ・イーリス』を始めた時の言葉は今でも覚えている。セドロの使う型はどれも美しい」


 よく、そんな前の事をよく覚えている。


 「優しくて強くて美しい。そんな師匠で俺は嬉しい。セドロが師匠で良かったと心から思っているんだ」


 「フェリス・・・お前」

 どこを見てるんだ・・・?

 私はどこか遠くを見るフェリスの姿に戸惑う。

 どこか、別の場所や、遠い昔の事を思い出す。

 そんな目。


 フェリスは『転生者』。


 ブリランテから聞いた。

 フェリスには別の世界の記憶がある。

 その世界の事を思い出しているのだろうか。

 なら、なおの事。

 そっちの世界がどのような物かは分からないが、この世界と同じように色々な人がいたのだろう。

 私なんかより沢山の経験をしているのかもしれない。

 だったらなおの事。

 私のような人に優しい言葉をかける意味が分からない。

 私は成長を止めるという愚行を犯したのだ。


 ・・・なのになぜ。


 「ありがとうセドロ。俺の師匠になってくれて。これからもよろしく」


 こんなにも優しい事を言ってくれるんだ。

 「・・・っ」

 涙が零れそうになって拭う。

 「私が師匠でいいのか?」

 彼の優しさに甘えてしまいそうになった。

 ダメなのに。

 許されてはいけない事なのに。

 涙が止まらない。

 「間違いは誰にでもある。俺も間違った。次、気を付ければいいんだよ」

 ちょっと苦い顔をして、すぐに笑ってごまかすフェリス。

 はっとした。

 

 ブリランテと同じことを言うのだ。


 親子なのだ。

 たとえ、フェリスが『転生者』と言う個性を持っていたとしても関係ない。

 ブリランテとフェリスは親子。

 フェリスは、別の世界での記憶を持っているうえで、この世界での母と同じことを言ってくれたのだ。

 

 あぁ・・・そうか。

 フェリスは、2つの世界の経験を持った上で、私を認めてくれていたのか。


 「あ、お、俺はセドロがいいんだよ!まだまだ教えて貰いたい事が沢山あるんだ!!」

 我に返ったのか、いつもの『フェリス』に戻ったフェリス。


 あぁ、この人は別の世界でどんな人生を歩んできたのだろう。

 遠いところを見る目。

 辛い事を思い出すような表情。

 苦い顔。

 辛い思いをしてきたのだろうか。

 幸せなことはあったのだろうか。

 いつか、ゆっくり教えてくれるだろうか。

 

 そのいつかの為、私は泣いていて良いのか?


 フェリスは、私を師匠として認めてくれていたのだ。

 失敗しても責めずに、ブリランテと同じく許してくれた。


 なのにここで落ち込むだけで良いのか?


 ダメだろ。

 

 今は、フェリスの優しさに甘えよう。

 彼の優しさに甘えるのはこれで最後。


 今回は大きな失敗。

 もう2度と同じことは繰り返さない。


 そう思ったら少しだけ気が楽になった。

 涙を拭う。


 「はっ、はははっ!ブリランテみたいなこと言いやがって!まったく、いい男になったじゃねぇか!よし、とっととあいつ倒しに行くぞ!」


 フェリスは私を認めてくれていたのだ。

 だったら次は、私が認めていることを伝える番。

 だから、その前に。


 「お前の尊敬する。優しくて強くて美しい師匠がお膳立てしてやるから、しっかり決めろよ!」


 2人でしっかり話をさせなくては。

 私はサティスの元へ飛ぶ。

 「サティス!交代だ!フェリスとしっかり話をして来い!」

 サティスに声をかける。

 私の顔を見て目を見開く。

 「お母様・・・いい顔になったわ」

 微笑み。

 そのまま下へ向かった。

 私はその様子を見送り、娘が削り続けていた首元への攻撃を始めた。

 おそらく、『魔石』はこのあたりだ。

 「『剣舞術』『ガイヤルド』」

 首周りを旋回し、切り込む。

 『ドラゴン』が大きな声を上げる。

 『魔石』が切り込んだ先に現れた。


 「『魔石』が出た!ここを狙え!」


 話し終わったのだろう。

 肩を並べて立つ2人。


 ・・・サティス。

 おまえも良い顔になってるよ。


 「私はお前らなら出来ると信じている!期待もしてる!これからもずっと!!」


 2人に心の底から思っている事を叫ぶ。

 大切な2人の子供が肩を並べている。

 その前に着地。


 「だから・・・」


 2人の顔を見る。


 笑顔。


 確認したと同時に構える2人。

 私は成功を確信する。


 「やっちまえぇえええ!!」


 私の左右を通り過ぎて行った2人。

 振り返る。

 遠くなっていく背中。


 サティスの背中。


 娘の背中。


 隣には、信頼できる親友の子。


 大きくなった。


 まだまだ大きく、強くなる。


 娘の涙を思い出す。

 娘たちの夢を語る瞳を思い出す。


 我儘も良い所だ。

 さっきまで辞めようとしていたやつが思って良い事じゃない。

 それでも私は思ってしまう。


 2人の夢の果てを見たいと。


 そして、首を貫く2人の美しい刺突一閃。


 最後、夕陽の元、落ちた首を後ろにし、嬉しそうに拳を合わせる2人を見て私は決意する。



 こいつらを絶対に『無敵』になるまで育ててやる。

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