4歳 13
「フェリスはかっこいいわよ!」
誰かに抱えられている。
体が痛む。
意識は朦朧としている。
それでも声が聞こえていた。
「だそうだ、君が誰とサティスを重ねているのかは分からないけど、その誰かとサティスは同じなのかい?」
終わって納得した。
コルザは最初から言っていたのだ。
サティスはサティスだと。
前世の『幼馴染』とは違うのだという事を。
これを俺に教えるために、俺のために剣を握ってくれていたのだ。
俺は、ひどい姿をサティスに見せた。
それでも、それでも彼女は。
嫌わないでいてくれた。
その事実が、目頭を熱くさせる。
俺は何を怖がって彼女の成長の機会を奪っていたんだ。
これからは、ブリランテとの特訓は一緒に受けよう。
午前中の体力づくりと体作りも一緒に行おう。
対人戦ももっと経験してサティスの良い練習相手になるんだ。
・・・だが、もし。
確かにサティスは俺の事を嫌わないでいてくれた。
俺はサティスと一緒に強くなりたいと思っている。
だが、今回の酷い姿と敗北を目の当たりにして。
もう必要ないと思われていたらどうしよう。
前世の記憶がフラッシュバックする。
『え?そんな約束覚えてないけど?ま、覚えててもちょっと無理かな?』
確かにサティスが俺を嫌わなかった。
だが、それと一緒に居てくれるかは別だ。
俺を見捨てた幼馴染の冷たい視線を思い出す。
人は、簡単に関係を切るものなのだ。
それが、どれだけ仲が良かった存在でも。
それが、どれだけ大切な約束をした存在でも。
仕方ない、あの時頑張ってなかったのは俺だ。
仕方ない、俺はかっこ悪いのだから。
人は、簡単に関係を切る。
誰だって、必要ないと切り捨てるんだ。
俺は痛む瞼を無理やり開いて薄目を開ける。
俺を抱えていたのはサティスだったらしい。
ぼやけた視界に『深紅』が広がっている。
「サティス・・・俺は必要か?・・・隣に居ても良いのか?」
あまりにも情けないと思う。
60年以上生きた大の大人が、たった4歳の少女に言うような事じゃないと思う。
だが、それでも聞かずにはいられないのだ。
それだけ俺は、俺に自信を持てない。
そんな情けない俺の問い。
返答はすぐだった。
「必要よ!フェリス以外は嫌だわ!」
当然のように言ってくれた。
この子は、俺がその言葉をどれだけ欲していたか分かっていたのだろうか。
思えば前世からそうだった。
俺は誰かに必要とされたかったのだ。
幼馴染でも職場でも、人じゃなくて夢や世界なんて概念でもいい。
必要とされたかった。
俺は何度か瞬きをする。
視界が戻る。
そこにいたのは、俺を見下ろすサティス。
涙目、しかし、真剣な『深紅』の眼差し。
普段結われている髪は下ろされていて、美しい『深紅』のカーテンが視界を包み込んでいた。
俺を心配そうに見つめる『深紅』の瞳が揺れている。
あぁ、この子と一緒に強くなりたい。
俺がずっと欲しかった言葉をくれたこの子と。
俺のひどい姿を見ても嫌わないでいてくれたこの子と。
どこまでも優しい、この子と一緒に。
「サティス・・・一緒に強くなってくれるか?」
サティスと一緒に強くなって、彼女が勝ちたい相手に勝たせてやりたい。
俺も強くなって、彼女の良き隣人として、俺を必要だと言ってくれたこの子を勝たせ続けてやりたい。
彼女の人生を、彼女が満足できるものにしたい。
彼女の夢が強くなりたいと言うならば、一緒に強くなって、誰にも負けないくらい強くなろう。
『勇者伝説』に登場する、『無敵』へと至ったあの女性のように。
誰にも負けない『無敵』に。
だから・・・。
「当然よ!一緒に強くなるのよ!」
だから俺は、強くなる。
身も心も鍛えて、サティスにも負けないくらい強くなって、サティスと対等でありたい。
強くなったサティスが唯一渡り合える相手になりたい。
そして2人で『無敵』になるんだ。
誰が相手でも、俺たち2人なら誰にも負けない。
俺に勝てるのはサティスだけ。
サティスに勝てるのは俺だけ。
それくらい強く。
強くなろう。
これは、言わば俺のこの世界での『夢』だ。
俺は朦朧とする意識の中、コルザに叫ぶ。
「頼む!俺たちを強くしてくれ!!」
「任せて!僕だけじゃなく、皆で2人を強くしてみせるよ!」
体を起こす。
「まぁ、それでも勝つのは僕だ」
視線の先であの嘲笑を浮かべるコルザ。
わざとやっているからか、雰囲気は大分柔らかかった。
頭を下げる。
「ありがとうコルザ。お前は恩人だ」
彼女は暴力的で言葉も足りなかった。
だが、それでもしてくれたことは大きい。
一つ、転生者である俺を家族の一員として認めて貰える機会を作ってくれた。
二つ、俺の『夢』を見つける立役者となってくれた。
三つ、なによりも俺たちをどこまでも強くしてくれる。
きっと真意ではないのだろう。
ボカに言われただけかもしれない。
ブリランテやコラソン、セドロなんかと話し合った結果かもしれない。
