4歳 11
そして翌週。
良く晴れた夏のある日。
とうとうコルザとの再戦の日がやってきた。
3度目の『ディナステーア』。
『アロサール家』『道場』。
俺とサティス、セドロにブリランテが中に入る。
今日はセドロとボカの手合わせは無いらしい。
今回はサティスのリベンジマッチだ。
サティスが真剣な表情で模造剣を握りながら中心に進んでいく。
俺とセドロ、ブリランテは端の方に行く。
そこには、ブリランテの義理の姉である『コラソン・アロサール』が姿勢よく立っていた。
隣に並んで立つ。
道場の奥で俺の叔父にあたる『ボカ・アロサール』が青い無精ひげを撫でながらニヤニヤと胡坐をかいて座っている。
そんな彼の隣。
姿勢よく瞑想しているこの世界での俺の従姉。
名を『セロコルザ・アロサール』と言う。
呼ぶ時は親しみを込めてコルザだ。
3歳差と言うのはやはり大きい。
7歳になった彼女はすでに130センチを超えているだろう。
去年と同じく瞑想中であったが、その落ち着きは去年とは比べ物にならない。
まるで彼女の周囲が止まっているようだ。
彼女は母親譲りのつり目をゆっくりと開ける。
露わになる透き透った赤みの強い橙色の瞳。
「やぁ、待ってたよ」
こちらを向いて朗らかに微笑む。
去年より少し伸びた一つ結びの栗毛が揺れる。
微笑むと目元はブリランテにそっくりだった。
ゆっくり立ち上がりつつ隣に置いてあった直剣の模造剣を持つ。
「背が伸びたかい?」
言いながらサティスに向かって行き、やがて中心に立つ。
腰を落として構え。
サティスも構える。
「さぁ、おいで。今日を待ってたんだ」
コルザがゆらゆらと揺れながらリズムを取り始める。
・・・あれは。
隣に立つサティスが模造剣を強く握る。
「見ていて!今日は勝つから!」
サティスの気合が入った宣言。
「あぁ、がんばれサティス!」
精一杯の応援。
「行くわよ!!」
獰猛な笑み。
タンタンタンッと綺麗な三拍子のステップを踏む。
「『剣舞術』『フォリア』!」
サティスの一番得意な型。
獰猛な笑顔と共に、三拍子のリズムで斬り進む。
この技が、コルザの構えている『剣舞術』の型にどこまで通用するか。
あのコルザの揺れるリズムの取り方。
あれは『剣舞術』『守』派の。
「『剣舞術』『ブランル』」
サティスの切りつけに合わせてステップを踏んで躱す。
「こんなもん?」
笑う。
それは冷笑や嘲笑の類だった。
まずい。
あれは相手を煽る時の笑い方だ!
笑いながらサティスの攻撃をすべて軽々しくかわす。
「くっ・・・この!」
虚しく空振り続けるサティス。
「・・・はぁ」
コルザはため息を1つ吐く。
一気にサティスの背中へ回り込み、2連激を叩き込んだ。
「いっ!」
とんとんっと、痛みに顔を歪めるサティスを嘲笑いながら後ろに下がるコルザ。
遊んでる。
遊ばれている。
「1年間なにしてたの?」
冷たい視線。
「あ、ごめん。何もしてなかったんだね」
くすくすと笑う。
嫌な笑い方。
明らかな挑発。
俺が飛び出してしまいそうになる。
「そんなはずない!こんなっ・・・こんなに!」
サティスは振り返り、焦った表情でステップを踏みながら前進する。
突発的なリズム上昇。
「『剣舞術』『クラコビィアク』!!」
鋭い突き。
「『剣舞術』『アルマンド』」
綺麗にいなす。
サティスは突きの方向を変えられて壁に向かう。
「くっ!」
足で地面を蹴って勢いを殺し、体を反転。
「『剣舞術』『ジグ』!!」
サティスはステップを踏み、徐々にテンポ上げながら近づく。
「『剣舞術』『ブランル』」
コルザが揺れて攻撃を待つ。
「『ダブル』!」
サティスの素早い切りつけ。
『ジグ』は切りつけるスピードを上げていく『剣舞術』である。
『ダブル』は3段階ある段階の1つ目
リズムを合わせて回避。
「『スリップ』!!」
さらに速度を上げた斬撃。
そのリズムにも軽く合わせて躱すコルザ。
「『シングル』!!」
サティスの出せる最高速度の斬撃。
しかし、コルザは嫌な笑みを浮かべながら軽くリズムを合わせて躱す。
サティスの辛そうな顔。
俺も辛い。
まさか、こんなに遠いとは・・・っ!
