サティス 1
何が何だか分からなかった。
皆が何を言っているのかまったく分からなかった。
ただ分かるのはフェリスが怖いという事。
それと。
フェリスがとても小さいという事。
フェリスは王子様だった。
お母様が読んでくれた小説に登場する王子様のような人。
いつでも私を守ってくれて。
いつも優しくて。
かっこよくて。
でも、この震える男の子は誰だろう・・・。
話が終わったのか、私の拘束を解こうとしてくれる男の子。
コルザに何かを言われるたびに震えていく指先。
歪んで今にも泣きだしそうになる顔。
そんな様子に飛び出していきたい気持ちになる。
でも、動けない。
そして、最後。
何かを言われた時だった。
私に寂しそうな顔を向けて飛んで行った。
始めて見るスピードで少年は行ってしまった。
遠くなっていく背中がとっても小さく見えて。
いつも隣にいてくれた男の子が遠くに行ってしまいそうで。
寂しかった。
どんどんボロボロになっていく男の子。
それでも立ち上がる男の子。
何度も何度も。
私より長い間切り込み続ける男の子。
その後ろ姿は知らない人のようでかっこ悪かった。
かっこ悪い。
とってもとってもかっこ悪い。
『王子様』とは比べようもないほどにかっこ悪い。
とってもとってもとってもかっこ悪いはずなのに。
私にとっては、その後ろ姿がとっても素敵な物に見えた。
とうとう男の子は倒れた。
コルザは息を切らしてその場に立っている。
「はぁっ・・・はぁっ・・・手こずったぁ・・・。強いじゃないか!4歳の体力じゃないよ全く」
それだけ言って私の元に歩いてくるコルザ。
いとも簡単に紐を解いてくれた。
私は倒れ込んでいる男の子の元に駆け寄る。
そこにはボロボロの男の子がいた。
「ここまでやるつもりは無かったんだけどね・・・ちょっと熱くなっちゃった」
後ろからコルザが何か言っていた。
「さて、サティス。君に聞きたい事は一つだけ」
私はその男の子を抱きかかえる。
かっこ悪いのにかっこいい男の子。
彼から良く知った匂いと熱が伝わる。
「彼はかっこ悪いかい?」
私はこの男の子を知っている。
知らないはずない。
いつも隣で私を守ってくれている優しい男の子。
今は初めて見るボロボロで、かっこ悪い男の子。
でも、それでも、その姿もとっても素敵で。
「フェリスはかっこいいわよ!」
あぁ、この姿が本当のフェリスなんだと思った。