それでも俺は、この人を尊敬する。
7歳の少女。
しかし、彼女は間違いなく俺の恩人だ。
この子が従姉で良かった・・・。
俺の意識はそこで途切れた。
翌日、王国の『治療魔術』の使い手に治療してもらって全快。
道場に戻った俺と、すでに始めていたサティスとセドロ、コルザとコラソン、ボカに混ざって特訓を始めた。
ブリランテは用事があるらしく、俺を道場に届けてすぐにどこかに出かけて行った。
全員で特訓していくうちにコラソンが誰よりも強くて驚いた。
なんでもボカと結婚するために『剣舞術』でボカを負かしたと言うのだ。
ちょっと憧れる。
あ、セドロが敬語だったのって圧倒的な力関係か。
とまぁ、ひと月程の滞在でまた少し強くなった俺とサティスは来年こそコルザに勝つと宣言してアロサール家に別れを告げたのだった。
村に戻って来た翌日の早朝。
いつもの丘の上。
「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・大丈夫かサティス?」
膝に手をついて呼吸を整える。
「だっ、大丈夫よ・・・はぁはぁ。こ、こんなに走ってたのね・・・はぁはぁ・・・」
なかなか息が整わないサティス。
しばらくしてサティスの呼吸が整う。
「・・・くっくくく」
突然笑いだした。
「な、なんだよ?」
「ううん、さっきのフェリス、すごい顔だったわ!」
「すごいってなんだよ!酷いこと言うなよ!」
きっと全力失踪していた時の酷い顔面の事だろう。
だから見せたくなかったのに!
「なに言ってるのよ?とっても素敵だったわ」
・・・。
「ん?フェリス?固まっちゃった?」
あっぶねぇ・・・。
ガチで照れるな精神年齢68歳。
相手は4歳の子どもだ!
「な、なんでもない!とりあえず休憩だ!」
俺は誤魔化しながら木に背中を預けて座る。
隣にサティスが来て鞄からタオルを取り出して、汗を拭き始めた。
少しして、落ち着くのを待つ。
俺は、サティスに昨日決めた夢の事を話すつもりだった。
『2人で無敵になる』
俺は、これを『夢』にしたいと思っている。
しかし、この夢はあくまで俺とサティス、2人の夢。
俺だけが思っていても意味はないのだ。
だから、サティスを巻き込むことになる。
嫌がられないと良いのだか。
「・・・サティス。提案がある」
意を決した俺の言葉。
サティスは俺の隣で汗を拭き終えて、首を傾げた。
朝日が昇り始め、俺たち2人を照らす。
黄金色の光がサティスの『深紅』の髪を照らし、心地よい風がそれを揺らす。
「何かしら?」
俺の雰囲気に真剣な話を察したのだろう。
姿勢を正してくれる。
俺は、そんな彼女の『深紅』の瞳を見つめる。
「・・・一緒に『無敵』を目指さないか?」
俺の提案に目をぱちくりとするサティス。
「『無敵』ってあの?『勇者伝説』で『ジュビア』が成った、とっても強い人の二つ名よね?」
確認するように小首を傾げる。
二つ名。
この世界ではどうやら、特定の人物やパーティーには二つ名がつくらしい。
その人物やパーティーの実力、実績等が分かりやすいようにだ。
その中で『勇者パーティー』にいた『ジュビア』には『無敵』の2つ名がついている。
彼女は、幾たびの敗北を経て『無敵』に至ったのだ。
俺は、その姿を思い浮かべる。
何度でも立ち上がるサティスにはぴったりの称号だ。
努力したい俺の目指す場所としても申し分ない。
「その通りだ」
「・・・いいわね。それ」
微笑むサティス。
「コルザはまるで『無敵』のようだったわ。そんなコルザに勝とうとしているんだもの。それくらい目指さないと」
朝日を睨む。
そして頷く。
「えぇ、そうね。目指しましょう『無敵』!」
立ち上がる。
今日は結っていない『深紅』の髪が風で翻る。
俺も立ち上がる。
「俺とサティス、2人で頑張ればなれると思うんだ」
サティスが頷いてくれる。
「えぇ、なれるわ」
俺は右の拳を右隣のサティスに突き出す。
「・・・何かしら?」
「・・・俺の前の世界には拳を合わせて繋がりを示したり、気合を入れ合ったりするみたいなものがあったんだよ」
「そうなのね」
言いながらこつんと拳を合わせてくれるサティス。
「サティス。2人で『無敵』になろう!」
「えぇ!なりましょう!2人で『無敵』に!」
あまりにも大きすぎる夢。
はたから見れば、大きな夢を語り合う幼い少年少女。
だが、俺たちは違う。
必ずなる。
必ずなってみせる。
サティスが誰にも負けないくらい強くなるために、俺も強くなる。
2人なら怖い物なしになるまで。
強くなろう。
追記。
それから俺は、早速『順位戦』に参加した。
2位まで勝ち上がっていたジュビアには勝てなかったが、デスペハード、ベンタロン、ベンディスカと良い勝負をすることができ、何とか3位まで勝ち上がることが出来た。
14時にもう一本上げます。