俺の予測が甘かった。
俺たちが努力している間もコルザは努力しているのだ。
そこから先は見てられなかった。
体力の限界まで持ちうる限りの『剣舞術』を繰り出し続けるサティス。
それを軽くかわしながら、たまに攻撃するコルザ。
そんな姿を俺は、唇を噛みながらしっかりと見届ける。
これは俺のせいだ。
コルザの強さを見誤った俺の責任。
特訓が足りなかった俺の責任。
今回の試合を無駄にするわけにはいかない・・・。
1つでも多く学べ!
唇が切れたのか、口の中に鉄の味が広がった。
どれだけの時間が過ぎただろうか。
サティスは何回も何回も打ち込んだ。
何回も何回もやり返された。
それでも立ち上がった。
立ち上がれなくなるまで立ち上がった。
ボロボロになっても続けた。
それでも届かなかった。
「ごめんね・・・また負けちゃった・・・」
仰向けに倒れて、息を切らすサティス。
ぽろぽろと涙を流す。
俺は側に寄って膝を着く。
「謝んなよ・・・俺も甘かった」
悔しいなぁ・・・。
目の前が潤んだ。
そうか・・・。
これが悔しいか。
俺は馬鹿みたいに今更その気持ちに気付いた。
胸が掴まれて酷い気持ちだ。
前世ではこんな気持ち知らなかった。
だって、こんなに何かを誰かと一緒に頑張った事なんて無かったんだ。
俺は目元を擦る。
「次は負けないように頑張ろう・・・また来年・・・次は勝とう」
「・・・うんっ」
2人で泣いた。
それはもう声が枯れるほど。
しばらくして落ち着いてきた頃だ。
声が聞こえた。
「・・・怖かったよ」
それは元の位置で瞑想を再開していたコルザだった。
セドロとブリランテ、コラソンとボカはいつの間にか姿を消していた。
大泣きする俺たちに気を使ったのだろう。
俺は立ち上がったサティスに肩を貸して2人でコルザを見る。
「今日、本当は型を使うつもりは無かったんだ」
コルザは瞑想を止めて立ち上がり、こちらに歩いてくる。
「でも使った。それは君の笑みが怖かったからだ」
「え?」
「繰り出してきた型も相当な物だった・・・フェリス、君の差し金かい?例の深夜の特訓の件、ブリランテさんから聞いたよ。『守』派にとって怖い攻め方をされた」
「は?」
「僕は口が上手くないから上手く伝えられるか分からないけど聞いてくれ。この試合、とても楽しかった。瞑想に戻れないくらいに。もう一度戦いたいと疼いてしまう」
嬉しそうな笑みを浮かべる。
その笑みは、先ほどの戦闘時とは違う。
心からの笑み。
「こんな気持ちは久しぶりだ。来年はどうなっているか楽しみでならない」
あんな馬鹿にしたような笑い方や物言いをしておいて?
「この1年、とっても頑張ったんだね」
「さっきと言ってることが違うじゃない!」
サティスが立ち上がって怒鳴り叫んだ。
視線は鋭く睨み付けている。
「それはそうさ、だってあれが僕の戦い方。何が何でも相手に手を出させなければならないからね。苦労したよ。この戦い方に慣れるまで」
「へ?」
「僕は人の努力は笑わない。君たちの1年間はちゃんと意味があったし、ちゃんと強かった」
「ほぇ?」
あ、サティスの頭がバグった。
「ま、今回は僕の方が強かったけどね」
最後にさっき見せた嘲笑をしながら言い残して瞑想に戻って行った。
あいつ・・・本当に7歳か・・・?
「・・・やっぱりもう少し戦いたい。ねぇ、サティス。もう1回やらないかい?」
「いや、休ませてやってくれよ!」




